Valkan Raven #3-2

 3-2

 アパートへ帰宅するのに、15分も掛からなかった。寄り道をする事なく真っ直ぐ帰らされた魅姫の首に、刃物で出来た浅い切り傷がある。
 命令された昼食は、指定された肉無し焼きそばを作った。璃音の部屋で後片付けを終わらせると、散らかされた部屋の掃除に取りかかる。殺し屋は折れた布団の上にMacBookを置いて画面を眺めている。高速のタイピング音が時々聞こえるが、空間は異様な静寂に包まれていた。
 ーー午前中のアルバイトに関しては怒られはしなかった。が、許されもしなかった。今も話題にしようとすると目を釣り上げるので、もうどんな事を言っても聞く耳を持ってはくれないだろう。ーー
 英語の新聞を纏めながら、魅姫はしきりに様子を伺う。無言でパソコンを弄る相手に表情は無く、永遠とも感じられる時間の流れに、言いようの無い不安を感じていると、画面から目を離さないまま、璃音が口を開いた。
「報告が未だだ。何か目立つものはあったか?」
「え……あ……ごめんなさい、さっき居た……海。あと犬の死体」
「……」
 返事の仕方を間違えてしまったのかと動揺する。胸の奥が締め付けられるような感覚になり、怖れは更に強まっていく。
 再び訪れた沈黙に、魅姫は逃れようと微かな音を出す。紙を弄くる細い指の腹がインクで茶黒く汚れていく中、
 突然放たれたサバイバルナイフが、新聞束に突き刺さった。
「!」
「町の奴らと関わっても良い。余計な事をしなければ」
「……?」
「まあ出来ないがな。ウンザリする程俺は此処では有名人だ。だが、Chicken共はRuhrさえ守っていれば害が無い事は知っている。お前も同様にRuhrを守っていれば何もしない」
 ネイティブな英語で言われた「ルール」という単語に、魅姫は帝鷲町・『数字の世界』の登録日に言われた相手の言葉を思い出す。
 ここのRuleを言っておく、忘れたら知らねえからな。ーーこの町のルール。
 『管理』と、1946・鈴鷺璃音に逆らうな。ーー

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