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野球愛が感じられない神宮球場(神宮外苑)の再開発(加筆修正)

初出:2023年4月14日
加筆修正:2023年5月1日(データ部分を増やしました。1万文字超え、スイマセン)

1000本もの樹木伐採が計画されている神宮外苑の再開発は、神宮球場をホームにするヤクルトスワローズのファンはもちろん、野球ファンの全員に関心を持ってもらいたい問題でした。

4月14日に開催された「『野球の聖地』伝統ある緑の神宮球場を守ろう!シンポジウム」に参加し、開発計画の不透明さに驚愕して帰り、この記事を書きました。そして、5月1日に加筆修正しました。何が問題なのか、シンポジウムの内容を基本に紹介していきます。神宮球場に焦点を当てたかったので、関係の深いイチョウ並木以外、樹林の移植・新植や生態系に関わる環境問題は、あえて省きました。

1)新球場より高層ビル建築が先にありき?


神宮外苑の再開発計画は公式サイトがあり、東京都都市整備局にも説明のウェブページが作られています。

◆公式サイト

◆東京都都市整備局

神宮球場について触れているのは1ページのみ。しかも、ラグビー場、テニス場、室内球技場とまとめてです。

シンポジウムで神宮球場の変化を主に説明してくださったのは、「神宮球場に想いを寄せる市民の会」共同代表の竹田保久さんです。

また、私よりよほど詳しいジャーナリストの犬飼淳さんが、開発の経緯も含めて、わかりやすく記事を書いています。

◆高層ビルが内野側を囲む新神宮球場


シンポジウムで、まず竹田さんが語ったのは、

「神宮球場の再開発に“野球愛”が感じられない」

ということです。私も同感です。

下記は、移転新築後、神宮球場がどのような配置で、どのような構造になるのかを示した図です。イチョウ並木と隣接するのは、神宮球場の手前側(1塁側外野席)、直線部分です。

記事の初出では私の下手なイラストでしたが、立体図をいただいたので差し替えました。各建物の高さは、以下になります。

  • 「事務所棟」約190m……伊藤忠の本社

  • 「複合棟A」約185m……オフィス、商業施設が入る

  • 「複合棟B」約80m……スポーツ関連施設、ホテル用途。プロ野球選手が試合前の利用を想定した屋内球技場がここに入る。ただし、プロ野球専用ではなく、オフシーズンの利用として部活動やなんらかの大会など、イベントにも利用されると事業者は別資料で説明

  • 「野球場併設ホテル棟」約60m……神宮球場の内野にできる複合施設

  • 「文化交流施設棟」約6m……公園支援施設、商業等目的

  • 「ラグビー場棟」約55m

2021年にGoogleマップに重ねたyoutube動画を公開している方がいました。車で走りながら青山通りから外苑に向かうシーンもあり、遠方からも、高層ビル2棟だけでなく、ラグビー棟、神宮球場のホテル棟も相当、高いことがわかります。イチョウ並木からの景色も圧迫感があります。

東京都が示した神宮球場とラグビー場の移転プロセスと配置の俯瞰図はこちらにあります。

伊藤忠本社ビルの隣には、現在、25階建てのビル「青山 Om-Square」があります。これも三井不動産によるプロジェクトで建てられました。Googleマップには、ビルによる日陰がどのようになるのかが写っています。

https://goo.gl/maps/rdJcMNrN8K4XCNY59


公式ホームページ等で事業者から公開されている図は、ふんわりとした平面のイメージイラストで、建物の高さが視覚的にわかりにくく、建物の用途も明確には説明されていません。俯瞰図でも、神宮球場は「ないわー」と突っこみたくなる配置です。土地が余ったところに球場を置きましたからね、という感想を真っ先に感じました。

シンポジウムで、事業者が公開する神宮球場のイメージイラストから、まず問題視されたのは、次の4点です。

  • バックスクリーンがない?

  • 照明灯がない?

  • ファウルゾーンがない?

  • 外野スタンドがない?

