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First Love

シナリオ・センター基礎科146期卒業生、現在は研修科受講生です。
シナリオ・センター研修科 課題:結婚式にて書きました、オリジナルの脚本です。
ぜひご高覧ください。
今後も、随時オリジナル脚本を掲載していきますので「スキ」や「シェア」どうぞよろしくお願いします!コメントには必ずお返し致します。


人 物

涼(36)男子高校生

涼(36)会社員 

佳祐(15)男子高校生

佳祐(36)会社員

朝比奈(17)ラグビー部部長 

翠(29)佳祐の妻

武田(52)ラグビー部コーチ

 あだ名「タケチ」

神父(72) 


本文

 〇慶應志木高校正門

   「入学式」の看板が出ている

○慶應志木高校体育館

   華奢で髪が長い涼(15)がパイプ椅子に座っている。その隣の席にガタイが逞しく背が高い丸坊主の佳祐(15)がドカッと乱雑に座る。涼が佳祐をちらっと見る。

佳祐「お前立教新座のスタンドオフだよな?」

涼「え?うーん。まあそうだけど」

佳祐「熱!」

涼「ラグビーやるの?」

佳祐「やるから聞いてんだろ」

涼「へえ。ポジションは?まあどうでもいいんだけど」

佳祐「フランカー」

涼「ふうん。そのままだね」

佳祐「いやでも、まじで激熱だわ」

まじで全国行けんだろ。お前のイカれた戦術と判断力があれば」

涼「あの、まだ入るって決めたわけじゃないんだけど」

佳祐「は?何言ってんの?お前頭悪いの?」

涼「中学と高校じゃ次元が違うんだよ。わかるだろ?」

佳祐「しらねえ」

涼「いいか、この繊細な硝子の体じゃあ全国は無理。てか、ここの練習ガチでだるそうだし」

佳祐「ビー部でだるくねえ練習なんてねえだろ」

涼「そういう熱すぎるのも嫌いなんだよね」

佳祐「じゃあ何すんだよ?」

涼「パントマイム」

佳祐「お前やっぱ馬鹿だろ?」

涼「もういいの。ラグビーなんてきついだけで、日本じゃ金になんないんだから」

○慶應志木高校教室(夕)

大柄でドレッドヘアの朝比奈(17)が教室のドアをガラっと勢いよく開ける。教室の生徒が朝比奈をびっくりした目で見る。

教室には佳祐と涼が並んで座っている。

涼だけは振り返らずに少年ジャンプをけだるそうに読んでいる

朝比奈が佳祐に迷いなく近づく。

朝比奈「お前ビー部入れ」

佳祐「はい!あ、あとこいつも」

朝比奈「ああ、噂の天才スタンドオフか。無理だ。その体じゃ。中学ラグビーは別もんだ。頭だけならこいつ以上にキレる奴がいる」

佳祐「でも」

朝比奈「先輩にでもとかねえんだよ」

涼がジャンプから目を離さず面倒くさそうに佳祐に言う

涼「な、言ったろ?」

朝比奈が教室を出る直前に佳祐が朝比奈に急いで駆け寄る。

佳祐大声で叫ぶ

佳祐「こいつの身体、俺が守るんで。だからお願いします。こいつも入れてください」

涼「ちょっ、お前」

佳祐「お願いします!」

佳祐朝比奈に頭を深く下げる

朝比奈「ふんっ」

朝比奈佳祐の胸に入部届を2枚叩きつける。

佳祐前髪をかき上げ天井を見つめて首を振りため息をつく。

○菅平 ホテル城山館 食堂館(夜)

武田(52)「いいかあ、満腹中枢が働く前までにかっこめ」

部員全員「はいっ!」

武田「考えるな」

部員全員「はいっ!」

武田「喰え!」

部員全員「はいっ!」

部員全員が山盛りのどんぶり飯を掻っ込む。


○菅平 ホテル城山館 食堂館脇(夜)

