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92歳 三石巌のどうぞお先に 43

三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)


DNAの指令

暗号で示される体の設計図

 ペンの勢いがあまって、NK(ナチュラルキラー)細胞を増やす話がどっかへけしとんじゃったな。でも、悪いことをしたわけではない。横道にいくのもなにも、ボクは『理科というレールを脱線した電車』をもとにもどす作業をうけもつ鉄道作業員の気持ちでいるんだから。

 さて、がん細胞の卵は毎日生まれている。とすれば、NK細胞の出番はなくなることはないはずだ。つまり、骨髄はひっきりなしに、それをつくっているってことだな。

 どうやってそれをつくるのか、それはDNAの指令による。DNAは体の設計図だといったことがあるだろう。それを忘れちゃいかん。話のすすめようがないじゃないか。

 NK細胞の設計図はちゃんとDNAにある。それがなかったら、NK細胞なんかつくれないにきまっているだろう。

 DNAは設計図だといっても、家の設計図みたいなものとは全くちがう。暗号なんだ。字をつかっているわけじゃないが、暗号文みたいなもんだ。

 字にあたるものをむりやり字にすれば、それは、『AUCG』の四つになる。暗号文は、たとえば『AAAAUGCCC』ってなもんだ。これを『AAA』『AUG』『CCC』と三つにくぎると、一つひとつに意味がつく。

 意味とはどういうことか。『AAA』はリジンの意味だ。『AUG』はメチニオン、『CCC』はプロリンの意味だ。どれもアミノ酸の名前さ。DNAの暗号文をといてみると、アミノ酸の名前がずらりとならんでいるだけだ。

 DNAっていうのは遺伝子のことだろう。子が親の体からうけついだ手紙だ。そこに書いてあるものはアミノ酸の名前だけだ。ゆかいになるのはボクだけかい?

 でも、アミノ酸ってものがわからなかったら、なにもびっくりすることはないかもしれん。アミノ酸はタンパク質の成分なんだ。タンパク質とは、アミノ酸のつながったくさりだ。だから、DNAの暗号はタンパク質のつくりを示したものってことになる。

 ボクはこのことを思うたびに感動するよ。なぜかといえば、親からゆずりうけたものはタンパク質のつくりであって、それ以外のなにものでもないという事実は、あまりにもあっさりしているからだ。

 このことからすぐにわかることがある。それはアミノ酸がたりなかったら、親の教えが守れないってことだ。

 タンパク質をつくるアミノ酸は二十種類あるが、どれひとつがなくても、設計図通りのものができんのだよ。

三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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