オリジナル脚本「私の涙を買ってください」
シナリオ・センター基礎科146期卒業生、現在は研修科受講生です。
オリジナルの脚本です。
ぜひご高覧ください。
今後も、随時オリジナル脚本を掲載していきますので「スキ」や「シェア」どうぞよろしくお願いします!コメントには必ずお返し致します。
あらすじ
株式会社涙屋の就職採用試験を受けにきたレイコは感情がない。
最終試験場として葬式に連れていかれる。
レイコには感情が宿るのか・・・
人 物
篠原レイコ(22)・・・大学4年生で、就活生
鈴木のぼる(22)・・・大学4年生でレイコの恋人
河島 瞳(35)・・・株式会社涙屋社長
本文
◯篠原レイコ(22)の自宅・リビング
整然とした無機質な無駄が一切ない部屋。テーブルに1輪のコスモスがグラスに活けられている以外、およそ生命らしいものが感じられない。テーブルではレイコと鈴木のぼる(22)が向き合って座っている。
渡辺がコスモスを握ってレイコに投げつける。
渡辺「もう、うんざりなんだよ。お前といると。砂時計に話しかけてる方がよっぽど楽しいよ」
レイコ「そう……」
渡辺「出てくよ!」
レイコ「そう……」
渡辺「なんか言えよ!別れる時くらい」
レイコ「わからないの」
渡辺「何が!?」
レイコ「わからないの。こういう時なんて言えばいいか」
渡辺「だろうな。お前には感情がないんだから」
レイコ「うん……」
渡辺「虚しくなるよ」
レイコ「うん……」
渡辺呆れた顔と怒った顔でレイコを睨んで、玄関のドアを激しく閉める。レイコ紅茶をゆっくり飲み干す。
ゆっくりと立ち上がり、コスモスを持ってキッチンの水道でグラスの水を入れ替えコスモスを活ける。
◯株式会社涙屋社長室
河島 瞳(35)が社長室の豪華な皮張りの椅子に身を投げ出すように座り、黒の高級そうなエナメルのピンヒールを社長席に載せている。レイコは見るからに安いリクルートスーツで瞳に対面している。
瞳「初めてだよ。あんたみたいなの」
レイコ「何が?」
瞳「面接で私の質問に全て「別に」と「そう」と、「何が?」で乗り切ろうとするやつ。もう10分経ってるんだぜ。」
瞳が砂の落ち切ったピンク色の砂時計を見せつける。
レイコ「そう」
瞳「まあ、いいよ。行くよ」
レイコ「どこへ?」
瞳「最終試験場」
◯一軒家の玄関前(夜)
瞳「まずお前が行け。死んでる野郎の親友だって言って名を名乗れ。」
レイコ「それから?」
瞳「それだけ」
レイコが瞳を玄関へ押し込む
◯一軒家の一室(夜)
布団の中に男子大学生が死化粧を施されている。周りの親族らしき人々がどんな顔をすれば良いのかわからぬ表情で死体を取り囲んでいる。場の空気はとても冷たい。コソコソと噂話が聞こえる。
男A「自殺だったらしいぜ」
男B「マジかよ」
レイコ「親友のレイコです」
母親らしき人が涙をハンカチで抑え声を漏らさぬようレイコに近づく
母親「ありがとう。本当にありがとう。あの子にも友達がいたのね。初めてよ。私、あの子の友達に会うの。」
母親が泣き崩れる。
レイコは無表情のまま微動だにしない。
母親「かわいそうに。ショックで顔が動かないのね……。抱きしめてもいい?」
母親はレイコの答えを待たず抱きしめる。
瞳が号泣しながら、突然部屋の襖をガラッと開け部屋に飛び込む。瞳、死体に覆い被さるように飛び込み、死体を抱えこみディープキスをする。瞳の深紅の口紅が死体の唇にうつる。瞳、嗚咽しながら死体の目を見ながら号泣し続けている。
瞳「なんで死んだんだよ!」
部屋の中がざわつく。
男Aと男Bがコソコソと他の人に聞こえないように喋る。
