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ドルトムントの話、ブンデスの話 〜第2回〜

2回目の今回はブンデスリーガはどんなリーグ?っていう視点から書いていきたい。これ語り始めると長くなるので、出来る限り簡潔に、めちゃくちゃ噛み砕いて、詳細な背景や経緯は省略して書いていく。


①クラブ名に企業名は原則NG

これはそのままの意味で、クラブ名に企業名は原則として入れてはいけない。原則、と表現しているのは例外があるからで、その例外については後ほど。Jリーグでも同じ決まりがあって、クラブ名に企業名を入れることは出来ない。反対に、例えばWEリーグや日本のプロ野球なんかはクラブ名に企業名が入っている。(例:セレッソ大阪ヤンマーレディース、阪神タイガース など)

②50+1ルールの存在

これはブンデスに関するニュースでもよく見かけるワードかもしれない。このルールは、クラブの株式の51%以上はクラブ自身が所有しなければならないというもの。言い換えると、クラブ以外の者はどれだけ頑張っても49%以下の株式しか取得できない。
たとえば超大金持ちのAさんが「金もあるしサッカーに興味あるから、バイエルンの株式をたくさん取得して自分のチームに作り替えるぞ!」なんてことは出来ない仕組みになっている。一人の大富豪や、一つの大企業がクラブを買収出来ないようになっているのだ。

③クラブライセンス制度

ブンデスリーガにはクラブライセンス制度が導入されている。財政面やインフラ面等において厳しい条件が設定されており、その諸条件をクリアしないとクラブ自体がブンデスリーガに登録できず、最悪の場合は3部へと降格となる。

この3つが、ブンデスの特徴的なルールだ。
で、早速だが上記①②には例外がある。

まず①の例外。これは先日リーグ優勝を決めたバイヤー・レヴァークーゼンだ。クラブ名の「バイヤー」とは製薬会社のバイヤー社のこと。このクラブ、そもそもの成り立ちが「バイヤー社サッカー部」だったので、その歴史を考慮されて例外となった。レバークーゼンはバイヤー社が100%株式を保有している。
もしバイヤー社が自らの企業の宣伝のためにサッカークラブを利用しようとしていたのなら、この例外は認められなかっただろう。だがバイヤー社は決してそうではなく、あくまでも自社サッカー部と地域とを一体的に盛り上げていこうという考えだったので、それならブンデスの理念に反しないってことで例外が認められた。

そして②の例外は3つ。レヴァークーゼン、ヴォルフスブルク、ホッフェンハイムだ。
レヴァークーゼンは先ほどと同様、成り立ちが会社のサッカー部。これはヴォルフスブルクも同じで、あのクラブも元々は「フォルクスワーゲン社サッカー部」だ。ということを考えたら、この2チームと母体企業との関係性は切っても切れないので、例外的に「企業がクラブの株式を100%所有する」ことが認められている。

で、ホッフェンハイム。ホッフェンハイムは元々7部や8部が定位置の小さな村の小さなクラブだったが、ディートマー・ホップ氏というホッフェンハイム出身の実業家が長年にわたり支援していて、そのおかげもあって今ではすっかり1部に定着する強豪チームとなった。
実業家がクラブを支援する…というと、湯水のように大金を使って補強しまくるというイメージがあるかもしれないが、ホップの場合は全く違って(もちろん補強はたくさんしているが)ただ短期的な補強ばかりするのではなく、ユース組織を強化したり、インフラ面を整備したり、また練習にたくさんのテクノロジーを導入したり、サッカークラブを盛り上げることで地元も活性化させたりと、その支援は多岐にわたる。
という功績が認められて、2015年にホップがクラブの株式の大半を取得することが認められた。

このように、50+1ルールはDFBによって「この人は長年にわたってクラブを支援し続けている」と認められた場合には例外として株式を過半数保有できる。

で、上記①②③のルールがある理由についてだが、もちろん一番は健全経営を目指して、一つの企業や一人の金持ちが好き勝手にクラブを運営して、飽きたら手放してクラブが消滅するという悲劇を避けるため。

