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2022年新作映画ベスト10&旧作ベスト25etc

 2022年は悪い意味でいろいろなことがあった年だった。青山真治やジャン=リュック・ゴダール、吉田喜重といった素晴らしい映画を撮ってきた映画監督たちが次々と喪に服した。映画関係以外では、ロシアによるウクライナ侵攻、それに伴う値上げといった経済不安、世論を無視した増税を敢行する悪政と、暗澹たる気持ちに襲われる日々を過ごした。

 そんな気が滅入る出来事しか起こらなかった1年を、「今はとにかく自分にできることを一生懸命やるだけだ!」と信じて、自分のキャパシティ以上に頑張った人たちがたくさんいると思います。本当にお疲れ様でした。私も来年はもう少し心穏やかに、前向きな気持ちで1日1日を歩んでいきたいと思います。

 ただその一方で、「世相が悪いと面白い表現を持った映画が数多く生まれる」というよく聞く言葉通り、良い映画が多かった1年だったと思う。新作映画を追いかけることに意義を見出すことができず、今年は新作は130本程度と例年より少ない鑑賞本数だったし、今年は何度も体調を崩して見逃した作品も少なくなかったが、それでも面白い映画に事欠かなかった。

 とりわけ、日本映画とフランス映画は豊作だった気がする。ただ、豊作だった反面、2010年代の頃のような「これは今年ベスト1だ!」と叫びたくなるような突出した作品がなかったことに一抹の寂さを覚えた。

 ということで、数多くの良作の中で心を鷲掴みにした映画を10本選ぶと、こんな感じ。

(2022年新作映画ベスト10)
①ジャッカス FOREVER
②MEMORIA メモリア
③にわのすなば GARDEN SANDBOX
④ドンバス
⑤EO
⑥ノースマン 導かれし復讐者
⑦核家族
⑧アネット
⑨VORTEX
⑩川ッペりムコリッタ

(次点)
さかなのこ
アムステルダム

『ジャッカス FOREVER』(ジェフ・トレメイン)

 今年30回近く観た『ジャッカス FOREVER』を1位にしてしまったが、正直言って2位以下の作品でコレよりも優れた映画は幾らでもある。だが20年間、股間パッドの耐久テストでヘビー級ボクサーの金タマパンチを食らい、屁に火をつけることに全力をかけたオッサンたちの下らない生き様には、メンタルが不調な時に見返しては元気を貰った。テレビ放送時から20年以上経ち年老いたジャッカス・メンバーたちが己の肉体を痛めつける姿は、映画の垣根を超えたスペクタクルを見た。無意味なことをやり続ける、これぞアート!。

『MEMORIA メモリア』(アピチャートポン・ウィーラセータクン)

 『MEMORIA メモリア』における“石から発する波動で何千年前の過去を追体験する“音の演出は、映画史的発明では!と豪語してしまうのは性急かもしれないが、観客を音で圧倒させる演出には圧巻の一言だった。音だけでなく、コロンビアのメデジンという魅惑的なロケーションを活かしたショットの連続に惚れ惚れした。「映画は画と音でできてる」という原初的な感動があった。

『にわのすなば GARDEN SANDBOX』(黒川幸則)

 『にわのすなば GARDEN SANDBOX』は、移動し続ける映像の快感が詰まっていて、観てる間ずっと心地良さを覚えた映画という点で今年屈指だった。体を小さく振りながら会話するユニークな身体動作も印象的だった。主人公が何ものにも束縛されず地方の町を彷徨う開放感に相反して、他の登場人物たちは町から出ることができない残留思念のような不穏さがあったのも忘れ難い。

『ドンバス』(セルゲイ・ロズニツァ)

 ロシア進攻前のドンバス地方の混乱した様子を、フィクションとドキュメンタリーが入り混じるかのように活写した『ドンバス』は、画面で起きる出来事は悲惨極まりないのに、監督がコメディとして撮っているのが恐ろしい。男が車を民兵組織に徴発された挙げ句、車の身代金を要求されるシーンには、思わず黒い笑いが漏れてしまった。

『EO』(イエジー・スコリモフスキ)

 イエジー・スコリモフスキの新作『EO』は、84歳の老監督が撮ったとは思えないほど若々しい新たな代表作だった。前作の怪作『イレブン・ミニッツ』にあったGoProによる犬主観ショットがさらに拡張され、観客に主人公のロバと同化したかのような錯覚をもたらす、ロバ目線の大胆なカメラワークには度肝を抜かれた。夜の道路をロボット犬が歩行するのを地面スレスレで撮るドリーショットには、「こんなの観たことねぇ‼︎」と良い意味で絶句した。

『ノースマン 導かれし復讐者』(ロバート・エガース)

