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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説8―Right Hand Man 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

"Right Hand Man"

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。『Hamilton the Revolution』は歌詞だけではなく、オールカラーで劇中の写真が掲載されている。英語が読めない人でも眺めているだけで嬉しいファン・ブック。

The company sees a full armada, offstage.

COMPANY:

British Admiral Howe’s got troops on the water. Thirty-two thousand troops in New York harbor.

「イギリス艦隊のハウ提督が兵士達を連れてきた。3万2,000人がニュー・ヨーク港に」

解説:ミランダによる注釈

想像してみてほしい。ニュー・ヨーク周辺の水路が大規模な艦隊によって覆われ、空を塞いでしまった様子を。

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ニュー・ヨークのイギリス艦隊(1776年7月12日)。工兵士官アーチボルド・ロバートソンによる当時の記録。

この歌詞は1776年のニュー・ヨーク・シティをめぐる攻防を題材にしている。前年のボストンの攻防は、ワシントン率いるアメリカ軍がボストンに籠もるイギリス軍を撤退させることに成功していた。態勢を立て直したイギリス軍は今度はニュー・ヨーク・シティを奪取すべく作戦を開始した。

正確にはイギリス軍の兵力は3万2,000人に1万3,000人の水兵を合わせて総勢4万5,000人である。陸軍を率いるのはハウ提督の兄弟のハウ将軍である。

4万5,000人という数はアメリカ最大の都市であるフィラデルフィアの人口に匹敵する。そして、イギリス軍が擁する艦隊も18世紀の戦史の中で最大級の艦隊である。ある艦長は「その強大さにヨーロッパの強国さえ恐れおののくだろう」と誇っている。

こうした強力なイギリス軍に対してアメリカ軍はその半数に満たず海軍は皆無も同然であった。

ニュー・ヨーク・シティの攻防戦について日本語で読める最も詳しい文献は拙著『アメリカ人の物語2 革命の剣 ジョージ・ワシントン(上)』です。もちろんハミルトンも登場します。時代背景を含めて『ハミルトン』を理解したい方は是非、ご一読ください。

ENSEMBLE 1:

Thirty-two thousand troops in New York harbor When they surround our troops! They surround our troops! When they surround our troops! 

「3万2,000人がニュー・ヨーク港に、それからイギリス軍は我が軍を包囲した。イギリス軍は我が軍を包囲した。それからイギリス軍は我が軍を包囲した」

解説:イギリス軍はまずニュー・ヨーク・シティ(マンハッタン島)の南西にあるスタテン島に上陸した。アメリカ軍はマンハッタン島を中心に守りを固めた。

ENSEMBLE 2:

Thirty-two thousand troops in New York harbor They surround our troops! They surround our troops! 

「3万2,000人がニュー・ヨーク港に、イギリス軍は我が軍を包囲した。イギリス軍は我が軍を包囲した。それからイギリス軍は我が軍を包囲した」

HAMILTON:

As a kid in the Caribbean I wished for a war. I knew that I was poor I knew it was the only way to—

「カリブ海で子供の頃、私は戦争を望んでいた。貧しい私が・・・」

解説:ミランダによる注釈

確かに彼はそうだった。14歳の頃、友人のネッド・スティーヴンズに宛てた手紙で「戦争があればなあと私は思う」と書いている。

HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「のしあがる唯一の道」

解説:デイヴィッド・ラムジー著『アメリカ革命史』には、「戦争は才能のある人を要求しただけではなく、才能ある人を生み出したのだ」という有名な言葉がある。ハミルトンはまさにそうした顕著な例である。

HAMILTON:

If they tell my story I am either gonna die on the battlefield in glory or—

「もし私の話をする者がいれば、私は栄光に包まれて戦場で死ぬか・・・」

HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「のしあがるかだ」

解説:ミランダによる注釈

この国ではよくあるように、軍務に就くことは信頼を得るための手段であった。今でもそうなように。

HAMILTON:

We will fight for this land But there’s only one man Who can give us a command so we can—

「我々は我が国のために戦う。でも我々を導ける人物はただ一人・・・」

HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「我々を立ち上がらせる」

HAMILTON:

Understand? It’s the only way to—

「いいかい。それこそ唯一の・・・」

HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up! Rise up!

「挫けない道なんだ」

HAMILTON:

Here he comes!

「さあおでましだ」

George Washington enters, heralded by soldiers.

ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍のおでましだ」

BURR:

Ladies and gentlemen!

「紳士淑女のみなさん」

ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍のおでましだ」

BURR:

The moment you’ve been waiting for!

「君達が待ちに待った時が来たぞ」

ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」

BURR:

The pride of Mount Vernon!

「マウント・ヴァーノンの誇り」

解説:

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マウント・ヴァーノンはジョージ・ワシントンがこよなく愛した邸宅である。詳しくはアメリカ歴史旅XVII―ワシントンの邸宅マウント・ヴァーノンで紹介しています。

ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」

BURR:

George Washington!

「ジョージ・ワシントン」

WASHINGTON:

We are outgunned, Outmanned, Outnumbered, outplanned. We gotta make an all out stand Ayo, I’m gonna need a right-hand man.

