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三石巌の分子栄養学講座−5

この文章は三石巌が1984年に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。


RNAはDNAのコピー

DNAの縄梯子のステップは、アンバーとタン、チャコールとグリーンというぐあいに、組合わせがきまっています。ばらばらに開いたDNAの縄の一方を見ると、四色の棒が、のれんのようにたれています。この色模様は、実は、暗号になっているのです。

DNAの縄梯子が閉じているとき、暗号はかくれています。それが開いて、四色の棒がぶらぶらになっとき、暗号はあらわれるのです。分子栄養学ニュートリオロジーの話は、DNA分子が開裂して、遺伝暗号が露出するところからはじまります。

暗号というものは、解読されなければ意味がありません。そこで、「解読」が問題になりますが、そこまでゆくのには、いくつかの手続きがいります。 DNA分子が開裂して縄のれんの形になると、すぐに、そのコピーをとる「転写」がはじまります。それには、そのへんにうろうろしている、別種の色の棒が働くのです。

もともと、DNAのチャックをずたずたにばらすと、T字型の分子になります。この字の横棒は、デオキシリボースという糖と、リン酸とのつながったものです。そして縦棒は、前回述べたとおり、四色ありますが、化学物質としては塩基です。その名は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)となっています。これを、アンバー(コハク)色、チャコール(炭色)、グリーン(緑)、タン(茶褐色)としたわけでした。

開裂した縄のれんの色の棒に引きよせられるのは、やはりT字型の分子ですが、このT字の横棒は、リボースという糖にリン酸がつながったものです。それが、次つぎに縄のれんの色のたれにくっついて、チャックを閉じたような形になります。そのときも、チャコールにはグリーンがくっつきますが、アンバーには、タンではなくウルトラマリーン(グンジョウ色、本名はウラシル)がくっつきます。

DNAののれんにくっついて、チャックを閉じる役目をするもう一つののれんをRNAといいます。DNAの塩基はACGTの四種だったのに、RNAの塩基はACGUの四種だということになりました。DNAのDは、デオキシリボースの頭文字、RNAのRは、リボースの頭文字です。

開裂したDNAの縄のれんにへばりついたRNAの縄のれんは、すぐここを離れます。すると、DNAはまたもとのように閉じて、縄梯子をつくって静まりかえってしまいます。 このとき、RNAの縄のれんが、DNAのコピーになっていることが、おわかりでしょうか。DNAのアンバーのたれにはウルトラマリーンが、チャコールのたれにはグリーンが、グリーンのたれにはチャコールが、ということは、色暗号を転写したことになっているのです。

RNAの働きとリボゾーム

DNA分子の一部が開裂し、そこに露出した暗号を転写したRNA分子が生まれるという、おもしろい現象は、細胞の核のなかでおこりました。核は、核膜という膜につつまれていますが、そこには、小さな孔がいくつもあいています。その孔から、RNA分子は外にでるのです。

核をでたRNAのたどりつくところにはミクロゾーム(小胞体)という小器官です。 リボゾームには粗面小胞体、滑面小胞体の二種がありますが、いまは粗面小胞体のほうです。これは、ひだのある饅頭みたいな形のもので、表面に小さな雪だるまのようなものが、ゴマをまぶしたようにはりついています。この雪だるまの名前は、リボゾームです。これが、RNAがもってきた暗号を解読する装置なのです。

核をとびだしたRNAは、ミクロゾーム饅頭の表面に横たわります。すると、その上を、リボゾームがなぞるように動きだします。そして、RNAに転写された暗号を端から解読してゆくわけです。 RNA繩のれんのたれの色が、端から順に、アンバー、ウルトラマリーン、グリーン、チャコール、ウルトラマリーン、ウルトラマリーンだったとしましょう。この暗号は、三つが一組になっています。アンバー、ウルトラマリーン、グリーンはメチオニンの暗号です。チャコール、ウルトラマリーン、ウルトラマリーンはグルタミン酸の暗号です。メチオニンもグルタミン酸もアミノ酸なので、結局、DNAの暗号というのは、アミノ酸を指定するのが役目だったのです。

リボゾームという名の小さな雪だるまがRNAの繩のれんをなぞってゆくと、メチオニン、グルタミン酸というぐあいに、アミノ酸が次つぎにあらわれ、つながってゆきます。そしてそこに、タンパク質がつくりあげられるのです。アミノ酸の鎖は、タンパク質にほかならないからです。

前に、膵臓でサッカラーゼという蔗糖分解酵素がつくられることを記しましたが、この酵素の正体は、ただのタンパク質だったのです。膵臓の細胞核のなかのDNA分子のサッカラーゼ担当の部分が開裂し、そこでRNAへの転写がおこなわれ、そのRNAがミクロゾームへいって、サッカラーゼを合成したわけです。

ここまで読んで、一つの大切なことがおわかりのはずです。それは、DNAという親ゆずりの遺伝子の存在の価値をなくさないためには、タンパク質がどうしても必要、ということです。 私たちの口から入ったタンパク質は、タンパク分解酵素によってアミノ酸になります。それが、血液に運ばれ細胞に入って、リボゾームのところで、私たちに必要なタンパク質につくり変えられるのです。


三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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