さすがに完成時には、野球場の機能は備えると思いますが、イラストの扱いを見ると、野球ファーストではない印象はいなめません。小池都知事は都民ファーストの会の特別顧問なんですけど、どこの都民のことなんだろう、と思います。

神宮球場の変化で、最も注目なのは、複数の高層ビルに囲まれる点です。公式サイトのイラストでは、周囲の高層ビルが薄く描かれているので気づきにくいのですが、球場の空がさえぎられ、ほぼ、どの位置からも建物が目に入る配置になっています。それもかなり近いです。3塁側の観客席から見る場合、絵画館方向になるので、ヌケ感はあるかと思います。一方、1塁側で応援するスワローズファンは、ホーム球場なのに眺めが悪くなるという悲しい図です。山下達郎御大の「俺の空」が脳内再生されてしまいます。

高層ビルの高さを既存のビルと比較すると、「事務所棟」の高さ約190mは「アクティ汐留」がヒットします。

複合棟A」の高さ約185mは、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」「シティタワー武蔵小杉」と同等。

野球施設兼ホテルが約60mの高さで、25階建ての高層マンションくらいの高さです。下記は、高さを比較した図です。グリーンの部分が神宮球場です。


高さを横から比較した図

シンポジウムでは、主催者のロッシェル・カップさんが、シカゴにある友人の設計事務所に依頼し、外苑再開発のデータを元に作成した3D映像も公開されました。公式サイトのイラストではわからない、高層ビルの高さと影響が一目でわかります。映像が流れたときは、会場から「おおおー」という驚きの声が上がったくらい、衝撃的なものでした。

近々、この映像は、説明のナレーションを加え、ブラッシュアップした形で公開されるとのこと。ぜひ見てもらいたいと思います。

◆日照、ビル風、騒音による観戦への影響


竹田さんは、新しい配置と設計によって予測できることも説明しました。

  1. 日陰になる時間が今より長くなる……「環境影響評価書」によると、青山高校方向が日陰になる時間は、夏至日において約2時間30分春・秋分で約1時間50分増加します。イチョウ並木方向では、春・秋分で約30分、冬至日では約3時間30分増加とのこと。

  2. 強いビル風の影響……高さ100m以上の武蔵小杉のタワマン街では、最大瞬間風速15〜20mの風が吹くそうです。体感でいうと、風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出るくらいの強風です。

  3. 騒音による周辺への影響……球場が移転することにより、都営住宅との距離が近くなります。以前は160m離れていましたが、80mの距離に。騒音レベルは58dbから62dbになるのではないか、という予想です。


これらの指摘から予測できる観戦への影響は、デイゲームを太陽の下で楽しむ時間が減ること。日陰の時間帯が増えれば、選手の写真撮影を楽しみにしている人にも影響は出ます。春や秋は気温が下がるので、冷え冷え感が増すでしょう。

強風については、球場の形がすり鉢状なだけに、どのように風が回るのかわかりません。ボールの行方を左右するのではないか、というプレーへの影響に加え、スワローズファンは、応燕傘が振れなくなるかもしれません。開いたとたんに飛ばされる傘が続出、なんていうシーンがありそうです。あまりにもファンの数が少ないことから、傘の応援を考え出した名物応援団長の岡田正泰さんが草葉の陰で泣いている姿が目に浮かんでしまいます。

4月27日に都が開催した「環境影響評価審議会」で防風林についての指摘があり、事業者によると、防風林の役割をする樹木は、新しく植えるそうです。防風林の高さが神宮球場の壁面より高いことはないでしょうし、目的は通行人を守るためでしょう。とすると、やはりビル風は“六甲おろし”のように吹くのでは? 神宮なのに?(関東だから筑波おろし、赤城おろしか)

大学野球は昼間、プロ野球はナイターが多いですから、北青山一丁目アパートなどの都営住宅への影響だけでなく、複合棟Bにホテルも入居する予定らしいので、宿泊客から応援に苦情が来る可能性も否定できません。ちなみに60dbは、「大きな音で聞こえ、うるさい。大きな声で話せば聞こえる」レベルとのこと。洗濯機を1mの距離で聞く状態のようです。


追記しながら気づいたのですが、外野が高層ビルのほうに向いています。ということは、応援の音がダイレクトに伊藤忠商事が入居予定の事務所棟、展示施設とホールの複合施設「TEPIA」(これだけは残る)、複合棟Bに届くということです。防音工事がしっかりしていれば、それほど響かないんでしょうか。はて?