男A「おい、あいつ誰だよ」
男B「知るわけないだろ。女じゃねえの随分
ケバいけど」
瞳「幸せもんが!一人だけ先に逝きやがって!私はどうすんだよ!アンタ以上に愛せるやつなんかいるわけないだろ!」
瞳死体の心臓を激しく両拳で叩きつけ
る。
部屋の中がさらにざわつく。
母親が瞳を歯がいじめにして止めようとする。
母「ちょ、ちょっと、なんなんですか。あなた」
瞳母親を振り解き、再び死体の心臓を叩きつける。
瞳「戻れ!戻れ!戻れ!」
瞳死体に覆い被さって泣き潰れる。今まで、冷やかな表情だった男Aの目にうっすらと涙が浮かんでいる。それを知らずに男Bが男Aにこっそりニヤニヤしながら話しかける。
男A「おいおい、80年台のソープドラマかよ」
男B「黙れ」
男A驚いて男Bを見やると、男Bは人目も憚らず号泣している。
男A周りを見出すと、さっきまで冷たかった空気が一転して、皆涙を流している。男Bは生唾を飲み込む。
瞳「戻れ!戻れ!戻れ!戻れ!」
瞳は心臓をずっと両拳で叩き続けているが、段々体力の限界がきてそのペースはゆっくりになっていく。そして、体力が尽きて死体に覆い被さるようにして倒れる。
母「だ、誰か救急車」
皆が騒いでいる中でこっそりと母親が瞳に小さな封筒のようなものを渡し、瞳がすぐに受け取りすぐさま隠す。
瞳意識が戻ってきたように、ゆっくりと体を起こす。そして、しばらくしてゆっくりと立ち上がる。
瞳、カバンから道で拾ったようなコスモスを死体の顔のそばに置く。その様子をレイコが見つめている。
レイコつぶやく
レイコ「コスモス……」
瞳「さよなら、クソ野郎」
瞳が家を出ていくのを見て、レイコが追いかける。
◯歩道(夜)
瞳が気だるそうに歩いている。レイコは瞳と並んで一緒に歩いている。
瞳が時計に目をやる
瞳「10分48秒……か」
瞳が母親から渡されたしわくちゃの封筒を取り出し、乱雑に封筒の封をビリビリと破って中にある1万円札の枚数を数える。
瞳「あのババア、48秒分の4,800円足りりねえじゃねえか。くそっ」
瞳がしわくちゃの1万円札10枚をレイコに乱雑に差し出す。
レイコ「何?」
瞳「就職祝い」
レイコ「え?」
瞳がタバコに火をつけてから、ピースサインをレイコにする。
瞳「合格」
レイコ「あ、あたし、何も……」
瞳「お前見てるとさ、私の姉ちゃんを思い出すよ」
瞳歩道で立ち止まり、一度深くタバコを吸い、夜空を見上げながら話す。
瞳「感情がないってみんなに言われてロボットみたいな弁護士だったよ。死んじまったけどな。」
レイコ「そう……」
瞳「ちょうどお前の年に死んだんだよ」
レイコ「そう……」
瞳「生まれ変わりかもな姉ちゃんの」
レイコ「……」
瞳「なんで、こんな怪しい職業につこうと思ったんだよ。ってか、お前感情ないのにやってけるのか?って、アタシが採用したのか」
瞳がカカカッと笑う。
レイコ「コスモス」
瞳「コスモス?ああ、さっきの」
レイコ「コスモスみたいになりたいから」
瞳「あ、しゃべった」
レイコ「私もコスモスみたいになりたいから」
無表情のレイコの頬に一筋の涙が流れている。
レイコ「コスモスみたいになりたいから」
瞳レイコに微笑む。
レイコ「なれるさ。いつからだって。何者にでもな」
瞳が歩き出す。その背中をレイコがぎこちない笑顔をほんの一瞬だけ浮かべて追いかける。
シナリオ・センター基礎科146期卒業生、現在は研修科受講生です。
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