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念願の西部劇を復刻『砦の29人』

何者かに妻を殺されたジェス・レムスバーグ(ジェームズ・ガーナー)は、敵地を通ってコンチョ砦まで幌馬車隊を導くことになる。彼がその依頼を引き受けたのにはある理由があった。それは妻を殺したと思われる男に復讐をすること。一足先に砦に向かったジェスは、真犯人に関する衝撃的な真実を得ただけではなく、幌馬車隊がアパッチの襲撃にさらされていることも知る。隊の救出に向かうジェスだったが・・・。

これがわたしが書いたジャケット解説用の『砦の29人』のあらすじです。公開は1965年でわたしが生まれる1年前。物心ついた時、『砦の29人』のオリジナルサウンドトラック盤、フランシス・レイの『男と女』、ハーブ・アルパートとティファナ・ブラスのLPの3つが音楽との出会いのようなもので、気分が高揚する、幸せホルモンが分泌する、安心感と充足感に満たされる時間を過ごしたものでした。

ニール・ヘフティによるテーマ曲は極めてかっこよく、何度聴いても飽きのこないスタイリッシュな傑作です。ギターリフとブラスの重奏がたまりません。ところが本編の方は、大昔に日曜洋画劇場で観たきり、砦の丘の上の方にライフルを持った男が一人立っている場面、馬具の手入れをしながら誰かと喋っているジェームズ・ガーナーくらいしか記憶がなく、「あれ?シドニー・ポワチエなんか出てたかな」くらいのものでした。

MGMのクラシックをリリースできそうだとわかり、権利が空いていて、かつブルーレイ用のマスターがある作品を調べていると“Duel At Diablo"のタイトルがあるじゃありませんか。これを見つけた時はさすがに興奮しました。他にもまた改めて書きたいと思いますが、カーク・ダグラスの独立第一作『赤い砦』、ロバート・ワイズ監督の傑作『私は死にたくない』、キャロル・リード監督でリクエストの多かった『空中ぶらんこ』などを発見しました。これは何が何でも発売しなきゃ。

『砦の29人』のキーアート用として送られてきたのは北米版で使われている、ガーナーとポワチエが背中合わせの面白くないジャケット。これでは絶対に出したくないと考え、実家に連絡し、『砦の29人』のパンフレットとサントラ盤を取り寄せました。ところが記憶していたものとパンフは色合いが違い、サントラはEP盤が送られてきました。これでは画素数が足りないのではないかと考えたわたしは、急遽LPを買い求め、このLPジャケットからキーアートをスキャニングし、それ以外のタイトルロゴはMGMから送られてきたものを使ってジャケットの構成をしてもらいました。権利元は公開当時のキーアートの使用を嫌がります。そのデザインは誰に権利があるのか文書がないからです。もしもそれを作ったデザイナーがまだ存命で二次使用の権利を主張されると面倒だからです。しかしそのデザイナーが主張したとしても、大半は映画会社に勤める美術部が手掛けていることが多いのではないか、そしてそもそもその権利は映画会社にあるわけで、他社が使用するには問題があるが、その映画会社から本編の権利許諾を取り、権利料を支払ってDVDをリリースするにあたり、公開時のキーアートを使用していったい誰が訴えてくるというのかという強い信念がありましたので、「国内の発売においてキーアートの使用で問題が生じた場合は発売元が責任を負う」と一筆書いて発売に漕ぎ着けました。このやり方で、公開当時のオリジナル・キーアートを再現して、復刻シネマライブラリーではずっと発売してきましたが過去一度も訴えられたり、二次使用の問い合わせを受けたことはありませんでした。

そんなわけで思い入れたっぷりに発売した『砦の29人』ですが、この頃からリーフレットの解説を外注する費用も抑えよう、とにかく赤字にならないためのコスト抑制に努め、1作品でも多く発売したいと考えていました。そのため、ライターさんの原稿料を下げるという失礼な交渉をするよりも、自分で書こうという決心をし、以降、ブルーレイの特典につけるリーフレットの解説を手掛けることになりました。そのおかげで改めて作品の制作秘話や歴史背景を知ることができて、とても充実した仕事時代を過ごせました。

以下、無用のことながら。

「西部劇はよみがえった!軽快な音楽とシャープなアクション!大荒野を吹きすさぶ烈風にのってあの興奮が再び帰ってきた!」というキャッチは、公開当時のパンフレットに書かれていたものの採録です。とにかく公開当時のオリジナルの再現にこだわったわたしなりのモノづくりのつもりでした。

ところがよく考えると「西部劇はよみがえった!」の一言にちょっとひっかかりがあります。65年以前の60年代前半の西部劇はそれほど停滞していたのでしょうか?ちょっと見返してみますと、

1960年『荒野の七人』ジョン・スタージェス監督

1960年『シマロン』アンソニー・マン監督

1961年『馬上の二人』ジョン・フォード監督

1962年『リバティ・バランスを撃った男』ジョン・フォード監督

1962年『西部開拓史』ヘンリー・ハサウェイ監督

1962年『昼下がりの決斗』サム・ペキンパー監督

60年代初頭の西部劇の代表作を見ても、とてもそうは思えません。よみがえるも何も、名作ぞろいじゃないですか。ところが1963年に入るとロバート・アルドリッチ監督が途中で放り出したとしか思えないような出来の『テキサスの四人』くらいしかありません。そして1964年にはあの『荒野の用心棒』が生まれてしまいます。これを皮切りに傍流のマカロニ・ウエスタンが量産され、ハリウッド西部劇は後退もしくは逆にマカロニの影響を受けてしまう、というような年だったのかもしれないですね。そこに『砦の29人』が現れた。これぞわれわれの観たかった西部劇だ、というわけで当時のMGM日本支社の宣伝部のみなさんがつけた惹句が「西部劇はよみがえった」だったのでしょう。

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