誰得?

1 最近柔術を始めた高校生の子が「お年玉で買いました!」と言って、誇らしげにSHOYOROLLのギを見せてくれた。

 SHOYOROLL・・・確かにカッコいい。ただ、SHOYOROLLは「転売ヤー」のせいで正規ルートを通した定価での入手は困難になっているらしい。彼もネットで購入したらしいが、「メルカリ」で新品のSHOYOROLLを検索してみれば、ギ1着の価格が5万円を超えている。
 「転売ヤー」にとって、SHOYOROLLは小遣い稼ぎのための格好の商材なのだろうが、こうして「転売ヤー」がギを右から左に流すだけで儲けている一方で、世間知の乏しい高校生の子が定価で入手する機会を妨げられ、損をしている事態を思うと、私は「転売ヤー」という手合いが好きになれない。
 
 話を戻すと、彼が着て見せてくれたSHOYOROLLのギは「紺色」だった。競技柔術に取り組んでいる方はご存じかと思うが、これまで「紺色」のギは「青」の一種として着用が認められていたが、直近のルール改正で「紺色」は「青」に含まれない事になり、公式試合での着用が認められなくなってしまった。

 彼はまだ柔術の稽古を始めたばかりなのだが、「試合用の道衣として(紺色の)SHOYOROLLをお年玉と貯金をはたいて買った」と聞くとなんともやり切れない思いがする。
 あまりに不憫だったので、私はルール改正の事を口にできなかったが、彼の置かれている状況は「式で着るためにスーツを買ったが、式のドレスコードはタキシードだった」というようなモノである。「ルールブックに目を通していないお前が悪い」と言う意見もあるかもしれないが、相手は柔術を始めたばかりの高校生である。ルールブックに目を通した事すらない人にルール改正をフォローする事が求められるのだとしたら、競技柔術は世間一般の普通の人々の理解を超えた極めて特殊な規範の支配するムラ社会だと公言しているに等しい。

2 私はレプリカジーンズが好きだったせいか、ノンウォッシュのデニムライクな「紺色」が好きである。いわゆるNAVYカラーのギは2着ほど持っていて、「青より紺の方がカッコいいので、何処で手に入れられたのですか?」と複数の会員さんから聞かれた事もある。
 ただ、私にとっての「紺色」のギの原体験は、入門当時のインストラクターの先生が着ていた紫色というか藤色のギで、一見すると作務衣のようだが、何となく達人ぽく見えたので、しばらくその色のギを探し続けた。
 後にインストラクターの先生に尋ねてみると、そのギは先生が試合で勝った時の特別賞としてメーカーから贈呈された別注品で、市場にそのカラーは出回っていないという回答だった。

 私の場合、「紺色」以外にも黒と白のギを持っているから、とりあえず公式試合に出る事に今のところ支障はないが、なぜこれまで「青」の一種として何の問題もなく試合での着用が認められていた「紺色」のギを今禁止しなければならないのか?正直言って理解に苦しむ。

 同じ事は・・・ルール改正自体は少し前になるが・・・ノーギにおけるラッシュガードの規定にも言える。ざっくり言うと、ラッシュガード(トップス)の色は、帯の色と同じでなければならないのである。ルール改正直後にウチの道場から試合に出た二人が、ルール改正を知らずにそれまで使っていたラッシュガードを着用してユニフォームチェックに臨んだところ、「ルール違反で、このままでは失格になる」と脅されて、彼らは慌てて会場の物販ベースで彼らの帯の色に対応した公式のラッシュガードを購入しに行っていた。そして、その試合後に彼らは帯昇格したので、彼らが会場で買わされたラッシュガードを着ている姿を道場で見た事がない。

 ノーギの場合、試合上の二人を区別するために片方の選手は足首にアンクレットを巻いている。このルール改正も、それまでアンクレット着用で事足りていたのに、わざわざ帯の色とラッシュガードの色を対応させて、より一層二人の区別を困難にしなければならない合理的理由が見当たらない。むしろ、「ルールに即して、対戦する二人の優劣を付ける」という試合のコンセプトからすれば、わずかであれ誤審を招く可能性を増加させかねないラッシュガードの新規定はおかしいのではないだろうか。

3 ムンジアルを始めとする大きな試合の動画を見ると、会場脇ににはキモノ(ギ)メーカーの広告板が溢れ返っているのが目に付く。
 「紺色」のギの着用を禁じたのも、ラッシュガードの色と帯の色を対応させる規定も、そうしたルール改正によって、ギないしラッシュガードの買い替えを促し、スポンサーであるキモノメーカーに対して一種のキックバックをしているようにしか私には見えない。
 最近の試合の主催者を見ていると、コロナ前と比べて試合参加者が激増しているにも関わらず、試合へのエントリー料は倍近くに上がっているし、公式試合の商業化が加速しているような気がする。
 エントリー料を収めれば、誰でも試合に出られる事がBJJの一つの魅力だったと思うのだが、昨今のこうした商業化の動きは、普通の人が試合に出るハードルを上げるだけで、長期的にみれば、BJJの普及にとってマイナスにしかならないと思う。
 プロを支えるにはその何十倍のアマチュアが必要である。BJJの裾野を広げる事が、BJJに職業人として携わる人の待遇を改善するための第一歩であるのに、このような商業化による目先の利益追求が続けば、そう遠くない将来に主催者の首を締める結果になるのではないだろうか。競技柔術のオルタナティブとして、日本でも英語圏の後を追うようにして、グラップリング・マッチが興隆するような気がしてならない。

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