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生物で学ぶことー個体の話ー


情報伝達について

多細胞生物は、個体が効率よくまた適応的に活動するために、細胞間での協調を必要とする。そのため、細胞間での情報の交換・伝達が重要である。情報には、親から子に伝わる遺伝情報、細胞分裂の際に細胞から細胞に伝えられる情報、受容器神経細胞神経伝達物質を介した情報、ホルモンという化学物質を介して伝えられる情報など様々なものが知られている。

分裂について

生物は、細胞分裂(体細胞分裂減数分裂)によって子孫に遺伝情報を伝え、また、多細胞生物の場合はこれを利用してや成長や増殖を行う。

成長について

個体は生まれてすぐに生殖して増殖できるわけではない。単細胞生物でも分裂後栄養分を蓄え(間期)、ある程度成長して分裂を行い増殖する(分裂期)。

多細胞生物ならば、受精卵という単細胞の状態から細胞分裂、細胞の成長、そして細胞の分化(特殊化・専門化)を経て、生殖可能な段階に達する。受精卵から成体までの成長過程を個体発生と呼ぶ。そして、自己を複製するための増殖を生殖という。

遺伝について

多細胞生物は数十から数百種類もの細胞からなり、その発生は非常に複雑である。そのため発生の過程では、いついつまでにどこに何を作る、まず何を作って、次に何を作るといったプログラムが存在し、それに沿って発生が進行しなければ正常な個体は作ることができない。

例えば、ヒトの赤ちゃんは母体に10カ月程度いるが、これはすなわち、10か月で一人前のヒトを作らなければならないということであって、生まれるまでの期間中に手や足、脳などの発生が間に合わなければならないのだ。また、手を作ったとしても中に神経が通っていなければ手は動かせず、後で神経を付け足すことはできないのだ。

では、このプログラムはどこに存在するかというとDNAに存在する。正常な個体を作るためのプログラムとは、正常な細胞を作り出すプログラムであり、それは様々な細胞に応じた適切なタンパク質を作ることだからである

つまり、正常な発生では、適切な遺伝子が適切なタイミングで発現(機能)することが重要である。

ということで、子供にとっては親のもっている遺伝子をそのまま受け継ぐことが、発生の進行に関して一番確実である。特に、オスとメスから成る有性生殖をする生物では、精子から同じ遺伝子の情報をもらうことで、両親のいずれかの遺伝子が突然変異してしまっていても正常に発生が進むようになっている。その結果、親の特徴は子供に引き継がれるのだ。これが遺伝という現象である。

これは、逆に考えると、特徴の違いは遺伝子の違いによって生み出されるということなので、精子や卵での遺伝子の突然変異は進化の基盤でもある。

恒常性について

生物は生命維持しながら生殖(増殖)のチャンスを待っている。生命を維持するには外界の情報を受け取り、その変化に適応的に対応する必要がある。これは敵が来たら逃げる、餌を見つけ食うという感じだ。しかし、生物は万能ではない。というか細胞が問題なのだ。生きるということは、細胞が生きることなわけだが、細胞は外界の変化に弱いのだ(例えば、温度やpHの変化、細菌やウイルスによる攻撃など)。そのため、生物は恒常性を発達させてきた。

恒常性とは、外界の変化によらず体内の環境を一定に保つ性質のことである。多細胞生物の場合、体の表面など外界に接する細胞が、その情報をほかの細胞に伝え、様々な細胞が活動し体液の状態を自律的に保つことで行われている。たとえば、外気温度が下がると、筋肉の震えや肝臓での化学反応が促進されて熱が生み出され、体温(体液の温度)が保たれるという感じだ。そのための仕組みとして多細胞生物には、神経系内分泌系免疫系腎臓肝臓といった器官系器官が発達しているのだ。

進化について

生物が活動するのは究極的には、生殖し、子孫を残すためである。従って、生き残っていく生物にはより多く生殖を行い、子をできるだけ多く残すための性質が備わるわけだ。これを適応と呼ぶ。そして、個体の適応の度合いを見積もるためには、生殖可能になるまでの生存率と子供の数の積算値(適応度という)が使われ、この値が高いほど集団にこのような性質をもった個体が広がっていくことになる。これが、生物の違いを生み出す大原則である。

つまり、一部の遺伝子の違い(突然変異)が、細胞の違いを生み、さらに個体の性質の違いを生み出していく。そして、もしそれらの性質が適応的なものであれば、似た性質をもった子孫が繁栄するのだ。これが進化(小進化)であり、生物の多様性共通性の根源でもある。

だからこそ、植物は一見多種多様だが、花、葉、茎、根といった基本的な構造は共通している。また、細胞レベルで言うと、どんな植物も程度の差はあれ、ほとんど同じである。したがって、DNAのレベルでもよく似ているはずで、進化的な関係性が近いほどDNAも似ていると考えられる。

