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「売るモノがなくなって、公園の土地まで売り始めたのか?ニッポン」と思うくらいの神宮外苑の再開発

自分の孫子に再開発後の神宮外苑を自慢できる?


先ほどまで、日本ICOMOS(イコモス)国内委員会(以下、イコモス)の理事であり、中央大学研究開発機構教授の石川幹子先生の神宮外苑再開発に関するオンラインセミナーを視聴していました。大枠は、先日の「『野球の聖地』伝統ある緑の神宮球場を守ろう!シンポジウム」で知ったり、東京都のファクトシートで気づいた問題点を改めて学ぶ内容でしたが、都市計画・都市緑化・都市再生デザインの専門家の視点で教えていただくと、背筋が凍るような怖さを感じてしまいました。今も心臓がドキドキしています。荻上チキさんのラジオ番組で、石川先生のお話を聞いたことがあるのに、です。

※石川先生のオンラインセミナーのアーカイブがYoutubeで公開されました。

https://youtu.be/VXd5qlAU_dA


いったい誰がこんな計画を推進しているのか、と思います。事業者名は、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事株式会社、三井不動産株式会社となっていますが、日本を代表する企業、団体が本当にこの計画を進めてよいと考えているのでしょうか。ホントですか?マジで?

私は昔、日比谷の東京宝塚劇場が新しく建て変わったとき、オープン前に設計・施工した竹中工務店が設けたファミリー見学会に友人の誘いで参加したことがあります。プロジェクトに関わった人たちが、家族に、とくにお子さんたちに「お父さん、お母さんはこんな建物を作ったんだよ」「こんな立派な仕事をしたんだよ」と見てもらう目的の見学会でした。建築のプロジェクトは規模が大きくなればなるほど、それに携わる様子を家族が知る機会は少ないものです。お父さん、お母さんが成し遂げた仕事の現場を自分の目で確かめた子どもたちの、誇りに満ちた表情がとても印象的だったのを覚えています。

神宮外苑の再開発が完了したとき、東京都や事業者の方々は、同じようにお子さんたちに胸を張って、自分の仕事を見せられるのでしょうか。組織の一員としての立場もあるでしょうが、子ども世代、孫世代が生きる未来に喜ばれる神宮外苑になると、本当に心から思っているのでしょうか。

人の営みと森の生育が絶妙に調和しているからこその貴重な存在


簡単に言ってしまうと、この開発計画は、今の神宮外苑がまるっとなくなるよ、っていう話です。おそらく再開発の話題を知っていても、多くの人は、「樹木の一部が伐採されたり、移植されるだけでしょ?イチョウ並木は残るんでしょ?」「球場やラグビー場が新しくなって快適・便利になればいいことじゃない」と思っているのではないでしょうか。私もそう思っていましたが、そんなカワイイ話ではありませんでした。

再開発が完了したら、神宮外苑を心地よく癒してくれた森は、きれいさっぱりなくなります。東京を代表する美しいイチョウ並木も枯れます。すぐにではなくても将来、並木の形に残らない可能性は高いです。イチョウ並木は、私が愛するヤクルトスワローズのホーム、神宮球場が道路境界から8メートルしか離れていない場所に建てられることが、悪影響の要因です。イチョウ並木に面する新しい神宮球場の防球ネットは、イチョウより高い25m、地下構造物は40mと計画されています。これにより、日差し、風、地下水の環境は大きく変化します。

神宮球場もイチョウ並木のそばに建つことで影響を受けます。ライト外野席が円形ではなく、並木に沿った形で直線になり、席が削られてしまいます。(今の神宮球場でいえば、外野席指定Cのあたり)

・神宮球場建て替えの問題点は、こちらの記事
・秩父宮ラグビー場建て替えの問題は、元ラグビー日本代表・平尾剛さんの署名活動ページ

また、現在の計画図では、文化交流施設へのアクセスが、イチョウの木と木の間を通る動線になっています。並木と並木の間ではありません。2本のイチョウが並ぶ、その間のことです。

