サウロ・ヒベイロ『柔術大学』-黒帯-

1 本稿は、これまで前後6回にわたって紹介してきたサウロ・ヒベイロ『柔術大学』の最後の章である「黒帯」について述べる。
 意外に思われるかもしれないが、『柔術大学』全体の中で本章が(「序論」を除けば)分量的には一番少ない。サウロも「ポジション・ビフォー・サブミッション」というグレイシーの思想を受け継いでおり、本章の中でも「まず良いポジションをキープし、それからサブミッションに移行する」事の重要性を説いている。良いポジションをキープできれば、「サブミッション」テクニックの手数は要らない。
 他人様の事は言えないが、BJJやグラップリングを練習している人々の多くはまず最初に「サブミッション」テクニックを覚えたがる。確かに「サブミッション」テクニックを知っていない事には相手をサブミットすることは出来ないが、そもそも良いポジションを取る、そしてそれをキープできなければ、せっかく覚えた「サブミッション」テクニックを使う機会も訪れない。
 そうであるならば、サウロの言うように、「サブミッション」という概念の中にポジションキープも含めて、「どうすれば相手を制圧できるか?」ということに重点を置いた練習の方が「サブミッション」テクニックの手数を増やすより重要だと私も思う。私のインストラクターの先生は、「究極的にはサブミッションは、十字締めとアームバーと裸締めだけあれば十分だ」と言っておられるが、少なくともアマチュア柔術家にとってある意味ではその通りだとここ最近実感している。前置きはこれくらいにして、『柔術大学』「黒帯」の章の話に移ろう。

2 ①敗北を受け入れる

 柔術は、常に敗北を受け入れなければならない唯一の格闘技だと思う。 その瞬間、別の人が自分よりも優れていることを認識しなければならない。男にとって、これは受け入れがたいことだろう。非常に難しいことだが、柔術ではこれが頻繁に起こることであることを理解する必要がある。
 その事を理解するのが、トーナメントやストリートではなく、道場であって欲しい。 だから、私も道場では学びの場としてトレーニングをしたり、タップしたりしている。

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