神宮球場を動かすことで、再開発で誕生した三井不動産レジデンシャル分譲の高層マンション住民の皆様は、野球応援の音から多少は解放されるということでもありますね。3塁側のビジターは、スワローズ応援よりにぎやかな球団がありますしね。目の前が広場になって眺めもよくなりますし。

一方で、スワローズ応燕プランがある日本青年館ホテルは、部屋から神宮球場が見えなくなるのではないでしょうか。外苑の敷地内にホテル(三井系列)ができるということは、日本青年館ホテルのライバルが出現するということにもなるのですね。

これだけの建物が周囲を囲むと、花火も打ち上げられなくなるのではないかと思います。試合中の花火の打ち上げ、夏の神宮花火大会も中止に追い込まれるでしょう。

シンポジウムの会場でも、参加者の方から「こんな新球場では、将来、スワローズは神宮から離れて、他の場所に移転してしまうのではないか」という発言がありました。

2)誰のための「スポーツの拠点」にする再開発なのか

◆「スポーツ施設」の種目がよくわからない

公式サイトには、「神宮外苑が紡いできたテーマ『みどり』『スポーツ』『歴史・文化』がオープンに、混ざり合い、一体化する」と記載されています。

公表されているファクトシートや公式サイトを見ても、都と事業者が示す「スポーツ」が、どの競技を指すのか、はっきりしません。「魅力的なスポーツ施設の集積」「誰もがスポーツに親しめる環境」とは、何のスポーツなのだろうと思います。神宮球場も、試合をするだけでなく、練習時に必要な施設が併設されるのかどうか、事業者と関係者以外にはわからない状態です。

一方、撤去される施設には、第2球場、軟式野球場、屋内球技場、フットサルコート、ゴルフ練習場、バッティングドームが含まれます。アマチュア野球への影響はもちろん、プロ野球選手は、複合棟Bの屋内球技場だけで、試合前の練習がまかなえるのでしょうか。東京ドームは昼間も球場が使えますが、神宮球場は大学野球と重なると使えません。野球の経験がないので、練習スペースがどれくらい必要なのかがわかりませんが。

竹田さんは軟式野球場がなくなることで、「多くのファンが楽しみにしているスワローズ選手の練習風景も見られなくなるのではないか」と話していました。

複合棟Bから球場までの動線も、どうなんですかねぇ。選手は商業施設やホテルの利用客、試合の観客に混じって歩くのでしょうか。専用の地下道でも作るんでしょうか?(今の神宮球場の荒木大輔地下道みたいに?)スタッフさんが大変かも?

再開発で撤去される施設

◆軟式野球場の跡地にできる高級会員制テニスクラブ


軟式野球場が撤去されたあとの絵画館前広場には、中央にオープンスペースがあり、その両側に屋内・屋外のテニスコートが建設されます。このテニスコートを利用するであろう「神宮外苑テニスクラブ」は、入会金が正会員88万円、月会費1万8700円、平日会員でも入会金66万円、月額1万5400円です。日割りのレンタルも可能ですが、民間経営で都心だけにそれなりのお値段。気軽に利用できる施設にはならなそうです。

◆意見数が少ないパブリックコメントが都民の声?


シンポジウムのあとに調べていて、気になる資料がありました。都へのパブリックコメントの数です。平成30年(2018年)8月31日〜9月29日まで、「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針(素案)」に対するパブリックコメントの募集がありました。

その結果は、こちらにあります。「●パブリックコメントの実施について(募集期間:平成30年8月31日(金)から30年9月29日(土)まで)【現在募集は終了しております】」を開き、「5 パブリックコメントの結果と見解・対応」の資料3を見てください。

