7.奥田英明「精神科医伊良部シリーズ:イン・ザ・プール、空中ブランコ、町長選挙」を読んで

何にも考えたくないけれども、小説を読みたい。つまりシリアスではなく内容が分かり易い小説がいい。
それで思い出したのが奥田英明の伊良部シリーズである。
僕は発売当時に読んで爆笑した記憶があった。もう20年近く経過しているが、内容は覚えていなくても「何だか楽しかったな」という感覚は忘れられないものである。

そう思い立って調べてみると、昨年シリーズの新刊が出ているではないか!新刊を読む前に、以前読んだものを再読することにした。

久々に読んでみると、爆笑までとはいかないが、やはりサラッと読めて面白い。内容はツッコミどころ満載である。当時はまだ若かったため、ツッコまずに笑って読めていた。しかし、今は当時なかった知識を身に付けてしまったため、「現実だとこれ法律に抵触するよな…確か法律では…」と一々考えてしまい笑わず読んだ。年を取ることの弊害とはこういうことだろうか。

しかし、知識を得た分小説を読んで見えるものが増えたように思う。例えば、伊良部が患者に取る態度はほぼ一律に「どんどんその問題行動を続けなさい」というものである。これは逆説療法、もしくは暴露療法的な手段である。
しかし、一般的に逆説療法をとれば問題行動は軽減するのに対し、この小説では問題行動はエスカレートする。なので逆説療法ではない。
ならば暴露療法なのか?と考えるが、暴露療法は恐怖を引き起こす行動をあえて取ることでだんだん恐怖がなくなっていくというものである。小説の患者はどちらかといえば恐怖からの回避行動を勧められている。なので暴露療法でもない。
自分は上記心理療法など本で読んだ程度なので、もしかしたら当てはまる心理療法があるのかもしれない。誰か知っていたら教えてください。

治り方も唐突な印象である。患者は問題行動をマックスまで取り続けると、突然「なんだか治った気がする」と観念的に完治するのである。これは患者がそう感じるだけであって、そのうち行動上で再燃するのではないか?と考えるレベルで根拠がない。

しかし、そういうツッコミどころも含め、この小説は面白い。キャラクターも立っているし、「こんな医者いねーよ」と感じるからこそ、パラレルワールドの世界として楽しめる。
新刊も読みたいなと思う。

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