真っ暗闇の中、涼が排水溝の下にひざまづいて泣きながらゲロを吐いている。全て吐ききった後も嗚咽がとまらない。

食堂館から佳祐が火のついた蝋燭1本を右手に、火のついていない蝋燭を左手に出てくる。

嗚咽に気づき佳祐が涼に近づく。

涼は佳祐に気づき、気まずい顔をする。

涼「なんだよ。こっちくんなよ」

佳祐「なんか停電だってよ。ほんとここぼろいよな。普通相場は懐中電灯だろ」

佳祐が涼の傍のに胡坐をかいて座る。

涼「帰れよ」

佳祐「まあまあ」

涼「うぜえな」

佳祐「タケチの脳みそは半分筋肉でできてんだから。話半分にきいときゃいいんだよ」

涼はまだひざまづいている。

蝋燭の灯りが涼の横顔をぼんやり照らす。

涼の頬に一筋の涙が流れる。

涼が顔をしわくちゃにして泣きながら拳を地面にどんどん強くたたきつけていく。

涼「糞、糞っ」

涼の涙がぼたぼたと地面に落ちる。

口の周りにはゲロの残留がついている。

涼「だから、無理だって言ったんだよ。聞いたろ?俺なんか使えねえって。いくら頭とスキルがあったって。通用しねえんだよ。やっぱ諦めときゃよかったんだ。最初から。希望なんか持たなきゃ、こんな絶望しなかったんだ。お前があの時無理やり誘わなければ。俺は、俺は、」

佳祐は涼の横顔の涙を見つめている。

佳祐はそれには答えず、左手の蝋燭に火を移し、涼に渡す。

涼は号泣しながら蝋燭を受け取る。

涼の顔が蝋燭でぼんやりとオレンジ色に照らされる。

佳祐が突然涼を強く抱きしめてキスをする。

涼は驚き目を見開く。唇を離して佳祐は涼を抱きしめながら言う。

佳祐「お前は、俺が守るから」

涼安堵した赤ん坊のように佳祐にしがみつき泣きながら同時に笑いながら

涼「ゲロまみれのキス」

佳祐涼の髪をなでながら

佳祐「臭くて酸っぱい香り」

涼「あはははは」

○結婚式場

佳祐(36)がタキシードを着てウエディングドレスを着た翠(36)と神父(72)の前で向かい合っている。

神父「佳祐さん、あなたは翠さんを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」

一瞬の間が空く。佳祐は参列している涼(36)のあたりをチラッと見る。

参列している親族や友人が少しざわつき顔を見合わせる。

そして、翠にゆっくりと向う。

佳祐「はい、誓います」

涼はぼんやりと顎に手をやり、右手の人差し指と中指で唇を触る。

神父「それでは誓いのキスを」

佳祐が翠の顔の前のベールをゆっくりとあげてゆっくりとキスをする。

拍手喝采が巻き上がる中、涼は茫然とだらっと力のない拍手をする。


○結婚式宴会場

司会「それではこれよりキャンドルサービスとなります。今回は新郎のたっての希望により、サプライズがございます。皆様のテーブルにあります、小さなキャンドルをお手元にご用意ください。新郎新婦がこれより皆様のテーブルの大きなキャンドルに火をともして参ります。テーブルの火が灯りましたらお手元の皆様のキャンドルに火をお灯しください。皆様のキャンドルにはある仕掛けがございます。火が灯りましたら、新郎・新婦からのメッセージが浮かび上がる魔法が掛けられております。それでは、佳祐さん・翠さんその大きな幸せの灯を愛する皆様の心へお灯しください」

会場の照明がゆっくりと落ち暗くなる。

佳祐と翠が大きな1本のキャンドルを持って各テーブルをゆっくりと回っていく。

涼は依然として茫然自失し、だらっと気が抜けている。自分のキャンドルを見るともなく見ている。

佳祐と翠が涼のテーブルにやってくる。

涼は佳祐を見つめる。

佳祐は涼を見つめる。

5秒ほど涼と佳祐は無表情で見つめあう。

翠「佳祐さん、ほら、早く」

佳祐「あ、ああ」

涼のテーブルの大きなキャンドルに火が灯る。

佳祐が次のテーブルへ向かう。

涼は茫然自失でだらっとしている。

テーブルの涼を除く全員が自分の手元の小さなキャンドルに灯を付け終わっても、涼は下を向いている。

友人「おい、涼、早くつけろよ。何なんだよさっきから」

涼「あ、ああ」

涼が自分のキャンドルに火をともす。

キャンドルにゆっくりと文字が浮かび出す。

文字「最初のキスはゲロのFlavorがした」

涼「ふっ、はははは。はははは」

涼の頬に涙が流れる。

涼「馬鹿が」

涼、唇を指でゆっくりと撫でる。


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