寄せられたパブリックコメントの総数は79通。スポーツ施設に関わる「4 地区内の個別施設に関する意見(62件)」を見ると、神宮球場は1件、神宮外苑テニスクラブは5件、霞ヶ丘テニスコートは47件、ラグビー場2件、軟式野球場3件、ゴルフ場2件、絵画館2件と、圧倒的にテニスに関するパブリックコメントが多いです。

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/jinguu_kentou04_05.pdf

パブリックコメントの期間中に意見を伝えなかった都民が悪い、と言われても仕方がありませんが、根拠になる資料の精度に疑問を感じる内容でした。

資料はこちら。概略資料の基になった素案も公開されています。前述の「パブリックコメントの実施について」に貼ったURLからもたどれます。

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/pb_01_01.pdf

なぜ資料に疑問があるのかを説明します。素案にある「土地利用の方針」のなかで、再開発後のラグビー場、神宮球場は、「スポーツ・交流複合ゾーン(大規模スポーツ施設の集積)」と、一つのグループにまとめられています。

グループの説明には、秩父宮ラグビー場、神宮球場の固有名がありません。「広場的空間の創出と大規模スポーツ施設の再編・更新を一体的に行い。いつでも誰でもが様々な目的(憩・遊・学)で利用できるオープンな地区の中心となるエリアを形成」という曖昧な表現です。

同様に、イラストと写真(←なぜか一角につばみちゃんが後ろ姿でヨガマットに座っている)を交えた「スポーツ環境の方針」のページでも、「競技等の継承に配慮した大規模スポーツ施設の連鎖的な建て替え、競技環境としても観戦環境としても世界に誇れる水準にある施設として更新」と書いてありますが、具体的な競技名がないので、どの施設のことかはっきりしません。

イラスト、写真の説明文ともに「大規模スポーツ施設と広場が一体となった開かれた空間構成」「スポーツ施設内の広い芝生空間でのフィットネスイベント」といった、ふんわりとしたイメージコピーです。

さらに別のページのマップでは、大規模スポーツ施設を示す円が2か所あります。こちらもラグビー場、野球場の記載がないため、どちらがラグビー場で、どちらが神宮球場なのかが、わかりません。

秩父宮ラグビー場が第2球場跡地に移転し、ラグビー場跡地に神宮球場が移転し、神宮球場があったところにラグビー場が移転する計画を知っていれば、予測はつきますが、その記述が素案にないのです。

パブリックコメントのなかに「神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えるのは、歴史・文化を破壊する。」という意見があるので、この時期に報道では出ていたのだと思います。しかし、パブリックコメントの対象である素案に、入れ替えの記述がないのは、説明不足を感じます。

素案のなかで、もう少し詳しく説明していると言えないこともない「将来イメージ」のイラストと説明においては、スタジアムっぽいものは描かれていますが、野球場ではありません。陸上競技場のような、ラグビー場のような“それっぽい”イラストです。このイラストを見て、「ラグビー場に付帯する芝生の広場なのだろう」と思う人がいても、不思議ではないです。説明文も「大規模スポーツ施設」としか書いてありません。おそらく、この絵を描いたイラストレーターは、具体的な情報をもらっていないのでしょう。神宮外苑でなくても使えるイラストに仕上げてあるからです。

素案からは、都がどのような意図を持って開発に当たっているか、ということしかわからず、開発がどのように進められるのか、どういった建物がどのような高さと広さで配置され、建設されるのか、という具体性に欠けます。

さらに前述のパブリックコメントに対する都の返答に、指針素案を見よ、とあるので見てみます。

将来像1 高揚感のあるスポーツとアクティビティの拠点
将来像2 歴史ある個性をいかした多様なみどりと交流の拠点
将来像3 地域特性をいかした魅力的な文化とにぎわいの拠点

返答のポイントがこれです。神宮外苑でなくても通じる指針ですね。

素案の段階だから、実際の開発計画は事業者が行うことだから、ということかもしれません。パブリックビューイング云々と書いてあるので、東京オリンピック2020が前提の説明だから、この曖昧さなのかもしれません。けれど、この資料のパブリックコメントで「都民の意見を聞いた」と言われてもなぁ、と思います。