だから、生物がどのように進化してきたかということ(進化の歴史)が知りたければ、遺伝子(DNA)やそれから生み出される性質を比べてやることでその近さや進化の歴史を推測することが可能である。このような進化の歴史を系統とよび、これをグラフ状の図で表したものを系統樹と呼ばれている。

生態系について

生物は子孫を残すために生き残らなければならない。また、特に有性生殖をする生物の場合、子孫を残すためにはまず配偶者に出会わなければならない。つまり、厳しい自然環境の中で生き残り、同じ地域に存在している同じ種類の生物に出会わなければならない(つがいを作り、繁殖可能な子が生じる生物同士をと呼び、同一地域に存在する同一種の個体の集まりを個体群という。)。

生き残るためには、周りの環境に耐えるだけでなく、それらを利用しなければならない。では、環境とは何だろうか。環境とは非生物的環境(気候、水、光など)生物的環境(同種・異種の生物)のことである。

この内、植物は非生物的環境と特に密接な関係にある。なぜなら、エネルギー源は光であるし、土壌に存在する無機塩類や水を利用して成長するからである(作用)。よって、気候に応じた植物の適応が起こり(ラウンケルの生活形植生など)、それに応じた植物の分布が見られる。

また、動物は根本的に植物に依存して成り立っているため、植物と対応した分布が見られる。その結果、地域ごとの生物相(バイオーム)も気候と対応する。加えて、気候は緯度や高度により変化するため、それに応じた分布(水平分布垂直分布)が生じる。

このようにして非生物的環境の下で植物が発達してくると、生物も環境に影響を与えるようになる(環境形成作用)。つまり、生物が環境を変化させるのだ。ということは、環境が変化するのだから生物にとっての適応の方向性も変わってくる(日なたが日陰に変化すれば、日陰に適応した生物が有利となるということ)。これは、生物と環境がフィードバックシステム(系)を形成することを意味する

ただし、1つの生物があらゆる環境に適応することは無理ということも重要で、これはトレードオフと呼ばれる。日なたに適応した植物(陽生植物)は、高い光補償点光飽和点を持つが、これは日陰で生存することを犠牲にして得た性質なのである。なので、日陰では生存することが非常に難しい。その逆もまた然りで、陰生植物は日なたで生きることを犠牲にして、日陰の環境に適応している。

このように、環境は刻々と変化していき、それに応じて生物も変化していく。特に、植物におけるこのような変化の例として遷移がある。そして、遷移が生じ数百年もたつと一見変化のない状態、日本における照葉樹林などが形成される(ギャップ更新で維持される)。これを極相とよぶ。とはいっても、極相でも日々変化は生じており(攪乱に伴うギャップなど)、その結果単一な環境にはならず、多様な植物の共存が可能となっている。同様に、動物に関しても多様な環境が、様々な生物の共存を可能にしている。似た環境に生息する生物は、同一の資源を利用することが多く、競争により排除しあうが、多様な環境の下では使う資源を変化させて共存することができる場合が多いのである。

また、食う-食われるという関係(食物連鎖)も生物多様性において重要である。消費者として多くの動物が存在できるのは、生産者である植物が有機物を作り出せるからである。すなわち、消費者は生産者によって支えられている。これを表したものが生態ピラミッドであり、豊富な生産者の存在が多様な消費者の存在を可能にすることを示唆している。従って、生産者の量に影響する要因としてエネルギー栄養塩類が重要になる。特に後者、窒素などの栄養塩類の循環(窒素循環炭素循環)は生物の多様性と密接に関わってくる。

また、近年は逆に消費者、特に高次消費者の及ぼす効果に対する重要性も指摘されている。ある地域から1種の消費者が取り除かれた結果、生物の多様性が崩壊するという現象が報告されたのである。これは、生物間の相互作用が生物の多様性に重要であることを示している。このように失われて大きな影響がでる生物をキーストーン種と呼ぶ。

このように、生物と環境は切り離して考えることはできない。従って、これらを一つのまとまりとして捉える事が重要であり、このまとまりを生態系と呼ぶ。ただし、環境といってもその範囲は地球レベル(陸、海、空全て)から磯の潮だまりまで様々な規模で存在する。ゆえに環境の問題に取り組む際には、何を焦点にして、そのためにはどの規模の環境を考慮するべきかを、まず考える必要がある。

生態系は環境と生物の複雑な関係性の上に成り立つので、場所とその地域の歴史に応じた特性を持ち、台風や地すべりなど多少の変動ではその特性は変化しない。これを生態系のバランスと呼ぶ。しかし、近年の人間活動は、地球規模から局所に至るまで様々な変化をもたらし、それらを破壊しつつある。その結果、生物多様性の崩壊、ならびに生態系サービスの低下が問題となっている。例えば、外来生物絶滅生物濃縮に代表される公害や地球温暖化に伴う気候変動等の問題である。そのため、各国は政策生態系の保全に関する法の整備を連携して推し進めている。その中で、日本ではヒトと自然が調和し、高い生物多様性が保たれていた里山が見直されてきている。

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