見出し画像

野球&ラグビーファンは肩身が狭くなる?神宮外苑再開発

新しい神宮球場の詳細は公表されていませんが、神宮外苑の再開発ってどういうこと?と情報収集のために、東京都の資料を読むことから始めました。冬になってから「冷やし中華始めました」の貼り紙を貼るような、かなり周回遅れの後追い追跡です。

まずは、2018年11月22日の報道発表資料「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」と、2022年8月18日発行・2023年2月17日改訂の「神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート」を読んでみました。2つの資料で、すでに「神宮外苑の再開発は、最初から今現在、神宮球場に通う野球ファンのことは念頭にないのでは?」という疑いがモリモリと湧いています。その扱いは、ラグビーファンも同様。再開発に懐疑的というバイアスをかけて読んでいるとはいえ、現状を無視した計画なのだなぁ、という感想は拭えません。

◆2018年11月22日発表の報道資料

3ページの報道発表資料ですが、この資料の文章に、野球の「や」の字もラグビーの「ラ」の字も出てこないのに、まず驚きました。出てくるのは、「スポーツ施設」です。明治神宮球場と秩父宮ラグビー場の名称が記載されているのは、現在の神宮外苑を説明する地図内のみです。

説明文でいくつか気になった言葉をピックアップしてみます。

●背景と目的

神宮外苑地区では、国立競技場の建替えを契機に、世界に誇れるスポーツクラスターの形成を目指して、神宮外苑地区計画を策定し、まちづくりに取り組んでいる。

東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針【概要版】

「世界に誇れるスポーツクラスター」とはなんぞや?というツッコミもしたいところですが、神宮外苑再開発の資料には、何度も「スポーツ」という言葉が出現します。そのスポーツが何を指すのか、具体的には触れられていません。

●まちづくりの目標
将来像1 高揚感のあるスポーツとアクティビティの拠点

①競技者・来訪者にとって魅力的で、試合のない日でも人を呼ぶことができ、地区のまちづくりの中核を担えるような施設が整備されている。
②身近なスポーツやレクリエーション、交流など多様な目的に利用可能な大小の広場空間が確保されている。

東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針【概要版】

この項は「試合のない日でも人を呼ぶことができ」というところがポイント。欲張りな計画ということが、漂ってきます。「高揚感のあるスポーツ」もなんのことやら?ではありますが。

将来像2 歴史ある個性を生かした多様なみどりの交流の拠点

①省略
②聖徳記念絵画館・いちょう並木などの歴史・文化資源や大規模スポーツ施設群など、地域の個性・特性を生かした景観が形成されている。
③省略

東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針【概要版】

この項でも触れているのは「大規模スポーツ施設群」とだけです。

将来像3 地域特性を生かした魅力的な文化とにぎわいの拠点

①スポーツ施設と相互に関連し合い、魅力を向上させる文化・交流・商業等のにぎわい機能が導入されている。
②以下略

東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針【概要版】

「スポーツ施設と相互に関連し合い」がこの項で注目したいポイントです。これが球場にホテルが併設されたり、商業施設、ホテル、スポーツ関連施設、文化交流施設等が入る高層の複合ビル建設計画への隠れキーワードなのだな、と今になると、読めてきます。

3ページ目に再開発後のマップが掲載されているのですが、ラグビー場も神宮球場も「大規模スポーツ施設」としか表記されていません。「新国立競技場」の表記はあるのに、です。絵画館前の広場の両隣にできる計画になっているテニス場も、この資料では「スポーツ・文化交流施設」という名称です。

2018年時点での報道発表を見ても、野球やラグビー、テニスなど、一部の競技が使用している、現在の神宮外苑の使い方に東京都(明治神宮も?)はご不満だったのでは?と推測したくなりました。この報道資料だけでなく、他の資料にも記載されているバリアフリー化を推進すべきといった、利用者の利便性を改善したいという点には同意しますが、ここまでガラガラポンするほどの再開発が必要か、と疑問を感じます。

◆神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/jinguu_factsheet03.pdf?230224=

2023年2月17日に改訂版が発表されているのは、樹木の伐採を始めとする都民の反対に応えてのことでしょう。上記のPDFになっているファクトシートは、回答をデザイン加工し、わかりやすく表現したもので、最後のページに「環境影響評価書の詳細」に飛ぶリンクが付記されています。

今、東京都と事業者が突き上げを食らっているのが、樹木伐採を中心にする自然環境への影響なので、このファクトシートも環境保全を中心に説明されています。が、全体像を把握するために目を通すと、再開発後に完成するスポーツ施設が、球場やラグビー場、テニスコート等、既存の施設を含む、今の神宮外苑のありようをベースに考えられたものではなく、もろもろを詰め込んで、まったく新しい場所を作り出そうとしているのだな、ということが読めてきます。

建物の具体的な計画図は表記されていませんが、文章がいちいち気になるのですね。スポーツ施設に関する部分を一部、抜き出してみます。

P6:神宮外苑地区におけるまちづくりに関する要請について

このページでは、都民の声などを踏まえ、都が知事名で事業者に対し、要請したことが箇条書きで書いてあります。そのなかから、スポーツ施設については以下の部分です。

1.(前略)魅力的なスポーツ施設の集積と誰もがスポーツに親しめる環境の整備、(後略)