パブリックコメントで神宮球場に関する意見は1件のみですが、ファンの気持ちを代弁するような内容です。

神宮球場は、野球ファンにとって様々な思い出のある場所である。なるべく現状 を変えないで欲しい。クラブハウスから軟式野球場への行き帰りにファンと身近に 接してもらえるのは、他球場にはない魅力だ。また、神宮球場も客席前にブルペン があり、試合中投球練習する様子が間近で見られる。このようなファンにとっての 楽しみを無くさない形で再開発して欲しい。

地区内の個別施設に関する意見

これに対する都の返答は、以下です。

「スポーツ環境の方針」(P.20)において、競技環境としても観戦環境と しても世界に誇れる水準にある施設として更新することと、まちに開かれ た施設とするとともに、日常的に人々を惹きつける魅力的なにぎわい機能 等の導入を位置付けています。 なお、具体のスポーツ施設の構成・整備、及び運営方法については、今 後、事業者が指針に基づき、検討することになります。

「世界に誇れる水準にある施設」に本当になるのか、完成の暁には聞きたいものですが、計画の全容がわかったときには止めようがない、というのでは、都民、国民はどこで意見を伝えればいいのでしょうか。三井不動産のニュースリリースを見ても、神宮外苑の再開発が出てくるのは、2022年5月19日。都市計画決定が告示された旨の発表です。

また、パブリックコメントの素案となった東京都都市整備局の「東京 2020 大会後の神宮外苑地区のまちづくり検討会検討会」審議記録を見ると、行政関係以外で出席している学識経験者は3名です。「まちづくり」であり、これほどの大規模開発で、3名で検討するのは、普通なのでしょうか。先日、オンラインで視聴した「東京都環境影響評価審議会」は、都内各所が議題になるとは言え、専門家が18名も出席していました。

3)イチョウ並木への悪影響は?

ただでさえ湾岸地域の高層ビル群の乱立で海風がさえぎられ、ヒートアイランド現象が加速している昨今、都内の樹木が減ることは好ましいことではありません。神宮外苑の貴重な樹木が伐採(都や事業者は移植と言い換えてはいますが)されることが、この再開発で大きな問題になっています。

都と事業者は、イチョウ並木は守られると説明しているものの、シンポジウムの話を聞き、その後、自分で調べてみても、そうでもないのでは?という疑問がわきます。新しい神宮球場は、イチョウ並木のすぐそば。道路境界線から8mしか離れていないところに建設されるからです。

また、イチョウ並木の高さは約25m。1)で紹介した高さを比較した図でもわかるように、球場の外野部分がイチョウ並木とほぼ同じ高さになります。事業者は「イチョウ並木より建物を低くする」とのことですが、球場の外野部分が面するわけですから、日当たりや風通しに影響はないのでしょうか。球場が北西に位置するので問題ないということなのでしょうか。景観もイチョウ並木の間から、球場の壁が見えますよね? 

球場の地下構造も約40mの深さです。日本でもっとも深いと言われる都営大江戸線の六本木駅ホームが地下約40mですから、どれくらいの深さなのか、想像がつくと思います。

大木の根は地下で広く張っているので、建設時から影響を受けるでしょうし、建設後も、球場に圧迫されるのではないか、という懸念は消えません。

4)広域避難所としての安全は確保できるのか

高層ビルが建つことにより、昼間人口の増加は必然です。しかし、これだけ建物が林立し、何もない空間が激減した場所で、災害時に大勢の人達を守ることができるのでしょうか。現在、絵画館前の広場は、軟式野球場になっていることで3.0ha以上、確保されています。ところが、開発後は、屋内・屋外テニスコートが作られるため、中央広場として確保されるのは、約1.5はhaになります。つまり半減するそうです。

シンポジウムを聞いていて、私がもう一つ気になったのは、交通の問題です。私の事務所が湾岸地域にあるので、この20年ほどの変化を目の当たりにしているのですが、高層マンションが1棟でも増えると、駅の混雑が目に見えてひどくなります。豊洲駅は、ホームから転落事故が起こるのではないかというほど危険な状態になり、ホームが増設されました。

