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【関西人がゆく】 #5 大阪・天満橋 「ぼん繁」

「鉄板行く?」
「ほな、ぼん繁や!」
 これは、当時、私たち同僚の間で交わされていた、定時上がりのシグナル。
「いつする?」
「今でしょ!」
 と同じシンプルなテンプレ。

 ところで、鉄板とは「焼き肉」ではない。
 もっぱら、お好み焼きと焼きそばを指し、そこにホルモンなどの脇役たちが加勢する。
 焼き肉に誘う時は、焼き肉に行く? である。
 もちろん私見だが。

 *  *  *

 私は、ある朝、通勤途上で格闘家のチェホンマンに出くわした。
 ぼん繁のすぐそば、京阪ホテルの入り口で、バッタリ、である。

 至近距離。
 かち合う目線。
 握手をせがむしか選択肢がない、天満橋の朝。

 私はおずおずと手を差し出した。
「握手、いいですか」
 彼は、嫌な顔ひとつせず、しかも流暢な日本語で応じてくれた。
 周囲を圧する図体(218センチ)の割に、溢れんばかりの優しい笑顔が素敵であった。
 あと、握り返してくれた手は、画用紙かよ! というぐらい規格外だった。

 高校時代を思い出す。
 放課後、大阪の日本橋をぶらぶらしていたら、前方に赤いスポーツカーが路上駐車している。
 乗っていたのは、夫婦漫才師「大助花子」のお二人であった。
 大阪では、意外と芸人さんに出くわす。
 私は「いつもみてます」と言って、握手を求めた。
 お二人ともにこやかに応えてくれた。
 ただ、驚いたのは、大助さんの顔の大きさである。
 大袈裟ではなく、車の窓よりもデカかった。

 本当だもん。

 多分、時空が、記憶をほんの少しだけ、ほんの少しだけ、歪めていることは否定はしない。
 現在、花子さんが難病に罹り、大助さんが介護しているという。
 私も、うつ病や心臓発作(狭心症)を患い、あの世とは親戚付き合いをしている。
 あのご夫妻に幸在らんことを祈る。

 *  *  *

 さて、ぼん繁。
 お好み焼きで一杯やりたいという方にお勧め。
 ふっくらしたお好み。
 美味いに決まってるやろ。
 あと、忘れてはならないのが帝王……。

 イカバタ。

 イカの切り身とキャベツをバターで焼いて、黒胡椒をはらはら……。
 イカがどいつもこいつも、ぷりっぷりっしやがって、けしからん!
 ビールを際限なく喉奥にビシッと誘導する、交通整理の警察官かよ。
 できすぎや!


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