なぜイチョウ並木の木の間を通ることになるかといえば、アクセス路の幅が狭いことと、移植林の配置に無理があるからです。そういった問題点を知ると、神宮球場が建て替えられたとき、枯れていくイチョウ並木を横目にしながら、気持ちよく観戦できるのだろうか、と思ってしまいます。

神宮外苑の樹木がどう変わるのか。大雑把な説明になってしまいますが、まず残される樹木は、前述の神宮球場による影響だけでなく、秩父宮ラグビー場の移転、絵画館前広場の整備により、現在の森が分断されたり、縮小されたりします。それだけでなく、建物の建築時から建築後も日差し、風、地下水等の影響を大きく受け、生育環境が阻害されます。

移植樹林については、今、共生しているからこそ成り立っている樹木の生態系を無視し、テトリスのように、建物と建物の間にできた隙間に植え直す計画になっています。その結果、「持続が不可能な森」が形成されるとのこと。植木鉢レベルでも家庭菜園でも、寄せ植えに相性があることは知っています。それをさらにずっと大きくした形で、生態系と植生を無視した移植が行われるのだそうです。そりゃ、いずれ枯れるわ、っていう話です。

東京藝術大学では、学内に残る貴重な武蔵野の森を守り、育てる活動が進められているのになぁ、と以前、取材したことのある「藝大の森」プロジェクトのことを思い出しました。その土地本来の植生を生かした保存林を守り育てることが、創造力を刺激する豊かで健康な森を作るという、今の時代にふさわしい未来を感じる活動でした。

神宮外苑は、人が集い、楽しめる施設と樹木の生育環境が絶妙に調和している都市型の緑地帯です。自然の山々に育つ木々とは違う都心にある森だからこそ、貴重ですし、価値が高いのです。オンラインセミナーでは、「樹齢が寿命に近い木もあるのだから、伐採は適切なのではないかという意見もあり、それは本当なのか?」という質問がありましたが、多くの人が集う都心の森だけに管理はしっかりされているそうです。また、樹木には樹齢300年を超える種もあり、「100年も経てば、寿命なのでは?」と考えるのは、人間本位の尺度からの発想でしかないのですね。

科学的データの根拠があやふやすぎる樹木保全計画


神宮外苑の再開発において、なぜ突っ込みどころ満載の樹木保全計画が立てられたかというと、問題がないとする根拠の「環境影響評価書」が、植物社会学の専門的な科学的データに基づかずに作成されているからです。イコモスは、植物社会学に基づく「群生調査」の調査地点数が少なすぎること、「群生調査」が生態系のつながりを分析するために必須の地域(絵画館前広場とその周辺)では行われていないこと、さらに生態系保存・保全の基盤となる「現存植生図」が作成されていないことを指摘しています。「現存植生図」がない状態では、科学的論拠に基づく回答を提出することは不可能なのだそうです。

現存植生図とは
コトバンクによると「地域ごとに生育している植物の状態、集団、すなわち現存する植生を自然性の高い地域(気候帯別などの植物社会ごとの自然植生と代償植生など)と土地利用的要素の強い地域(植林地と耕作地)に分類、表示した地図。(中略)環境保全や環境アセスメントに不可欠の情報」とあります。

コトバンク

残念ながら、第二球場は鉄板の囲いでおおわれてしまいました。私は信濃町駅・国立競技場駅の方向から神宮球場に向かうので、去年までは第二球場に隣接する「建国記念文庫の森」や第二球場を囲むの木々があるおかげで、森林浴をしているような心地よさを感じながら神宮球場に向かっていました。でも、今年は白い大きな鉄板壁の前を通ることになり、再開発に潜む大問題を知る前から、じつはとても嫌な気持ちになっていました。すでに「あ〜、もうあの気持ちよさは味わえないんだなぁ」という残念な道になっているのです。

「建国記念文庫の森」の樹木は、本格的な工事が始まっていなくても、鉄板の囲いが発する熱、日差しの遮りの影響によって、今夏から生育に支障が出る恐れがあるそうです。しかも、この場所は、秩父宮ラグビー場が建て替えられる場所なので、多くの大木は伐採されます。樹齢100年を超える木もある森がほぼ破壊されます。その話を聞いて、すでに建て替えられた新国立競技場を思い出しました。行ったことのある方はよくご存じでしょうが、樹木がすっかりなくなってますよね。コンクリートに固められた土地の一部に、ひょろっとした植木がちらほらあるだけです。いずれ育つのかもしれませんが、根を張る余裕はなさそうと感じるくらい土の部分は少ないです。