外苑前の再開発で人が集まるようになれば、駅の混雑も増すでしょう。外苑前駅、表参道駅、青山一丁目駅、信濃町駅、国立競技場駅と、人々を分散できる交通網はありますが、歩道がそれほど広くない場所もあることを考えると、都心に残る貴重な広々とした空間を失うことの負の面のほうが気になります。

5)再開発地域は国有地も含まれる


その他、シンポジウムで伺ったなかから、いくつか気になったことも付記しておきます。

  1. 神宮球場を建設するとき、東京六大学がかなりの資金を出したとのこと。大学野球の聖地でもありますが、大学側は今回の開発について、どう考えているのでしょうか。

  2. 歴史を紐解くと、神宮球場はもともと国有地で、太平洋戦争の終戦後、GHQに接収されたそうです。その後、返還されるときに、明治神宮に格安で譲渡されたとのことでした。外苑は国、明治神宮……と地権者が複数いるそうです。

  3. 神宮球場は2016年に耐震工事を完了させています。耐震工事は多額の費用がかかるそうで、この時点では長く使い続ける予定だったのだろうとのこと。にもかかわらず、移転の話が出たのはいつなのでしょう。甲子園球場が100周年記念に動いているのに対し、神宮球場は100周年のときに壊されるという、スワローズファンとしては情けない気持ちで聞きました。狭かったり、古かったりと、選手たちに負担がかかっていることはよく知っていますが、なんとかそこをクリアしての継続はできないのだろうか、と思ってしまいます。

この機会に、神宮球場の球場史も目を通しておこうと思いました。


◆「まちづくり」計画は“民間事業者”のものなのか

再開発について、「神宮球場は明治神宮という民間の所有地なのだから、所有者以外があれこれ意見を言うのはどうなのか」という話も耳にします。追記としてそれにも触れておきます。

まず、この再開発の出発点は、「まちづくり」です。

東京都がパブリックコメントを募集した際の素案でも、以下のように記載されています。

秩父宮ラグビー場や明治神宮球場等の存する区域について、都は、平成27年(2015年)4月に権利関係者と締結した基本覚書に基づき協議を進め、本年3月、まちづくりの検討にかかる基本的な考えや今後の取組等について、確認書を取り交わした。(中略)それらを踏まえ、東京2020大会後に民間が事業主体となって進めるまちづくりを都として適切に誘導するため、まちづくりの目標や誘導方針、公園まちづくり制度の活用用件等を検討(後略)

東京2020大会後の神宮外苑地区まちづくり指針<取りまとめ>

事業主体は、三井不動産株式会社、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事株式会社ですが、都も「まちづくり」として深く関わっています。パブリックコメントを事業者ではなく、都が募っている経緯を見ても、民間事業者の開発だから、都民(国民)が何も言えない、というのは、おかしな話なのではないかなと思います。

また、神宮球場は明治神宮の所有ですが、開発地域の4割は国有地です。秩父宮ラグビー場とテニスコートの一部は国有、文部科学省が所轄する独立行政法人日本スポーツ振興センターの所有です(ピンクの部分)。

港区や新宿区、渋谷区も関わり、都の職員が動いていることで、区民税、都税は使われているわけです。一部は国有地ですから、国民の財産でもあります。さらに言えば、日本の首都である東京を代表する景観を持つ地区でもあります。実際、都の公表資料を見ても、スポーツ振興局、都市整備局、建設局の連名で、国立霞ヶ丘競技場(国立競技場)の建て替えを機に、神宮外苑一帯を再整備する国家プロジェクトの位置づけとの記述もあります。

神宮球場の建て替えのみであれば、明治神宮の所有だから、という話も通じるでしょうが、秩父宮ラグビー場と入れ替えるウルトラCの再開発にまで規模が拡大したのは、東京オリンピック2020事業からなし崩しに、スポーツ振興の名目で、国と都、事業者が計画したことです。明治神宮に神宮球場を維持する力がなくて始まったという話だとしたら、なおのこと、「民間の事業者」が始めた事業に、国有地を使うことで、都民、国民は巻き込まれてしまっているのですよね。

