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【フィナンシェ話#6】幼いころからの金融教育で、子どもの想像力を育む(後編)

 様々なバックグラウンドの方に伺う、子どもとの買い物、お小遣い、お年玉、寄付や投資のこと…。そこから自分の子どもにつながるフィナンシェ(金融家)なヒントを探ります。
前編でまとめた金融教育の必要性やお話はこちら↓をご覧ください。

■ お金を上手に使う練習をして、幸せになる人を増やす

――これまでは株式の話が中心でしたが、その他のお金の使い方についてどのようなことを伝えたいと考えていらっしゃいますか? 貯金(ためる)、寄付(ゆずる)などが他にもあると思いますが。

ナンシー:キャサリンも良く言っていますが、「貯める」というのは誰でも子どもたちは知っているんですよね。親から口酸っぱく「貯めなさい」と言われている。二人で小学校にお金のことを教えに行くと、子どもから「僕、お金めっちゃ持ってんで。何万円持ってるし!」と言ってくるんです。お家でも貯めることが美徳、と教えられている子が必ずいる。

 そこで毎回私たちが子どもやPTA向けに話していることがあります。貯めることは大事なことで目的を達成するには必要なこと。でも「貯めるができたら、使う練習へ進んでほしい」と。いつも話しているリンゴと魚の物々交換の物語があります。物々交換には3つの欠点がある。それは①欲しいものを持っている相手が見つからない、②相手と価値観が違うから交換がなかなかできない、③持っている物が腐ってしまうという、ということ。これらを解決するために生まれたのがお金なんです。交換する目的のお金を持っているだけでは意味がない。「いかに使うか」が大事なんだ、と伝えています。だから貯めることについて、キャサリンもナンシーも子どもたちにほとんど話さないんです。

(こちらの動画でりんごと魚の話を見ることができます)

キャサリン:そうですね。だから、お金をどうやって使うかを話すことが多いです。お金を持っているだけでは何も起きない。でもそれを使うことで、お店の人が喜ぶかもしれない。これは自分の子どもにもよく言っています。お金は、使うことで初めて何かが始まるんです。買ったり、譲ったり、増やしたり、借りて返したりすることで、誰かがどこかで幸せになる、というイメージです。持っているだけよりは、他の方法でお金を回すことが大事だということは何度も言うようにしています。

――お子さんにそのような話をされると、どのような反応が返ってくるんですか?

キャサリン:無反応です(笑)でもニュースや株に興味を持っているようですね。お金や経済に関連する話題が日常に近いところにあり、他の子どもよりは視野が広いと感じます。例えば、これは何で無料なんだろう? と疑問を持ったり。

ナンシー:そうそう、どうやってこの値段でお給料を出すんだろう? と私の子どもも考えたりしますね。ファストフード店の異物混入が報道されたころ、子どもと一緒にそのお店に行った時のことです。小学生の子どもがこう言ったんです。「お母さん、このお店は大丈夫だから、株買っても良いと思う」と。理由を聞くと、「こんなにお客さんが並んでいるから大丈夫だと思う」と答えたのを聞いて、普段話していることがこのように結びついて気付きにつながるのか!と思いました。具体的に話をしたわけではなかったんですけどね。

授業7

(講座の中には決められた予算でピザを作る、という体験もあります)

■ 金融教育の成果とは何か?

キャサリン:学校の先生と話をしていると、教育現場はすぐに見える成果を求めているように感じます。でも、金融教育はすぐに成果が出るものではない。日常生活で、想像力や視野が広がったという成果しかないのが金融教育の弱点だと思います。

ナンシー:そうなんです。学校教育の現場ではすぐに答えを出したがる傾向がありますが、お金の話はすぐに成果が出ないんです。ふとした時に、あの時キャサリンとナンシーが言っていたのはこういうことだったのか、と思い出したり、働き始めてから気付いたり。お金は人生を通して分かっていくものなので、急に分かるものではないと思います。
 金融教育で私たちが伝えたい「お金はありがとうのしるし」というふんわりしている概念。これが日常生活のどこかで結びついていくことを期待しています。

授業8

キャサリン:例えば、キャサリンとナンシーの話を毎年1回小学校で聞く。そして、お買い物に行くときに、”Needs”と”Wants”の話を聞いたな、と子どもたちが思い出す。そういったことで、より良い人生につながってほしい、という思いがあります。

