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何がしたい?に捧げた日 ショートストーリーなのかも分かりません

「生産性のある会話をする人。」
彼女が好きな相手はそんな人だった。
付き合って4年。半同棲を始めて5ヶ月。アラサーの部類に分類され始めた僕達はお互いに熟知し上手い付き合いをしていると思っていた。
彼女はどっちかって言うと効率良くで理論的。物事を深く考え何をするのも慎重派。
僕はその場の感情で行動をする派。楽しければいいや、と考えてしまうタイプでそろそろこの考えの癖もどうにかならないかと思っていた時、衝撃の事実を知った。
それは彼女の口から告白された。
「私、好きな人が居る。」
彼女は覚悟を決めた目つきで言った。
「え?好きな人って僕のこと?」
僕はおちゃらけた頬で会話を続けた。
「違う。別の人。」
「ん?別?」
「単刀直入に言うと別れたい。」
「ほんとに別の人?」
「本当」
記憶に無いくらいテンパっていたと思う。
「え、どこで会った人?どんな人?」
「会社の同僚で、よくある相談に乗ってもらっていたらって感じで、生産性のある会話をする人。」
「なんの相談?」
「2人の、私たちの事。」
「いや、なんで言う必要があるの?2人の事?」
「正直に答えて、結婚する気あるの?」
「、、、うん。」
ちょっと考えてしまった。急に決断を迫られると困る。自分の感情に耳を傾けて行動するのとは違い少し先の事には反応が鈍くなる。
この間は1番悪いやつ。
「今の感じだと無いよね?怒ってるんじゃなくて、あなたはいつもその場の感情で動くでしょ。初めは色んな所に弾丸旅行して私には無い行動力でそこに惚れたって言うのもあるし、でも…。私達アラサーだよ?結婚も子育ても視野に入れて選択していかなきゃ駄目なのに何一つ未来への選択肢をあなたの口から聞いたことない。」
「それを相談してたの?2人の事なのに?」
「うん。忘れているかもしれないけど2ヶ月前に聞いたよね。『これからどうする?』って。その時あなたは『何か分からないけど、今すぐじゃなくていいんじゃ無い?』って。聞き方を変えれば答えも変わったかもしれない。でも『何が?』って聞かずにそのまま放置。もっと私に興味があったはずなのにいつからか何も聞かなくなって、私を彼女としてあんまり見なくなったよね。それで好きな人を作るのもどうかと言われるだろうけど…。」
彼女の顔は先ほどからあまり変わらないが、いくらの僕でもこれだけ居れば分かる。彼女は静かに感情を爆発させていた。言葉と言葉の隙間に僅かに見える彼女の知らない顔。
見えてしまった。困惑は波の様に引いて行き、その姿を愛おしく思ってしまった。
「分かった。」
「ごめん。本当にごめん。」
「謝んないで。確かに僕は傷ついているし本音は別れたく無い。知らない人に急にぐちゃぐちゃにされた気分だよ。でも、君はこのままの関係で幸せにならないし、元々考え方が違う2人だったし。別れよっか。」
「ありがとう。」
「周りには振られたって言うんだよ。」
「え、別れたいって言ったのは私からだよ?実質私が振る事になるよ。」
「好きな人ができて別れるより振られる立場の方がきっと君の恋は上手くいく。僕はいつも自分の好きな事しかしてこなかった。感情に身を任せてその場での『楽しい』ばかり…。その人に何か言われたら『振られた理由は価値観の違い』って言うんだよ。いいね?」
彼女は涙を流すわけでもなく口づけをしてきた。
分からなかった。
僕を困惑の海に突き落とした口。
生産性のある会話をしていただろう唇。
おそらく陳謝と感謝からの行為と捉えれる。
彼女の切り替えは恐ろしく、会話が終わると瞬く間に目の前から居なくなった。
情がないとかではなく目的の為にどう行動するのか。理論型を最後まで捨てない姿にまた惚れそうになった。
知り合ってからの期間、何も渡せなかった。お洒落な記念日も求めているプレゼントもきっと渡せていなかった。

気づいた時にはもう手遅れで、失恋映画の主役になったみたいに痛いほど気持ちが溢れ出た。
ハッピーエンドにもバットエンドにもなる決別は僕を優しく抱擁した。

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