でももう一つ、特に①②に関しては別の理由もある。

それは、ドイツにおける「クラブは市民のもの」という価値観。

クラブは決して企業のものでも、誰か一人のオーナーのもの、金持ちのものでもない。彼らにとって、その街のクラブは、その街に住む市民のものだ。だからクラブの経営は市民が支えなくちゃいけない。市民がグッズを買う、チケットを買う、ファンクラブ会員費を払う。そのお金がクラブに落ちる。そのお金によってクラブは運営される。もちろん、スポンサー収入や放映権収入だってあるしそれなくして経営は成り立たないが、それ以前にまずは市民がクラブに金を落とすことが前提。それが、あるべき姿だという価値観だ。

と考えたら、(決してこれだけが理由ではないにせよ)ブンデスリーガのスタジアムがどの試合も満員なのも納得できる。ファンがクラブを支えるために、主体的にスタジアムへ足を運んでいるからだ。

逆に、一つの企業や一人の金持ちがクラブの経営に多大な影響を及ぼすことを、ドイツ人はものすごく嫌っている印象だ。
先述のホップ氏だってめちゃくちゃ嫌われている。繰り返すが、ホップ氏は決して好き勝手な放漫経営をしているわけではない。地道に、コツコツ、そして長きにわたりホッフェンハイムを支援し、強豪クラブへと押し上げた。

だが、それでもドイツでは嫌われている。特に批判の急先鋒がドルトムントのサポーターだ。ドルトムントは特に、サッカークラブは市民が支えるという意識が強い。だからジグナル・イドゥナ・パルクは毎試合満員だ。

ワンマンオーナーの中身がどうとかではなく、一人の人間がクラブを経済的に支えているその構図自体が受け入れられないのかもしれない。生理的に無理ってヤツなのだろう。

あと①と③に関しては、Jリーグと非常に似ている部分でもある。Jリーグも、クラブ名に企業名を入れるのは禁止だし、クラブライセンス制度があって諸条件を満たさないとリーグに登録できない仕組みになっている。

それもそのはず、Jリーグはブンデスリーガを参考に作られたリーグだからだ。Jリーグ創設当時のチェアマン川淵氏がそう明言している。
Jリーグも、決して一つの企業や一人の金持ちの気分に左右されることなく、市民から広く愛され、長く繫栄できるようなリーグを目指している。

となれば、僕らJリーグファンも、現地のブンデスリーガファンに負けないくらい、毎試合スタジアムに通わなくちゃいけないな、という気持ちになってくる。…よね?

RBライプツィヒの話

ここで余談だが、ブンデスで最も企業色の強いチームと言えば、RBライプツィヒだろう。飲料メーカー・レッドブル社の影響が極めて大きいこのチームは、ドイツ国内でも反発の強いチームの一つだ。

チーム名に企業名禁止って言っている割に、「RB」って入ってるやん!!って思う方がいるかもしれない。RBといえばレッドブルだと連想するのはそう難しいことではないだろう。

しかし、この「RB」の二文字は、決してレッドブル=RedBullの略ではない。つまりチーム名に企業名は入っていない。

RBはRasenBallsportの略。RasenBallsportを直訳すると、”芝生の上でする球技”というような意味。ちなみにそんなドイツ語はなく、創作されたものらしい。日本語で言うと「芝生球技」だろうか。「芝生」という単語も「球技」という単語もあるが、「芝生球技」なんて言葉はないし何を指しているかも分からない。

何はともあれ、つまりRBライプツィヒというクラブ名は、”ライプツィヒにある、芝生の上で球技をするチーム”だという意味になる。

なるほど、これだとチーム名に企業名を入れないというルールを完璧に順守していることになる。

って、んなわけあるか。

(だけど当のライプツィヒに住む人たちは、レッドブル社の手によって地元クラブが強くなることを歓迎していたという意見もあった。おそらくだがライプツィヒにブンデスリーガのクラブがなかったからじゃないか、ということらしい。つまり元々そこに市民に支えられた別のクラブがあったのなら、レッドブル・ライプツィヒは市民に受け入れられなかったかもしれない。)

プレミアとブンデス、そしてバイエルンの話

世界で最も裕福なリーグと言えば、イングランド・プレミアリーグだろう。
まず放映権の値段が段違いだ。ブンデスで最も放映権収入が多いのはバイエルンだが、そのバイエルンの放映権収入と、プレミアリーグで最も放映権収入の少ないクラブとを比べたとき、後者の方が放映権収入が多いという現実がある。それも数十億円レベルで違う。

