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三石巌の分子栄養学講座−4

この文章は三石巌が1984年に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。



ニュートリオロジー

ここまでの話で、分子栄養学というもののアウトラインはおわかりでしょう。それは、遺伝子栄養学、または、DNA栄養学といってよいもの、と私は考えます。

分子栄養学の主張のなかには、従来の栄養学を、古典的なもの、古いものとする思想があります。極端な言い方が許されるなら、古典栄養学は、科学の資格をそなえていない、と考えることができるでしょう。そのことは、古典栄養学の英語が、雄弁に告白していることです。

英語では、栄養学のことを「ニュートリション」といいます。ニュートリションとは栄養を意味する言葉です。英語では、栄養と栄養学とに、区別がありません。それはつまり、栄養学と日本でいわれるものが、学問になっていないことを証明するものといえましょう。

分子生物学という、新しい生物学が誕生して、全ての生命現象が、科学の光をまともにあびるようになった今日、栄養学がその恩恵に浴して悪いわけはありません。それはつまり、栄養学が、科学としての面目をととのえる時期にきた、ということです。

私の分子栄養学は、そこからきているので、まさに、科学としての資格を備えている、と私は考えます。そこで、この栄養学を、「ニュートリオロジー」と名付けたいと思っています。英語のスペルをついでに書けば、ニュートリションはNUTRITION、ニュートリオロジーはNUTRIOLOGYとなります。 ニュートリオロジーは、ニュートリションの語尾に「ロジー」をつけた形のものです。ロジーはロジックのことで、「論理」を意味します。学問というものは、一般に論理をもっているので、英語では、語尾をロジーとする学問がいくらもあります。その例は、生物学のバイオロジー、心理学のサイコロジー生態学のエコロジー、動物学のゾオロジー、人種学のエスノロジー、地質学のジオロジーなど、枚挙にいとまがありません。

いずれにしても、私たちがこれから勉強してゆく栄養学は、ニュートリションではなく、ニュートリオロジーでなければなるまい、と私は考えます。そのような意識の変革があって、はじめて、栄養物質と生命とのかかわり、栄養物質と健康とのかかわりが、論理的に、あるいは理論的に扱われることになるのです。 なお、ニュートリオロジーを、即、分子栄養学としてよいかどうかが、一つの問題になります。私としては、分子栄養学を「モレキュラーニュートリオロジー」とし、それを省略して、たんにニュートリオロジーということもできる、としたらよいかと思います。 この講座は、ニュートリオロジー講座ということになるでしょう。

DNAとは

生命の支配者である遺伝子が、DNA分子のなかにあることは、すでに述べたところでした。DNAが人それぞれに違ったものであり、その個体差がタンパク質に反映していることも、ご存じのとおりです。 では、DNAは、どんなもので、どんな働きをするのでしょうか。

DNA分子は、繩梯子のような形をしています。この繩梯子の各ステップは、真ん中ではずれるようにできているので、チャックに似ています。チャックといえば、普通は布にとりつけられたものですが、布にあたる部分は、ここでは必要がありません。DNAは、はだかのチャックに似たもの、といったらよいでしょう。

はだかのチャックをねじった形が、DNA分子の形をあらわします。 チャックでは、両方からでた棒が、鍵になってひっかかっているでしょう。 その鍵が、次つぎにはずれたとき、チャックは開きます。

チャックでは、鍵のついた棒は、どれも同じ形をしています。ところが、DNAのチャックでは、鍵のついた棒が4種あって、A、C、G、Tと名前で区別されます。そして、AはT、CはG、とつながる相手がきまっているのです。ここのところが、DNAとチャックとの大きな違いになっています。もし、ACGTが四つに色わけされているとしたら、DNAのチャックは、自然の色模様をかもしだすことでしょう。Aをアンバー(コハク色)、Cをチャコール(炭色)、Gをグリーン(緑)、Tをタン(茶褐色)としておいたら、この四文字が色で覚えられて、便利かもしれません。

チャックというものは、きちんと閉じているのが正常の姿ですが、DNAの縄梯子も同じで、ふだんは、ステップの真ん中は、閉じています。そういう状態のDNAは、何の動きもしません。 もし私が、砂糖をなめたとします。すると、私の膵臓の細胞のなかにあるDNA分子のチャックの、ある部分が開くのです。

私たちがよく知っているチャックでは、端から端まで開くのが普通ですが、DNAのチャックは、一部しか開きません。それも、必要なときに開いて、必要がなくなればすぐに閉じてしまいます。 蔗糖が消化管にはいると、それは、ブドウ糖と果糖とに分解します。膵臓から小腸に分泌される膵液がふくむサッカラーゼという酵素の働きで、この分解がおきたのです。膵臓のDNAは、サッカラーゼをつくるために、チャックを開いたことになります。

一般に、DNAの縄梯子のステップがばらばらに開くのは、主として、酵素をつくる必要がおきたときなのです。もしこれが開かなければ、砂糖は消化吸収できないわけです。


三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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