見出し画像

グリーンウォーター


水槽が濃いみどり色に染まった
春半ばから夏にかけてのカラーリング
季節の陽光の差し込み具合が
植物プランクトンを大繁殖させるためらしい

ひららんひららん
胸びれフリルをなびかせて
ゆるゆるゆったり
くつろぐポチは
某入浴剤の湯に漬かって
ご機嫌でいるみたいに見える
ポチの顔面と向き合えば
ガラスにブチュウ
何とも愛らしいタラコ唇を吸い付ける

ポチがこんなにも人懐っこくなったのは
ほんの数か月前からだ
わが家の「住人」になって
まるっと9年になるけれど
ずっと警戒心を失うことがなかった
食料のスティックを水面に浮かべても
人影があれば食いつかない
近寄ると興奮して荒々しく動き回る
バッシャーンと水を跳ね上げることもある
水替えや掃除のときに
手が体にちょっとでも触れると
全身をたわめて跳ね返す
ところが
体が急に大きくなったなあと感じたあたりから
水底に下りてきて
親しげに寄ってくるようになった

おとなになって知恵がついたのか
老いて悟りの境地を開きつつあるのか
ツンデレだったのか
理由はわからない

思えば水槽の中で
ポチはひとりぼっち
共に泳ぐ仲間がいないばかりか
水草も浮かんでなければ
砂利すらもない
水換えをしたり
食事の世話をしたりする私に
親しみを抱いても不思議ではない
魚類はペットとして飼育しても
コミュニケーションがとれないから
もの足りない
ずっとそう思い込んでいたが
間違っていたのかもしれない
深く関われば親密になれるのかな
そうに思えるようになってきた

ポチの変貌と愛(まな)うさぎのりんくの死とが
たまたま同じ頃だった
妻はボチとりんくが合体したと言い
「ポチりんく」とたびたび呼びかけている

グリーンウォーターになった時期ともポチの変貌は重なる
季節が推移して水槽が透明度を増したとき
以前のようによそよそしいポチに戻らなければいいが――
愛嬌に満ちた顔とにらめっこしながら
ふと心配になることがある






  ▲▼▲  ▼▲▼  ▲▼▲  ▼▲▼

暑い日が続きます。
みなさん、お元気ですか。
ポチは、テキサスシクリッドという種です。

このページへの訪問、ありがとうございます。
来週も木曜日に更新する予定です。
また見に来てください。
私もみなさんを訪ねます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?