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少しの自己紹介と旅のお話

たまにちょっとだけ自分に負荷をかけて追い込みたくなる時があって、ロスまで1人、車で南下してきた。

片道6時間の1人ドライブは、前に友人から「樹海に行く。」とLINEが送られて来て連絡が取れなくなり、とりあえず慌てて富士に向かった時の記録を更新した。友人は結局、樹海を抜けた所にある温泉付きのゴルフ場に行っただけで、笑えない悪戯だったんだけれど。1人樹海は本当に怖かった、森の中から鹿の目がギラギラ反射するし。

自他共に認めるポンコツな私は、幼い頃から何故か度胸とピンチの時ほど冷静になる肝のすわりだけはあったので、さほど気負わずロスへと出発した。


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私は渡米する前のつい最近まで、日系航空会社でCAをしていた。
新卒で入社したが、国際線勤務中の怪我を理由に退職した。もう航空業界には戻れないと思っていたけれど、上司が退職後に立ち上げた客室乗務員を目指す方の為の専門学校の講師として迎えてくれた。
また、救難訓練の教官からスカウトされる程私は声がよく通るらしく、すでに退職された先輩の紹介で、婚礼司会もしていた。

これらとかぶってCAのOG採用試験があり、2度目の入社をし、この度また退職した。3度目も待ってるね!と嫁には出したがいつでも帰って来い的な温かさが嬉しく、私にとってこの航空会社は人生の半分近くをなんらかのカタチで支えてもらっていて感謝しかない。

そんなわけで、私は同じ会社に2度入社したので、幸せな事に同期が人の倍いる。今回の旅の目的は、フライトでロスに来る同期と、ロスに住んでいる同期に会う事だった。


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地平線まで続くワイナリーの幼木の葡萄畑や、牧草の匂いと大きな乳牛、遠くに見えるゴツゴツとした山はロックチョコレートみたいだった。いつも勤務中に空から眺めていた景色とは当たり前だけれど違って見えた。

お客様に案内する景色と、好奇心のまま眺める景色。命を預かって見ていた景色と、自分の命に責任を持って見る景色。

私が運転がどうしようもなく下手な事を知っている2人の同期からは、「女1人でどうかしてる。飛行機で来い。」「夜のパーキングエリア、特にガソリンスタンドとコンビニの組み合わせの所は降りるな!」「携帯用トイレ持参。」とどこまで信憑性のある情報がわからないけれど散々心配された。自分にかけたかった負荷にちょうど良かったし、携帯用トイレを使う事も無く、普通に昼間に長い長いハイウェイは通過出来た。


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1日目 フライトを終えた同期とホテルで合流、知っている後輩も偶然いたのでとりあえず腹ごしらえをしてから、部屋でのろけ話に近い最近の若い子の恋愛事情を後輩からわくわくしながら聞いた。東カレなるアプリで知り合ったと言っていたけれど、なかなか堅実なお付き合いをしているらしい。1泊3日ロスステイの過密スケジュールの彼女らは明日もフライトなので、お酒は一滴も飲まなかったけれど大いに盛り上がった。

店内暗い、若者にオーダーを任せたら揚げ物祭り



2日目 ビバリーヒルズ近くのロデオドライブで別の同期と待ち合わせた。でも観光客だらけで混んでいたからサンタモニカまで移動しようとなった。この時、移動の概念にちょっとバグが起きているのを自覚した。(そもそも西海岸は日本から近いという感覚が私達にはあった。)
サンタモニカはあちらこちらから陽気な演奏が聴こえてくる。「握手とかしちゃダメだよ、チップをねだられるから…。」と友人に忠告され歩いていたら、真っ白い目と歯が目立つ大柄の男性から突然、「$30!」と言われた。いつの間にか私のバックパックに手作り風のCDが挟まっていた。友人が怒ると、「冗談冗談!」と言って私に和解の握手を求めてきた。つい手が出て握手をしたら、「チップ。」と言われた。観光客丸出しじゃないか、観光客だけれど。そんな手を使わずに彼らが売れますようにと願った。

ビーチの入口
素敵なお店を素通りし、意見一致で鉄板焼き紅花に行った


3日目 同期の家に泊まらせてもらい、夜通しで若気の至り話と、新しいビジネスのたぬきの皮算用で朝を迎えた。彼女は今、富裕層向けに和食を中心とした健康的なメニューの提案とそれに合うワイン等をプロデュースする仕事をしている。
アメリカは健康的でバランスの良い食事を摂ろうとするととてもお金がかかる。ファストフードは安価な為、貧富の差が健康維持に影響してくる。保険料も高いから、保険に入れない人もたくさんいる。まだまだアメリカに対して思うところはあるけれど、話が脱線するので一旦戻る。
彼女は現状に停滞する事なく会う度にupdateされていて、私に火をつけてくれる友人の1人だ。


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帰路、同期の忠告に従い人気の多い大きめのパーキングエリアに降りた。居合わせた日本人の長距離トラックのおじさんに、ビスコッティをご馳走になった。そのおじさんは日本のある地域では誰でも知る有名なハンバーガーチェーンを経営していたらしいけれど手放し、人生を考え直す為にアメリカに来て、今は人と関わらないトラック運転手をしている、案外気楽でいいと話していた。

真実がどうかなんてどうでもよくて、人が何かを私に語る時、ただ耳を傾ける時間が好きだ。
長いフライトだとお客様と話をする事がある。悩みでもなく、まとまらない淡い理想や想いのような事を淡々と、ネジを緩めて出た言葉は何者でもない私に対して発せられたのか、そのまま自分に向けてなのかはわからないけれど、そんな場所や時間はあった方がいいよねと思っている。


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人の出会いに恵まれ、もし前世があるのなら私の善行に感謝したい。そして来世もあるなら、今生きているうちに人の為に尽くしたい。この行為は結局はエゴに過ぎないんだけれど、旧約聖書ではエロスとも言うのかな…と、そんな事を思いながら、平原と空しかない真っ直ぐな道をひたすら走る。飛行機で行かなくて良かったと、陽が降りて黄金色に染まる大地を眺めながら思った。
非効率は私に豊かさをもたらしてくれた。

大学で自分のバックグラウンドを紹介する課題があり、私はどこから来てどこへ向かうのか、改めて自分自身に問う旅にもなった。

鎖模様の面白い雲

少しの自己紹介と、これからと今からの長い旅のお話でした。

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