神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート

P9:「計画の概要②」

特定の競技に対応したスポーツのみならず、不特定多数の人が利用できる施設や空間を創出することで、誰もが日常的にスポーツに親しめる環境の形成を目指すことととしてます。

神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート

P10:まちづくりのビジョン

スポーツ拠点として発展してきた神宮外苑の歴史・文化に、多くの人々が触れる機会を作ることで、歴史を継承するとともに、新たな文化として発展させていくためには、〝多様な人々をひきつける魅力的なまち〟とすることが必要です。
●目指すべき将来像
1 高揚感のあるスポーツとアクティビティの拠点
2 (以下略)
●まちづくりのビジョンと方針
2.スポーツ環境の方針
競技の継続性に配慮した段階建替え及びまちに開かれた大規模スポーツ施設の整備
4.スポーツクラスターとしての地区内ネットワークの強化及び歩車分離による歩行者の安全確保

神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート

P11:スポーツ環境について

神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート P11

スポーツ施設の説明ページなので、1ページをまるっとピックアップしました。「世界に誇れる水準の競技環境・観戦環境を備えた施設として更新」とありますが、高層ビルに囲まれた野球場が、果たして世界に誇れるのか?と思います。ちなみに、前述の報道発表資料にもファクトシートにも、施設の老朽化改善のための建て替えについては触れていますが、試合をする選手やチーム目線に立った記述は見当たりません。それもスポーツ施設として重要なのでは?と思うのですが。

P15:オープンスペースについて

このページが開発前、開発後の立地がわかりやすいので、ピックアップしてみました。

第二球場は解体が始まってしまいましたが、ゴルフ練習場、軟式球場、屋内競技場、バッティングドーム、つば九郎ハウスもなくなる配置に読めます。それとも、マップには描いていないけれど、計画はあるのでしょうか。はて? スワローズやビジターチームの選手は、試合前の練習をどこでするのでしょう? 神宮球場でやるのでしょうか。雨の日でも? それともラグビー場まで行って練習するんでしょうか? そりゃ、そのぶんをオープンスペースにしたら、増えるよね、というマジックに感じます。

開発後は、スポーツ施設が減るわけで、これでなぜ「みどりとスポーツの拠点」と言えるのかなぁ、とも思います。

もしかすると、新しい神宮球場内に屋内練習場が作られるのかもしれません。計画の野球場併設ホテル棟(ホテル棟併設野球場と表現しないところも気になる)の敷地面積は約69,040㎡。今の神宮球場の敷地面積を探し中です。(グラウンド面積等の球場内の数値は見つかるんですが、敷地面積が今は不明のため、比較できず)

ファクトシートは、文章にトリックがあると感じました。たとえば、P6の「魅力的なスポーツ施設の集積と誰もがスポーツに親しめる環境の整備」、P10の「特定の競技に対応したスポーツのみならず、不特定多数の人が利用できる施設や空間を創出」の部分です。

「スポーツ施設の集積」とは、神宮球場とラグビー場とテニス場に絞るということではないかと思います。ゴルフ練習場、軟式球場、第二球場がなくなることを、「集積」という言葉に言い換えてますね。「魅力的な」という形容に惑わされますが、後日、「こんなに既存のスポーツ施設が減るとは思わなかった」と突っこまれたときの反論として用意されているのが、この「スポーツ施設の集積」と読めます。

「誰もがスポーツに親しめる環境」というのは、神宮球場の横に併設されるらしい、芝生の公園らしきもののこと、かもしれません。「複合棟B公益施設」に「スポーツ関連施設」とあるので、それも含まれるのもしれません。謎です。

P11に「アメリカ サンディエゴのペトコ・パークのように、球場と一体となった広場から球場内を見ることができる野球場を整備」とあります。この部分は、先日のシンポジウムでも、「神宮球場に想いを寄せる市民の会」共同代表の竹田保久さんが指摘していたのですが、記載されているのは、「球場内を見ることができる」です。「野球を見ることができる」とは書いていません。イラストを見ると、この場所からプレイを見るのは難しいのでは?と思えてきます。曖昧なイメージイラストなので断定はできませんが。これも、文章のレトリックを使った目くらましマジックの一つではないかと思えてきます。(昔の神宮球場みたいに外野を芝生にすればいいじゃん、というツッコミを心の中でしつつ)

P19の「特定の競技に対応したスポーツのみならず」という部分は、再開発後のマップから推測すると、「野球、ラグビーだけに場所を使わせないよ」とも読めます。この文で、発信者側の狙いが込められているのは、「不特定多数の人が利用できる施設や空間」のほうでしょう。

新しい神宮球場のイメージイラストが、球場に必要な設備が欠けている状態になっていたのは、じつはコレが関係しているのでは?とまで思ってしまいました。野球だけでなく、ライブ会場など、エンターテインメント施設としても使える構造になるのであれば、特定のスポーツに限定せず、「不特定多数の人が利用できる施設や空間」になりますよね。屋内施設になるラグビー場のほうは、すでに「他のスポーツ競技や各種イベントなど様々な用途での利用も想定」と記載されています。

