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明けない夜

(1194文字)

 小説にできそうなひとネタを思いついた。我ながら素晴らしい着想だと思う。忘れないうちに触りだけ書いておこう。


タイトル:明けない夜

 道端で偶然、彼氏と別れた直後の女性と出会い、瞬く間に意気投合した。もう深夜と言って良い時間である。初対面の人とこんな時間に喫茶店に入るなんて、初めての経験だ。とはいえ相手は失恋直後で情緒不安定なところもある。専ら私が愚痴を聞きつつ慰めるかたちだ。
 どことなくミステリアスな雰囲気を纏っている女性である。こんな素敵な人を振るなんて、元彼はなんて勿体無いことをしたのだと思う。しかしそのおかげで自分はこの女性と出会えたのだから、むしろ元彼に感謝である。
 口下手で語彙も少ない私だが、彼女の話を一生懸命聞き、頑張って自分も話した。多少的を射ていないことでも、必死になって喋っているのが微笑ましく映ったのだろう、いつの間にかお互い笑顔になることが多くなっていた。そこで私はカッコつけてふと、

「明けない夜はないって言うしね」

と言う。
 その瞬間、一瞬だけ時間が止まったような感覚に襲われた。時間が止まった経験を今までしたことはない。しかしそうとしか思えない。女性の表情も一瞬凍りついた。コンマ数秒、周囲の雑音すら消えた。自分の周りの空気すら固まってしまい、全く身動きが取れなくなった。ような気がした。
 時間にして1秒にも満たなかったと思う。本当に一瞬だった。明らかに自分以外の時間が止まったような気がした。しかしその一瞬が過ぎた後は、元の雰囲気に戻った。相変わらず彼女は魅力的で自分の話をよく聞いてくれた。彼女は、ときに多少のヒステリックを演じつつ元彼の悪口を言った。自分と話しているうちに失恋の痛みが和らげられているのだと感じた。
 その後も、比較的和気藹々とした雰囲気になり、お互いのLINEアドレスを交換して別れた。別れる頃には途中感じた時間停止のことはほとんど忘れていた。
 その夜、自室のベッドに横になり、スマホの通知を確認するが、何もなかった。
 少し残念な気持ちになったが、自分からメッセージを送ることはしなかった。
 そしていつの間にか、入眠していた。

 その後、私の夜は明けることはなかった。


 どうだろうか。たとえば本の背表紙にこんなのが書かれていたら、十分に面白そうに感じるのではないだろうか。
 この後は展開次第では、ミステリーでもホラーでもファタジーでも、如何様にも料理できそうだ。なんだかワクワクしてきた。やはり我ながら素晴らしい着想ではないだろうか。
 今が昼であれば、ノートパソコンを持って近所のファミレスに行っているところだろうが、残念ながら夜である。まあ仕方がない。まだ眠るには早いから、もう少し頭の中でプロットを練っておこう。
 時計を見る。まだ日付は変わっていない。まだまだ夜は長い。明ける頃にはどんな物語が出来上がっているか、我ながら楽しみだ。

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