私は、適切な計画で選手たちにも観客にもよりよい球場になるのであれば、神宮球場が建て替えられるのもアリだと思っています。しかし、いまだ都、事業者の資料を読んでも、出てくるのは「スポーツの拠点」の言葉だけです。スポーツは種目によって必要な設備、広さが異なります。何の目的で建てられるのか、どう使うつもりなのかが、さっぱり見えてきません。

むしろ、「多目的」「誰もが利用できる」といったぼんやりした説明に、不安を感じます。スポーツ施設は、それほど汎用性のある建物ではないと思います。種目によって必要な設備は異なります。収容人数だけ考えれば、エンターテインメントとの共有はできますが、音響については、専用施設にはかないません。東京ドームの音響を嫌って、武道館で公演する海外アーティストもいます。オリンピック後の活用がうまくいっていない国立競技場の例もあります。

神宮外苑の歴史と文化を尊重し、と言いながら、現在の開発図からは、それが感じられないことも気になります。

三井グループには近江商人の心得「三方よし」があるそうですが、神宮外苑について言えば、「当事者だけでなく世間のためになるものでなければならないという哲学」ではなく、多数が関わる事業者の「三方よし」を、限られた敷地にすべて盛り込もうとした結果、このような曖昧な計画になっているのではないでしょうか。

神宮外苑の創建時に先人が思い描いたように、これから50年先、100年先も愛される神宮外苑、神宮球場であって欲しいと願っています。令和5年(2023年)2月17日に都が公表したファクトシートにも

「まちづくりに対する都民の共感が得られるよう、具体的な整備計画や都民参画の取組などの詳細な情報をわかりやすく発信すること」

とあるわけですし。繰り返しますが、神宮外苑の再開発は、単なるビルの建て替えではなく、「まちづくり」の位置づけなのです。

代案を出さないで反対している、という話もあるので、こちらのリンクを貼っておきます。

https://nu-ae.com/tokyo/20220710_plan/

再開発後の神宮球場、ラグビー場の問題点も指摘されています。

今さらですが、「まちづくり」の狙いと条件を明確にして、コンペをすれば、別の案がいろいろ出てきたと思うんですけどね。国立競技場の建て替えに関する本を読んでいても、そう思うのです。

……って、あれ?ところで、なんで三井不動産なんだろ。事業者の他の3つは地権者だからまだわかるけど。三井不動産に決まった経緯は、都のどこかに資料あるのかしらん?

この記事になにやらありそうなんだけど、有料ですね。課金するしかないかな。そういえば、この連載が元のWikipedia情報を参考に書いたと思われる記事が出回ってましたけど、元記事は、「神宮外苑再開発に透ける明治神宮と三井不の「金儲け主義」」ってタイトルがあったりして、批判する内容なんだけどなぁ。

以下は、シンポジウム後に書いた補足です。

神宮球場への影響を説明してくださった竹田さんたちの「神宮球場に想いを寄せる市民の会」も、活動が始まって日が浅く、賛同してくれる方を待っているそうです。

最後にロッシェルさんがシンポジウムの閉会メッセージとして語った言葉を書いておきます。記憶から書いているので、大意ですが。

今は坂本龍一さんのメッセージもあって、外苑開発に注目が集まっていますが、開発側は、関心が薄れ、人々が忘れ去ることを待っています。忘れないこと、反対し続けることが大切です。そして、一人ひとりが発信して欲しい。それが、「変える力」になります。


私自身、これまでぼんやりと追っていた神宮外苑再開発でしたが、これからは、公開されているデータ等を読み込んで、もっと勉強したいと思います。ホントに「レガシー、レガシー」言うてた人たちがやってる再開発って、結局、レガシーぶっ壊しじゃん、と憤慨してます。スワローズ観戦のあと、ほとんど使われていない真っ暗な国立競技場を通ってるのですが、毎回、「ここをぶっ壊して、ラグビー場なり、球場を作ればよかったじゃん」と思っているワタクシなのでした。

さらにおまけ。日本不動産野球連盟のブログに、事業者側の樹木保全に関する情報公開に疑問を投げかける投稿を見つけました。


仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。