警察史研究の現状(公的機関編)

・はじめに
2024年1月15日、警視庁は創立150年を迎えました。
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/150th/index.html

  現在、当たり前のように街中に設置されている交番の制度も、当時とは形式は異なるものの、同じく150年を迎えるのです。
 普段街を歩くだけで、パトカーとすれ違い、警察官を見て、交番の前を通り抜けてと、まあ見ない日はないといえます。関わりたくない方もいらっしゃるものですが、私たちの生活に常に存在し続けているのです。

しかし、150年余もこの社会に存在し続けた、警察の歴史を知っている人はどれだけいるでしょうか。現在の警察に焦点を当てた時でさえ、その多くを知らない人は多いのではないでしょうか。
今回は、そんなあまり知られない警察史の研究に注目し、その現状への私見を述べていきたいと思います。

・警察史研究の現状
警察史研究の刊行物
 まずは、私が卒業論文作成のために読んだ文献の中でも、公的機関によって編纂された警察史研究をまとめていきます。
 警察史研究で代表されるのは、各都道府県警察が編纂している『警察史』です。東京都、警視庁の歴史をまとめた『警視庁史』は明治編・大正編・昭和前編・昭和中編(上・下)があり、さらに『警視庁年表』、『警視庁百年の歩み』、『警視庁武道90年史』などが刊行されています。
 私は、大正デモクラシー期を中心に研究していたので、警視庁史は明治編・大正編の2冊を購入しました。

また、卒業論文は愛知県警と岐阜県警を中心に研究していたので『愛知県警察史』第1~3巻と『岐阜県警察史』上・下巻も購入しました。

どれも図書館にはあり、国立国会図書館デジタルコレクションでも閲覧できるため、買わなくてもよかったのですが、本は紙で読みたいというこだわりが強く、バイト代から捻出し購入しました。古書サイト、日本の古本屋には多く出品されているので、傷などを気にしなければ、比較的安く、簡単に手に入ります。

 内容としましては、明治維新以降の警察組織の変遷をまとめてますが、近代化以前の、警察的役割を果たした組織をまとめたものもあります。主軸は近代以降で、保安、衛生、営業、交通と各項目ごとに分類して記したものもあれば、各時代ごとや、各社会運動、出来事別にまとめたものもあり、日本警察史を網羅した書物になります。
 ただ、卒業論文で使用したかといわれると、そこまで多用はしませんでした。例えば、1918年の米騒動における動向を、当時の元警察官から聴取するなど、警察的視点からの振り返りがあるものは見られます。しかし、ほとんどは規則からの推測や補足が多く、その実態に迫っているかというと難しいところがあるのです。
 史料が残っていなかったりすると、一冊にまとめた『警察史』があったり、他府県の『警察史』から引用するものも見られます。さらに参考文献を見ると、歴史関連の事典や、県史などの各自治体既刊の刊行物を用いることが多く、新しい史料がみられないことも多いです。警察というだけあって、取り扱う事案も特殊なものが多く、事件事故ともなれば個人のプライバシーに関わるものもあります。そのため、警察が所有している史料を安易に開示できないということがあり、他機関の研究を頼りにまとめたものが多いのも事実だと考えます。
 個人的に最も充実した警察史は、『大阪府警察史』1~3巻、資料編1・2の全5冊だと思います。資料編を2冊、それぞれ規則、所蔵文書を充実させており、ここまであげている警察史は他にないと考えます。

 その他、全国の警察を指揮監督した内務省については、旧内務省の親睦会である大霞会編『内務省史』全4巻があります。明治維新期の警視庁改革などの、大まかな警察政策を見ることができます。
 さらに、先にあげた各都道府県の歴史をまとめた『県史』や『市史』にも、治安行政、警察について基本的に触れられています。岐阜県瑞浪市では、明治維新期における、警察関係者の日記をまとめた資料編があったり、自治体によっては内実を見られるものもあります。しかし、ほとんどは成立当時の簡略的な流れや、その後の組織図を記したのみにとどまるものもあり、実態分析されたものは少ないと言えます。

戦前期の警察史研究
 公的機関による研究は、戦後だけでなく、戦前にもありました。
 例えば警視庁であれば、警視庁設置当初の史料をまとめた『警視庁史稿』上・下巻が、1893年に刊行されています。また、1927年には内務省警保局編『庁府県警察沿革史』全4巻が刊行されており、1~2巻は警視庁史稿を収録、3・4巻はその他府県の、明治初期における警察規則や沿革をまとめています。
 さらに後になって、昭和期に入ると各府県警察が『沿革史』を編纂し始めます。例えば岐阜県警察部は、1936年に『岐阜県警察沿革史』を刊行しています。
 内容は明治維新以後から、当時までの警察組織の変遷をまとめています。しかし、当時の警察の閉鎖的な姿勢の要因も大きく、各分野の取り組みを軽くまとめるのみにとどまるなど、その内実を深く知るには足りません。

 公的機関による刊行物は、研究分析による成果も見られますが、当時の規則や文書を軽く補足したものが多く、資料集みたいな感じです。当然執筆者は当時の警察関係者であり、現場を熟知した、捜査や取り締まりのプロがほとんどなわけで、歴史学のプロというわけではありません。各都道府県警察、こうして歴史的事実をまとめているだけでもすごいことですし、警察史研究の代表資料といえます。

 しかしこれらすべては、警察から見た警察であり、警察的視点に立った分析がほとんどです。一つの組織を見るにしても、内側、あるいは一つの視点からでは正しく研究できたとは言えません。やはり外から見なければわからないことも多くあります。警察史研究は私たち警察以外の研究が重要です。しかし、先に述べた通り、明らかにできない情報もあり、史料の開示がカギとなってきます。
 そのポイントをまとめるべく、次回は警察OBによる研究について触れたいと思います。

 今回触れた公的機関による研究は、一部を取り上げたに過ぎないため、不足などあればコメントいただけるとありがたいです。

この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?