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蜘蛛の糸を登って…

いつの日か…いつかきっと…いつか必ず…

或いは夢だったり

或いは希望、願望

その逆に呪いや怨み、復讐や報復だったり

想いの違いは大きくとも

未来志向である事に違いはない

多くの場合、明日を信じる人々だ


虚無

ある時から急激に襲いかかる感覚は

紛れもなく虚無感だった

自分自身の限界を決めつけ
そのルーツさえも否定的である事で
心を遮断してしまう虚無は
時間の経過と共に心を埋めてしまう

欲や望みが消え失せるわけではない

それを入手する過程に辟易として絶望している

結果としての現実を許容できてはいる
だが乗り越えずに死を選択する事さえ
面倒であると判断する

文明や文化の進化が快適や便利性を極める
その恩恵を十分に受けても尚
心に起伏は起きない

それが私の虚無である





ただの妄想かも知れないが…


休日は基本的な母の手助けを行う
1人で暮らす母は買い物も難しくなった
重い荷物を運ぶのは厳しいのだ

バスに乗って母の元へ向かう
大抵の場合座れないのは昼過ぎだからか?

後部のドア付近に立つと
目の前にとても若い派手な女子が2人
寒さを無視した短いスカートで座っていた

街中とは逆の方向に進むバスは
特に高齢者たちが多い
女子高生だか女子大生レベルの子が
乗っているのは割と珍しい

(何処へ行くのだろう?…)

目的地は…なるほどきっとあの巨大なマーケットなのだろうと察しはついた
バスの終点からシャトルバスが出ているからね

彼女たちの真後ろの席が空いたので
僕は座ろうと
彼女たちに近づきシートに付いた手摺りを握る
一瞬、通路側の女の子が僕を見つめる
その瞳は少々上目遣いだった事から
男性を意識したものと想定されるが…

とても可愛いご尊顔の持ち主だったが
子供の危なげな色香に釣られるほど
僕は若くはなかった

真後ろから彼女たちを見れば
肌の艶やハリ、髪の質感や指先
スマホの操作の速さなどからして
明らかに10代後半から二十歳程度だ

平日昼間に巨大マーケットへ遊びに行くのか…中々良い身分だな…などと思いながら

僕は窓の外へ視線を向けた



母の所に着いたら所用を済ませ
大きな激安スーパーへ向かう
ホームセンターと併設しているから
日用品と食料を買える
とはいえ、かなりの広さだ
歩く距離を考えると中々にハードだと思える

母の歩くペースに合わせ
ゆるりと買い物をしていた

すると、1人の女子が目に止まる

特筆すべき見た目ではない
素朴な感じの女の子だ
しかし、よくよく見ると色々と気になる

ボリュームのあるマフラーは毛羽立ち
スニーカーは薄汚れている
アウターもなんだか寒そうで
サイズが少々大きめなボトム
途中財布を確認して
少ない食料品をカゴに入れていた

彼女が所謂「貧困女子」なのか
或いは何か目的があっての節約か
もしくは
極限まで生活に必要なものを削ぎ落とした
ミニマリストなのか
私の目に映るわすがな情報では判別不可能だ

だがとても気になって仕方なかった

来る時のバスで遭遇した女子と
歳は変わらない雰囲気
なのに極端に差があるように思えた

この国は資本主義国家だ
貧富の差なんて当然あって然るべき
身分の格差も想像を絶するほどある
一般の者は掻っ攫った者勝ちの世界

そんな事は誰もが知る現実だ
他国との違いは
かなり社会主義的な側面がある事だろう
即ち受け皿としての防御ネットがある
経済的に破綻しても
社会復帰可能な仕組みが制度としてあるのだ

しかし現実世界ではどうだろう?

可能な限り社会制度にしがみつく者
無知ゆえに制度を利用出来ぬ者
その命を投げ出してしまう者
それこそ色々だ
とりわけ罪人に関してはかなり寛容だ
被害者やその関係者には冷酷だが…

いやいや…
この国の話がしたい訳じゃない

話が逸れたが

私の中での勝手な妄想が
目に映る僅かな情報で膨らんでいた

彼女がどのような経緯で
激安スーパーで添加物たっぷりの食品を
購入するに至るのか
私には分かりようもない事であり
又、その事が彼女にとって幸か不幸かも
知る由はない
ただ、この憤りにも似た感覚は
一体何なのだろう?
胸が締め付けられるような
儚さとほんのりとした絶望感…

同情しているのか?
(クソの役にも立たねえな…)
或いは見下しているのか?
(そんな事はあり得ない)

自問自答しても無駄な事はわかっている

時折目が合う
彼女は後ろに結えた黒髪
その顔周りに垂れた髪を触る仕草をみせた

その行為は私が見つめていたせいだろう

バスの中の女子同様
意識してもらえてありがたく思うけれど
その先に踏み込むような野暮な真似はしない



それにしても私はこんな事を書き連ねて
一体何が言いたいんだ?

格差に対する義憤か?
それとも物質文明に対する警鐘か?
或いは心の豊かさへの疑問か?

いや、そのどれとも違う

私のイマジネーションの陳腐さ加減には
ほとほと呆れるが
あくまで私個人の心の動きについての話だ
他意はない

少なくともスーパーで遭遇した彼女が
心を曇らせない毎日であって欲しい…
そう願うばかりだ


鳥の血に悲しめど魚の血に悲しまず
声あるものは幸福也

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