 古今東西の神話や貴種流離譚を全部乗せにした血みどろ歴史時代劇『ノースマン 導かれし復讐者』は、第一幕こそはスペクタクル的な画のつるべ打ちに「エガースってアクション撮れたの⁉︎」と新鮮な気持ちになるも、第二幕で『オイディプス』や『ハムレット』のような閉鎖的な家族崩壊劇になってからは、『ウィッチ』を撮ったエガースの面目躍如で大いに楽しんだ。エイゼンシュテインからアレクセイ・ゲルマンに至るロシア映画の技法をハリウッド大作で駆使する豪胆さも評価したい。同じ歴史モノ『ベネデッタ』や『グリーン・ナイト』も素晴らしかったが、観終わった後の興奮度の高さでコレを入れた。

『核家族』
(エリン・ウィルカーソン、トラビス・ウィルカーソン)

 今年は「同じ世界を共有できない困難さ」を描いた作品が個人的に多かった気がする。ザッと挙げるだけでも『秘密の森の、その向こう』や『LOVE LIFE』、『夜明けまで、バス停で』があった。そういった映画群の中で突出していた『核家族』は、監督が家族を連れて核実験があった土地や核施設を旅しながら、監督がその土地に残る暴力の歴史をナレーションで憂いでる一方で、監督の子供たちは核爆発があった場所ではしゃぎ遊び、スマホやゲームをイジってカメラに目線を合わせようとしない断絶が辛辣に突き刺さる映画だった。

『アネット』(レオス・カラックス)

 『アネット』はスパークス持ち込み企画ということで、「カラックスの雇われ仕事か」程度の気持ちで鑑賞したら、ミュージカル映画というジャンルを保ちながらも、ミュージカルが持つ映画の嘘を破壊するアナーキーな傑作で心底驚いた。ミュージカル映画の王道を徹底的に貫いた『ウェスト・サイド・ストーリー』も見事だったけど、「ヤられた」という気持ちはこちらの方が強かった。

『VORTEX』(ギャスパー・ノエ)

 『核家族』で前述した「同じ世界を共有できない困難さ」を画面分割を駆使して描き出す『VORTEX』は、今までのギャスパー・ノエ作品から映像のケレンやセックス&バイオレンスを全抜きした結果、ダウナーさと無間地獄な悪夢だけが残った、鑑賞後は心に青黒い染みが張り付くような今年最も重い余韻を残した。9月から88歳の祖父と同居するようになったという私事もあってか、老夫婦が認知症介護を通して「死」を見つめる姿に、他人事ではないものを感じ、ギャスパー・ノエ監督作で1番忘れ難い作品になってしまった。

『川っぺりムコリッタ』(荻上直子)

 今までの過去作がどれもクソだった荻上直子が撮った『川っぺりムコリッタ』が珠玉の一作だったことには感動したし、監督が意図したかは定かではないが山中貞雄『人情紙風船』を代表とする「長屋モノ映画」というジャンルを2020年代に蘇らせたことは、それだけで賞賛に値する。「食」という根源的かつ切実な行動を題材にしつつ、人間が持つ「俗」な部分もきっちり描いているあたりも誠実だと思った。

『さかなのこ』(沖田修一)
『アムステルダム』(デヴィッド・O・ラッセル)

 『さかなのこ』と『アムステルダム』は、どちらも歪な映画であると同時に、この先の人生で何十回も再見するレベルで愛してやまない作品だが、『さかなのこ』脚本家・前田司郎の性暴力、『アムステルダム』は監督のパラハラと、見過ごせない問題があるので次点にした。作品とは関係ないところで起きた事件とはいえ、ベスト10とかに入れて褒めてしまえば事件の風化に手助けしてしまう気がする。

 ベスト10に入れるかどうか悩むほどではないが、すごく面白かった映画を五十音順で40本程度並べてみた。

(面白かったもの)
アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド
アポロ10号 1/2:宇宙のアドベンチャー
RRR
アンネ・フランクと旅する日記
アンビュランス
ウエスト・サイド・ストーリー
エルヴィス
オカルトの森へようこそ
オフィサー・アンド・スパイ
カマグロガ
神々の山嶺
グリーン・ナイト
ザ・テイント/肉棒のしたたり
七人楽隊
女子高生に殺されたい
スターフィッシュ
たまねこ、たまびと
タバコは咳の原因になる
トップガン マーヴェリック
NOPE/ノープ
バビ・ヤール
春原さんのうた
左様なら今晩は
PIG/ピッグ
秘密の森の、その向こう
ファイブ・デビルス
フィルム・インフェルノ
ブラック・アダム
ブラック・フォン
ブラックボックス:音声分析捜査
フレンチ・ディスパッチ
ベネデッタ
炎のデスポリス
ホワイト・ノイズ
麻希のいる世界
マッドゴッド
よだかの片想い
夜明けまで、バス停で
夜を走る
LOVE LIFE
リコリス・ピザ