オマケに、プレミアリーグでは外部からの資本流入が認められており、石油王やアメリカ資本など多くの金持ちの支援を受けることが可能。市場規模も資金力も、全く違うのだ。
そりゃプレミアに世界中からスター選手が集まる。面白いリーグにもなる。

ブンデスは健全経営を目指している分、それよりも育成色の強いリーグだ。
近隣のベルギーやオランダ、オーストリアといったリーグの有望株が、欧州トップリーグへの足掛かりとしてまずはブンデスリーガを選ぶ。日本人選手も、欧州の舞台への足掛かりとしてベルギーやオランダからブンデスというステップを踏む選手は多い。それがブンデスリーガの立ち位置だ。

育成するのは選手だけでなく監督も同じ。プレミアでチームを率いている監督も、元はブンデス出身だという人が何人かいる。

で、ブンデスリーガはほとんどのクラブがこうした「育てる側」だ。逆に、プレミアはたとえ下位チームであっても「買う側」だ。この差は、埋まることはないかもしれない。

決してどちらか片方のリーグを批判しているわけではない。だからブンデスはダメなんだなんて全く思わないし、プレミアも札束攻勢で他所の選手を買っているだけだなんて思っていない。
それぞれのリーグに、それぞれの良さがあってそれぞれの面白さがある。どのリーグを見ているかでマウントを取り合うのは不毛。(レベルが高いのは欧州のサッカーであって、それを見ている我々ではない)

だけど、どうしても一つだけ言いたいことがある。
そんなブンデスの中でも、唯一、欧州のトップレベルでメガクラブと対等以上に戦えているクラブがある。
それがバイエルン・ミュンヘンだ。

僕はドルトムントが好きなので、バイエルンは嫌いだ。両者はライバルで、ドルトムントのとってバイエルンは”目の上のたんこぶ”だからだ。何度も苦渋を飲まされてきた。主力を何人も引き抜かれてきた悔しい気持ちだってある。

でも一方でリスペクトの気持ちもある。本当に偉大なクラブだと思う。心の底から思う。世界で最も凄いクラブは?と聞かれたらバイエルンと答える。

ブンデスではとにかく健全経営が求められる。
放映権収入もプレミアやレアル、バルサに比べたら格段に少ないし、資本の流入を受けることもない。石油王が欲しいもの何でも買ってくれるなんてことも、ない。
それでも、バイエルンはプレミアやレアル、バルサ、PSGといったメガクラブたちと、対等かそれ以上に渡り合っている。中には負債を抱えながら背伸びをして欧州の舞台にしがみついているクラブもあるのに、バイエルンは毎年黒字で、欧州のトップレベルで戦い続けている。
簡単なことではないし、並大抵の努力で成し遂げられるものでもない。

現代のビジネス色の強いサッカー界において、健全経営でトップレベルに立ち続けることがどれほど凄いことか、言葉では説明が出来ない。


最後に

とまぁ、簡単にブンデスリーガってどんなリーグなのかを書いてみた。

要は、ブンデスリーガというのは特定の企業や大富豪に頼らない、市民一人一人が中心となってその街のクラブを支えているリーグだということ。

その分、競争力は低いかもしれない。プレミアやレアル、バルサに比べたらスター選手も少ない。スター監督も少ない。選手も監督も育てるのがブンデスだ。そして育った選手監督はメガクラブへ羽ばたいていく。

でも、その成長過程を見られるのもブンデスを追いかける楽しさの一つ。
そして、その楽しさはJリーグを追いかける楽しさと少し似ているところもあるかもしれない。

あとは今年のレバークーゼンがそうだったように、また香川真司在籍時のドルトムントがそうだったように、成長中のチームが大爆発して、とんでもなく強いチームに化けることもある。すると、またあんなチームが出てこないかなという夢を持ってしまう。それも楽しみなことの一つだ。

あとは近年商業化が進むサッカー界において、ドイツ人はそれを望んでいない、というのも個人的には興味深い話だと思っている。そして、商業化しなくても毎試合満員でリーグが成立しているというのも、素晴らしいことだと思う。

ということで本当に魅力はたくさんあるリーグなので、残念ながらスカパーを契約しないとリーグ戦は見れないというハードルの高さはあるものの、最近はABEMAで数試合だが放送してくれる機会も増えたし、ブンデスを追いかける人がもう少し増えたらな、と。

次はドルトムントの来季のメンバーが固まってきたら、なるべく多くの選手を紹介するnoteを書きたいな。



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