92歳 三石巌のどうぞお先に 34
三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)
NK細胞のメカニズム
トンネル作りの悪い細胞を撃退
前回はNK(ナチュラルキラー)細胞が減ることに触れたが、話をすこし前にもどそう。
カゼはウィルス感染症だった。とすれば、ウィルスに感染した細胞ができているはずだろう。
NK細胞がはたらけば、感染細胞が死ぬはずじゃないか。だから、カゼぎみだってことはNK細胞の数がたりてないか、あっても活性がおちているか、どっちかだってことのしるしなんだ。
ここまでくると、NK細胞がウィルス感染細胞やがん細胞をやっつけるメカニズムを知りたくなるだろう。それが“理科離れ”でないしるしというもんだ。
NK細胞は、がん細胞やウィルス感染細胞のどてっぱらにトンネルをあけると前に書いたが、おぼえているかな。
これは、船のどてっぱらに穴があいたようなもんだ。そこから水がはいってくるだろう。船はこれでさいごだ。がん細胞やウィルス細胞も、こうなったらおしまいさ。
このときのNK細胞のはたらきぶりは、まったくみごとなものだ。それがいまでは、すっかりつきとめられているんだ。
お目あてのがん細胞かウィルス感染細胞につきあたると、NK細胞は細長い板を何枚もくりだす。それをならべてパイプをつくって、お目あての細胞の膜につきさすんだな。そうすると、パイプにつまった膜のきれはしがぬけることになる。つまり、トンネルが開通するわけだ。このトンネルをとおって中身がぬけだす。外のものははいってくる。そうなったら、さすがのがん細胞もウィルス感染細胞も一巻のおわりさ。ただのゴミさ。
NK細胞のつくる板には名前がついている。パーフォリンっていうんだがね。これはタンパク質だ。ここでもまた、タンパク質だ。からだの問題になると、タンパク質がなけりゃ夜も日もあけないってことが、しみじみわかったんじゃないかな。理科離れのあたまでなければ、の話だがね。
前に、NK細胞の「活性」ってことばがあったな。前のことをわすれちゃいかん。NK細胞の活性は、いったいなんのことか。
NK細胞はパーフォリンがつくれなければデクノボーじゃないか。だから、NK細胞のはたらきは、パーフォリンできまるわけだろう。パーフォリンがどんどんつくれるなら、NK細胞の活性はたかいことになるわけだ。
NK細胞の活性をたかめるものが、インターフェロンだってことは前に書いた。ほかにも、キトサンやなにかがあるって話だった。
三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。
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