デリーでホームステイ①
その国の事を知るには実際に現地の人の暮らしを覗き、できれば寝食を共にさせてもらうのが一番てっとり早いが、知り合いがいないとなかなかハードルが高いもの。
びっくり仰天、私の初めての海外ホームステイ体験は神々と混沌の国インドだった。
巷で言われる、「インドに呼ばれる」を文字通り経験した人はどれくらいいるのだろうか。少なくとも私のインド行きはこのカテゴリーに入っていると思う。
20代前半、日本の野外音楽フェスティバルでアルバイトをした際に、インド人と知りあった。
彼は屋台のカレー屋を出していて、ひょんな事から挨拶を交わすようになった。数日間の勤務の間、カレーをせっせと作っていた彼は、聞こえてくる海外有名アーティストの演奏など気にも留めていない様子だった。
うだるような暑さの中、重たい寸胴を運んで歩いている彼の額には汗が滲んでいたが、表情はいつも明るく晴れやかだった。
少し親しくなってきた折、「インドに来てください」と言われた。アルバイトの最終日だった。
聞くと、彼のデリーの家は比較的裕福な家らしく、部屋が空いているとのこと。日本語を喋れる友人もいるので心配はいらないと言われた。
当時の自分は、勤めていた美容室を辞め、ヨーロッパに留学する為の資金を貯めていたところで、「しなければならない事」は何もなかった。
フランスに行く宛があり、その為のアルバイトであったが、「インドに呼ばれる」が文字通り起きた事に、内心興奮している自分がいた。
やんわりと行きたい旨は伝え、失礼のないように断った。少なくともその時の私はそうしたつもりだった。
その後東京に戻ると、国際電話の番号から電話がかかかってきた。
「インドにいつきますか?」
唐突にこう聞いてきた電話主は、音楽フェスで出会ったインド人の友人でラージーと名乗る男性だった。
彼はデリー在住らしく、なぜか日本語がなかなか上手だった。
その後もラージーからは電話が何度も来て、飛行機のチケットは買ったか、インドで何したいかを一方的に聞かれた。
このインド人2人の間では、日本にインドに行きたがってる日本人がいるから、世話をしてあげようという話になっているに違いない。
話が早い。早すぎる。
自分が一貫してとってきた曖昧な態度がいけないのだ。
えーと、行きたいかも、、。
が、今すぐ行きたい!に変換されてしまっていた。
時すでに遅し、私は苦笑いで呼ばれるがままにインド行きの航空券を買いにHISのカウンターに向かったのであった。
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