新国立競技場に屋根がないため、近隣への騒音問題等から、コンサート会場として使うことが難しく、見込んでいた収益が望めなくなっている現状を考えると、新しい神宮球場もドームではないし、今より住宅地に近くなるし、もっと無理じゃね?と思いましたが。

P17には、神宮球場の老朽化を改善する点については、「競技環境の向上」「ゆとりある観客席の整備等による観戦環境の向上」とあります。ロッカー等の球場内の設備は快適になるでしょうが、練習場がないのに、競技環境は向上するのか?と思いますし、ゆとりある観客席によって、座席数が減るのか増えるのかは、記述がありません。建設費の投資回収を考えると、ヤクルト球団の使用料が上がり、そして、観客席が減った場合、チケット代が上がるのでは、という想像も頭に浮かんでしまいます。

◆まとめ

ここまでが今日の勉強レポートです。東京都の資料を読むと、まったくまっさらな空間に作るのなら、「アリですよね」と共感もできるのですが、再開発として、この土地利用と計画を持って来たところに無理があると思います。

それから、書き手(情報発信側)の意図が読めるなぁ、とも。広告的手法でありがちなのですが、「“歴史と文化〟〝スポーツ振興〟をそここに散りばめればいいでしょ?今まで足を運ばなかった人まで集まるようになるし、街がにぎわうし、バリアフリーで歩きやすくなるし、お年寄りから子どもまで喜ぶ施設もできますよ」的文章に構成されています。神宮外苑に思い入れのない人が読めば、「いい計画だ」と感じるように、そこそこうまく作られているんですね。

文章だけなら、そう納得させることも可能でしょうが、マップと文章を突き合わせると、すっきりと納得できない、ほころびがあちこちにあるところが、またなんとも、という。神宮外苑の歴史と環境に加え、現在、利用している人たちが存在しないもの、一掃することを前提に計画してきたことが、逆に伝わってくるくらいです。

また、平面の配置については記載されていますが、建物の高さによる影響については触れられていません。神宮球場の球場史には、こんな記述があります。

「大正14年1月、外苑創建の精神に抵触しない範囲で計画の一部を変更し、野球場が建設されることになり、絵画館をはじめとする外苑全体のバランスを考えて建物その他の高さは制限され、外野には芝生・植え込みを多くしスタンドも美観を損じないことを主眼に造成されました。」

今回の再開発では、この歴史はどうなるのでしょうね。

「最新の計画内容については、事業者プロジェクトサイトをご確認ください」と注意書きがありますが、リンク先は、ファクトシートとほぼ同じ内容で、というより、もっと薄めた内容で、イメージコピーとイラストで展開している「神宮外苑まちづくり」の公式ページです。もともとファクトシートの計画部分の説明は、「2021年7月の民間事業者からの提案に基づいた内容を掲載」したものなのですが、こんなふわっとしたイメージ先行の内容で東京都は認可したんですかね。大規模開発にここまで関心を持ったことないので、よくわからんのですが。

東京都と民間事業者がこの計画を強行したとして、つくづく感じるのは、球場などのスポーツ施設や複合施設に限って言えば、完成するのは、中途半端な施設の塊にしかならないだろうな、ということでした。この開発で利を得たいと参画している都・企業・団体の、どの方面も満足させようとして、あれもこれも詰め込んでしまっているので、今の神宮外苑より魅力的な場所になるとは、やはりどうしても思えません。

日本の再開発って、なんでこう欲張って、てんこ盛りにするんですかね。過去の再開発地域を見ても、最初は遠くからも人が集まるけど、数年経つうちに、オフィスで働く人だけが通うようになり、オープン時に華々しく入居した商業施設は撤退し、残るは、高額な賃料が払える全国展開のチェーン店ばかり。それも、数年で店が変わっていく、という再開発プロジェクトが都内にいっぱいありますけどね。オフィスワーカーも高層ビル内の商業施設で飲食や買い物も済んでしまうので、周辺の商店街は潤わず、というおまけまで付いて。夜をメインにした飲食店は違うかもしれませんが……。観光資源としても、どこの駅前も似たり寄ったりの街並みになっている東京では、先々、人は呼べないのでは?と思いますし。

この計画通りに神宮外苑の再開発が始まったら、外苑前駅から秩父宮ラグビー場、神宮球場に向かう通りのお店は立ちゆかなくなるのではないでしょうか。まぁ、それも、東京都がファクトシートで語っている「魅力的なまちづくり」の一環なのでしょう。築地市場跡地も先行き暗そう。

追記:ロッシェル・カップさんのTweetにフリー記者の犬飼淳さんが解説した神宮再開発の歴史と分析があります。こちらを見ると、2011年から水面下で動いていたことがわかります。

犬飼さんの本編はこちら。緊急性・公共性が高いため、読者登録をすれば、無料で読めるようにしてくださっています。


仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。