異世界転移をした彼女は異世界の常識を変えようと試みるが、勇者がくそ過ぎて困りました 第三話

 次の日、カナデとイザベラとエミリアの三人は、教会に向かっていた。昨日泊った宿から歩いて数分ほどにその協会はあった。

「教会も見たことある建物だ……。」

 協会は、カナデがもといた世界、日本の函館や横浜、神戸にある外国人が多かった場所にある教会と同じようなものだった。どう考えても、この世界を創造した神様とやらは、日本を参考に適当に作ったとしか思えない。きっと、地球での生命の創造を終えて、新たに世界を作ろうと思い至ったが、新たに考えるのが面倒になって、文字だけいじれば問題ないと踏んだに違いない。

 なんていい加減な神様だ。今度どこかで遭遇したら、一言言ってやりたい気分だった。もしかしたら、自分が初めに出会った女神とやらが創造したのかもしれないが、とりあえず、この世界の創造主に文句の一つでも言ってやりたい気分だった。

 教会の中に入ると、そこには司祭らしき白いローブを身につけた若い男性が出迎えてくれた。イザベラとエミリアは懐から何か札みたいなものを司祭に渡していた。

「あなた方がこの度の魔王討伐に選ばれた「剣士」と「魔法使い」ですか。では、「勇者」も来ていますので、こちらにご案内します。」

 札を確認して、司祭は二人を連れて、一度教会から出て、少し離れた家屋に案内しようとしていたので、慌ててカナデが声をかける。

「待ってください。私のこと、忘れていませんか。」

「おや、あなたも選ばれたのですか。それならば、その証を見せていただかないといけませんな。」

「いや、そんなものは持っていませんが……。」

「司祭、この人も私たちと同じ魔王討伐に選ばれたメンバーの一人らしい。特別に入れてやってもらえないでしょうか。」

 イザベラがカナデのことをフォローする。しかし、司祭はカナデが魔王討伐メンバーであることに懐疑的だった。

「ふうむ。ですが、残りの枠は「聖女」のみ。どう見ても、聖女としての素質があるようには見えませんが。」

 司祭は、カナデの身体をじっとなめるように上から下まで見つめる。司祭のいうことは最もだが、それでは永遠にカナデはもとの世界に戻ることはかなわない。そもそも、魔王を討伐したところで、もとの世界に戻れる可能性は少ないのだが、倒さないと、可能性はゼロである。一塁の望みをかけて、魔王討伐にあたりたいと考えていた。

 しかし、ふと考える。もし、自分が魔王を討伐しなくても、誰かが倒せば問題ないのではないか。だとしたら、わざわざ面倒なことをしなくても、その辺でぶらぶらと生活していれば、いいのではないか。

 そうだ、思えば一人で自立した生活をしなければと思っていた。実家通いで、一人暮らしにあこがれていたことを思い出す。女神に異世界転移させられて、泣く泣くこの世界に来ることになったが、これは良い機会ではないか。今までの知識が役に立つとも思えないが、それでも一人で自立した生活を送ることができるチャンスだ。

 そう思うと、急に魔王討伐が面倒なこととなってくる。自分が「聖女」である証拠とやらもないので、このままとんずらを決め込んでも問題ないだろう。さっそくカナデは先ほどの自分が発した言葉を訂正する。

「すいません。間違えました。私はここでおさらばしま、」

「まだ集まらないのですか。司祭。いつになったら魔王討伐をすることができるのでしょうか。」

「ゆ、勇者様。控えの間で待っていたはずでは……。」

 カナデの言葉は新たな第三者によって遮られた。その男を見た瞬間、これは自分も魔王討伐をしなければならないと思ってしまった。

 カナデは知っていた。司祭が勇者と呼んだこの人物とやらは、自分同様に異世界、つまり日本から来た転移者だろうということに。それからの展開も容易に想像できた。

 想像通りに物事が進むのだとしたら、あまりにもイザベラとエミリアが可哀想すぎる。もともと、異世界転移・転生物でのお約束事に不満を持っていたカナデである。目の前の男を目にして、考えを再度改めた。魔王をこのオタク勇者とともに倒すことに決めた。イザベラとエミリアをオタク勇者の魔の手から守れるのは自分しかいない。

 男は黒髪黒目で、前髪が目を覆い隠すように長かった。前髪によって目が隠れていて、いかにも陰気くさいオタクオーラをまとっていた。服装は、もといた世界の制服だろうか。黒い学ランを着ていた。ということは、高校生ということになるのだが、カナデは頭を抱えたくなった。

 あまりにもテンプレすぎる展開だった。男はどう見ても、見た目からして陰気くさい。カナデはぞくっと鳥肌が立った。大抵、異世界転移する者は、現実世界、もといた世界でコミュ障、オタク、根暗、陰気くさいと相場が決まっている。そうでないにしても、社会に溶け込めない引きこもりや社会に溶け込めないものが大半だ。たまに過労死寸前のサラリーマンもいるようだが、それは今は無視することにした。

 カナデはその転移者とヒロインたちの関係のおぞましい結末を知っている。それこそ、どう考えても、もて要素のない異世界転生者は、神様か女神にチート能力をもらい、異世界で無双することになるのだ。魔王を倒したり、その他の悪の組織を倒したりする。そして、その転移者の周りには、なぜか仲間を称した女性がわらわらと集まってくる。

 お姉さん系、妹系、ツンデレ系、ろり系、ケモミミコスプレ系、清楚系など、男性が好きそうなタイプの女性が勢ぞろいする。どうして、こんなバランスよくいろいろな女性が異世界転移者の周りに集まってくるのか謎だが、そういう仕様なのだ。さらには、その女性ほとんどの服装が目に毒だった。女性のカナデから見ても毒だと思うのだから、男性にとってはどうだろうかと想像したくない。イザベラやエミリアのような格好である。

 女性たちは、ただ異世界転移者の周りに集まるのではない。一緒に魔王討伐や悪の組織を倒すメンバーとなるのだ。男性も加わって倒した方が、効率がいいと思うのだが、メンバーに男がいることはめったにない。異世界転移者をのぞいて。そのせいで、すぐにハーレムの完成だ。

 集まってきた女性は、何が良いのか、勇者の行動に感銘を受けて、あっという間にハーレムエンドまっしくらで見事話はハッピーエンド。

 その展開が目の前で起ころうとしている。それだけは阻止したい。

「私の名前はカナデ。神からのお告げにより、私も魔王討伐に参加することになりました。「聖女」として、魔王討伐に尽力していく所存であります。」

 カナデは、目の前の勇者にはっきりと自分の存在理由を目の前の男に示してやった。すでに魔王を倒さずに、この世界でのんびりと魔王が倒されるのを待っている気持ちはなくなっていた。

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