 新作より旧作ばかり鑑賞していたものの、心身の不調でいつもより鑑賞できず300本未満という鑑賞本数になってしまった中にもオールタイムベスト級のインパクトを与えてくれる映画がいくつもあった。25本選んでみた。

(旧作映画ベスト25)

明日は日本晴れ
アメリカ刑事
ある関係
ウープ・ウープ
エドワード・ヤンの恋愛時代
おかしな求婚
警察官
ゲットクレイジー
地獄の刺客
周遊する蒸気船
スチームバス/女たちの夢
世界の涯に
TOKYO EYES
囚われの女
日曜日は終わらない
眠れる森の吸血鬼
ハナ子さん
北京オペラブルース
マイブラザーズ・ウェディング
めぐりあい
四年三組のはた
ヨーヨー
ラスティ・メン
WANDA/ワンダ

 しかし、どれだけ良い映画に出逢おうがカスには当たる。栄えある2022年ワーストは次の10本。

(2022年ワースト10)
①スパイダーマン:NWH
②哭悲/THE SADNESS
③すずめの戸締まり
④こちらあみ子
⑤ソー:ラブ&サンダー
⑥犬王
⑦ゴーストバスターズ/アフターライフ
⑧シン・ウルトラマン
⑨ブラックパンサー ワカンダフォーエバー
⑩アバター:ウェイ・オブ・ウォーター


①褒めてる人ばかりだから。こういう人間もいるんだよ。

②撮る才能が1mmもない奴の「露悪的でグロテスクなものやれば客が喜ぶ」という魂胆がミエミエな志のない映画。

③「前を向いて生きていこう」というポジティブさに隠された311への風化の加担に、一瞬でもハッとしてしまった自分が許せない。

④子役にギャーギャー騒ぐ演技と運動をさせれば子供らしさが出るという監督の思い違いが、清水宏をはじめとした子供映画愛好家の俺としては相容れないものがあった。発達障害を免罪符にしてるのがさらに噴飯モノ。

⑤タイカ・ワイティティが今後もアメリカで映画を撮り続けたら、アメリカ映画は滅亡する。

⑥大友良英という優れた音楽家に、クイーンのパクリなダサイ音楽を作曲させた湯浅正明に殺意を覚えた。

⑦今年は尊敬する映画人がたくさんお亡くなりになってる中で、現実で死んだ人間をCGで蘇らせて映画の感動の為に利用する姿勢は、思い出すだけで反吐が出る。

⑧「オタクによるオタクのための映画」を全否定するつもりはない。ただ、この映画を悪く言えば人非人のように扱うオタクたちの風潮が不快極まりない(これのせいで、今年はそういった辛い場面に何度も遭遇した)。

⑨お通夜ムードを160分以上も見せられるとは…。

⑩中身がなく冗長な“ヴィジュアル・サーカス”。演出や脚本といった映画を構成する全てが「技術」に奉仕してる。技術は二の次なんだよ。

本来なら『東京2020オリンピック SIDE:B』を入れるハズだったが、公開後に作品に登場した奴らが次々と逮捕されて少し溜飲が下がったので次点。ザマァ。


上:シネマネコ(東京)、下:高崎電気館(群馬)

 私個人の今年最大の転機は、日本全国のミニシアター巡りを始めたこと。2022年は、東京では岩波ホールや飯田橋ギンレイホール等の年季の入ったミニシアターが立て続けに閉館、九州では創業89年の小倉昭和館が火災で焼失と、日本各地で長い歴史を持った映画館が閉業する事態が多かった。そんな出来事を目の当たりにして「老舗の映画館であろうと、いつまでもあるわけじゃないよな…」と思っていたら、シネコン系列を除く日本全国の映画館を巡りたい!という欲望が芽生え、今年の下半期から月1ペースで旅行し各都道府県の映画館を行脚するのを始めた。

 今年は5都道府県15館しか足を運べなかったが、そんな中で最も印象深かったのは、東京都青梅市にあるシネマネコと、群馬県高崎市にある高崎電気館だった。
 シネマネコは昭和初期に建てられた国登録有形文化財を改修した映画館、高崎電気館は1913年に開館した映画館。どちらも長い歴史を持った建物に居を構えるミニシアターにも関わらず、シネマネコの内部は都心のミニシアターと負けず劣らずな清潔でオシャレ空間、高崎電気館は昔の雰囲気がそのまま残った場所で、それぞれ異なった魅力を持った映画館で、こんなことを始めていなかったら出逢えなかったであろう感動を覚えた。

 広島県のシネマ尾道や長野県の上田映劇など行きたい映画館がたくさんあるので、来年は映画をいっぱい観つつ、映画館巡りに拍車をかけていきたい。ということで、2023年もよろしくお願い致します!。

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