 最近は、プログラミングや英語などはお金を払ったり、予算を使って子どもたちに勉強をさせようとする親や先生方は多い。同様にお金の教育は全員に必要なもの。それなのに金融教育は優先順位が低く、お金を払うなら良いです、と言われてしまいがちで残念に思っています。そのためにも、実際に金融教育で成功する事例を作っていきたいです。

ナンシー:金融リテラシーの面で言うと、生活保護であることが周囲に分かってしまうことを恥ずかしい、と思ってプレミアム商品券の受け取らなかった人が多かった、というニュースを見ました。お金がないことが恥ずかしいこと、と思う風潮も金融リテラシーの低さからくると思うんです。だから、お金を持っていることが偉いのではない、より良く生きるための道具でしかない、という点を特に公立小学校の子どもたちに伝えていきたいです。

授業9


■ 家族でお金の話をしよう!

ナンシー:子どもたちと触れていると、お金が嫌いな子はいないんですよね。みんな大好き。それなのに意外と家庭でお金の話が話題にのぼることが少ない。PTAの講演会でも話している人は少ないですね。

 たとえば、教育ではお金を借りることは良くない、ということで終わってしまいます。一方で、家の中では親子で「お父さん、お小遣いが足りなくなったから、貸して」「いいよ」と言いますよね。そこには信用があるから成り立っている。小さいときから「借りる」ことを学ぶのも大事なことだと思います。そんな家の中でもできることがあるはずです。教育費や習い事の月謝がどれだけあるか、となど知っておいた方が良いこともたくさんあるかもしれない。

――何歳ごろからお家でお金の話をしていましたか?
キャサリン:上の子が小学校1年生、幼稚園2人の時くらいでしょうか。幼稚園でもお金の話は分かりますね。親がお金を子どもに渡すのが怖い、と思って渡さない。それを子どもが親に信用されていないと感じたりしないのかな、と思うんです。だから少額でも信じているよ、という気持ちを込めて渡します。

ナンシー:家でも給料袋をもらっていない、習い事も引き落としなど分かりにくいですよね。だから、金融教育は昔と違うから学校でより習えると良いと思います。意識が高い層ではなくて、特に金融リテラシーを持つべき層に届けたい。
 教えよう!と意気込まずにも、お父さんやお母さん自身がお金のことを好きだったり、丁寧に扱う。株式や企業の話を夫婦でする。お金の計算している姿や買い物をしている姿。お財布をそこらへんに置きっぱなしにしていないか…。など、親の姿を見てお金の扱い方を子どもたちは学ぶと思います。まぁ末っ子はお財布置きっぱなしにすることが多いですが(笑)

キャサリン:大人になってからだとお金のことを話しにくくなるから、幼い子どものうちから話し合った方が良いですよね。

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 金融教育はすぐに成果がでない。でも日常のふとした時に、思い出して活かされるもの。自分がお金を使うことによって、何が起きるのかを想像する力を育むことができる。と、実体験も踏まえて教えていただき、なるほど!と思うことばかりでした。
 そして学校だけではなく、家庭の中でお父さんやお母さんがお金や経済の話題をすることの必要性にも気付かされました。「なんであの時教えてくれなかったの?」と娘が大人になったときに言われないよう、幼いころからお金のことを引き続き会話に取り入れていきたいです。

 キャサリンさん、ナンシーさん、お子様の休校中にも関わらず、お時間を頂戴いたしまして本当にありがとうございました。お二人の授業の様子などWebpageやFacebookページなどで見ることができるので、ご興味持たれた方はぜひ下記リンクからご覧ください。

お話を伺ったのはー
キャサリンとナンシーのお金のおはなし
公立小学校をはじめとする教育機関、金融庁・金融広報委員会など公的機関主催の金融教育の講座を行なう。講座実績は2020年3月時点で200を超える。
・第15回金融教育に関する小論文・実践報告コンクール(2018年)奨励賞受賞
・第14回日本FP学会賞 奨励賞受賞(2019年)

キャサリン:講座ではブルーの白衣を着てひげメガネをしている。 中学生と小学生3人の母親。証券会社に入社して資産運用を学び、その中でも株式投資に興味を持つ。趣味は読書とラジオをきくこと。

ナンシー:講座ではピンクの白衣を着ている。 中学生と小学生2人の母親。小さい頃の夢は教師。教員免許を取得するも縁あって証券会社に入社したことが今の仕事に繋がっている。趣味はバドミントン。


(取材日:2020年4月24日、取材・文:Mari Kamei)
写真はWebpageおよびFacebookページより転載

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