神宮外苑が持っていた防災拠点としての役割維持も難しくなります。広域避難所としての役割はもちろん、群衆津波の危険性も指摘されています。とくに、神宮球場に向かう歩道橋は、8メートルの幅しかないとのこと。商業施設、ホテルが入居する高層ビルが林立していますから、試合の前後に人波でごった返すだけでなく、突発的な事故や災害が起きた場合、群衆津波が起きてもおかしくないのでは、と言われているのです。

自然環境だけでなく、ラグビー場、球場も中途半端で、試合ができるのか?というほど、配置も構造もおかしい。軟式球場やバッティングセンター、フットサルコートもなくなり、スポーツ関連で再開発の恩恵を最も受けるのは、高級会員制のテニスクラブだけです。

なぜか対話に応じない東京都と事業者

昨年からイコモスは、環境影響評価書のデータの不足と論拠の誤りを指摘し、何度も東京都、三井不動産等、事業者に対話を求めていますが、いまだノーリアクションとのこと。驚くことに地元住民の方たちが署名を集め、港区を通じて東京都環境局に説明を求めても、返事がないのだそうです。ここまで対話を拒否するのは、新国立競技場の建設時よりひどいのでは?と思います。神宮外苑の再開発計画は、じつは新国立競技場の延長上にあり、2011年から、気づきにくい形で条例を改正するなど、水面下では着々と進められていました。そして昨年から、計画の全容が分かることになり、コトの重大さに徐々に反対活動が広まっているところなのです。

イコモスが指摘し、何度も対話を申し入れていることは、ホームページでわかります。なかなか理解が難しい専門的な資料ですが、とくに1月23日の「((仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業についての環境影響評価書」 における調査・予測・評価への非科学的対応と、誤った事実認識に伴 う生態系の破壊、大量の樹木伐採と不適切な移植計画による 持続不可能な森の形成、市民の力により創り出された国際的文化遺 産の破壊に対する、東京都環境影響評価審議会における再審の要請」は、読む価値は十分にあります。

日本ICOMOS国内委員会の提言・意見・コメント等

ロッシェル・カップさんと東京大学大学院総合文化研究科准教授の齋藤幸平さんの対談も神宮外苑再開発問題への理解を深めるのに役に立ちます。

周辺に住んでいる方や商店街の店主さんたちのコメント、森喜朗元総理の関与もあるのでは?という内容も盛り込んだ記事は昨年9月にAERAが取り上げています。


4月26日(水)の都庁前スタンディングアクションに参加しよう

水曜日に都庁前広場でスタンディングアクションの集会があります。参加できるようでしたら、ぜひ足を運んで欲しいです。なぜ急ぐかというと、27日に事業者(代表:三井不動産)による都の環境影響評価審議会への説明があり、そこで承認されると「開発に問題がない」と判断される恐れが十分にあるからです。

本当に問題だらけで、知れば知るほど、呆れています。再開発をするにしても、もうちょっと地元住民や専門家の話を聞いて欲しいよ、という話なんですけどね。なぜここまで突っぱねるんでしょうか。売るモノがなくなって、ついに公園の土地を売り始めたのか、日本は、って思います。

神宮外苑の再開発は、樹木の伐採・移植が大きく取り扱われ、森を守ることだけが問題のように思われがちですが、ラグビー場や球場、高層ビル群との関係性なしには語れない問題です。樹林と人工物の双方を両輪として考える必要があるのです。石川先生は、「再開発をよりよい方向に考える判断材料として、専門家の立場から問題を指摘している」と、繰り返し、お話されていました。

日本人はどうしても、お上がやること、力のある企業がやることに反対することが苦手です。行動を起こすと、周囲の目が気になったり、話すとどん引きされそうで、怖じ気づいてしまう気持ちは、私にもあります。それでも、「このままほうっておいていいのかな」という気持ちで、この記事を書いていたりするのです。

仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。