「我々は大砲も足りず、人員も足りず、兵力も足りず、作戦もない。我々はすべてをきちんとやらなければいかん。ああ、右腕となる男が必要だ」

解説:イギリス本国の対植民地政策によってアメリカでは製造業の発達が遅れ、独立戦争当時、ほとんど精密な大砲が作れなかった。そのため独立戦争初期、アメリカ軍は大砲の不足に悩まされた。

ワシントンはニュー・ヨーク・シティを守る作戦を立案したものの、制海権を握るイギリス軍を前にしてなす術がなかったというのが実情である。

大陸軍総司令官に着任して以来、ワシントンは副官や書記官からなら幕僚の助けを借りていた。幕僚には、有力者の子弟であることや才能を持つことなど条件があったが、ワシントンのお眼鏡にかなう人物は数人しかいなかった。

ENSEMBLE:

What? What? Buck, buck, buck, buck, buck! Buck, buck, buck, buck, buck!

「何だって何だって。おいおいおい」

WASHINGTON:

Check it—Can I be real a second? For just a millisecond? Let down my guard and tell the people how I feel a second? Now I’m the model of a modern major general, The venerated Virginian veteran whose men are all Lining up, to put me up on a pedestal, Writin’ letters to relatives Embellishin’ my elegance and eloquence, But the elephant is in the room. The truth is in ya face when ya hear the British cannons go…

「注意しろ。私が1秒でも真剣になれるかだと。たった1,000分の1秒でもか。護衛を下げて人々に私が1秒をどれくらいに感じているか分からせようか。今や私は当世風の将軍のお手本、尊敬すべきヴァージニアの古参兵[ワシントン]、兵士達は全員整列して私を祭り上げる。親戚に手紙を書き、優雅な文体で装飾する。しかし、部屋の中に象がいる[本当は無視できない問題なのにあまりに困難なために見て見ぬふりをしている]。真実は君の顔に出ている。イギリス軍の大砲が・・・」

※追記:この部分の解釈についてはコメント欄参照

改訂訳:

「聞いてくれ。私は一瞬であろうとも本心をさらけだせるのか。刹那であろうとも。心の壁を取り払って一瞬であろうとも私が何を思い悩んでるのか人々に伝えてやろうか。今や私は当世風の将軍のお手本、尊敬すべきヴァージニアの古参兵[ワシントン]、兵士達は全員整列して私を祭り上げる。親戚に手紙を書き、優雅な文体で装飾する。しかし、部屋の中に象がいる[本当は無視できない問題なのにあまりに困難なために見て見ぬふりをしている]。真実は君の顔に出ている。イギリス軍の大砲が・・・」

解説:ワシントンは時間に非常に厳格であった。時計を持っている個人が限られている時代、そのように時間に厳格なのは珍しいことであった。

ワシントンはヴァージニア出身でフレンチ・アンド・インディアン戦争時に指揮官になった経験がある。

ワシントンは軍中から親戚に宛てた手紙をたくさん書いている。そうした手紙の中には軍の状況について正直に伝えたものもあるが、敵の手に落ちることを恐れて内情を隠したものもあった。ワシントンが今、困ってるのは、どのようにしてニュー・ヨーク・シティをイギリス軍から守れるかである。

ENSEMBLE:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

Any hope of success is fleeting, How can I keep leading when the people I’m leading keep retreating?
We put a stop to the bleeding as the British take Brooklyn,
Knight takes rook, but look, We are outgunned, Outmanned, Outnumbered, outplanned. We gotta make an all out stand
Ayo, I’m gonna need a right-hand man. Incoming!

「うまくいく見込みはなくなってしまった。私が率いている兵士達が撤退ばかりしているのにどうして指揮ができるというのだ。イギリス軍がブルックリンを奪取したが、我々はなんとかこのひどい状況を止めなければならない。ナイトがルークを取ったが、見よ、我々は大砲も足りず、人員も足りず、兵力も足りず、作戦もない。我々はすべてをきちんとやらなければいかん。ああ、右腕となる男が必要だ。おお、そういう男がやって来たぞ」

解説:「イギリス軍がブルックリンを奪取した」というのは、ロング島の戦いに関して述べている。ブルックリンはニュー・ヨーク市街の対岸にあって、イギリス軍にそこを占領され、大砲を据えられると市街が危険にさらされる恐れがあった。そのためワシントンはブルックリンに部隊を展開して守りを固めていたが、イギリス軍に打ち破られた。

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ミランダによれば、小学生の時に学校でチェスの授業があり、そこでチェスを学んだという。「ナイトがルークを取った」というのは、この文脈ではなんとか一矢報いたといった意味。ロング島の戦いでアメリカ軍は追い詰められ、壊滅の瀬戸際に立たされたが、うまく撤退することができた。それは「アメリカのダンケルク」と呼ばれる奇跡であった。

ENSEMBLE:

What? What? Buck, buck, buck, buck, buck! Buck, buck, buck, buck, buck!

「何だって何だって。おいおいおい」

HAMILTON:

They’re battering down the Battery Check the damages.

「イギリス軍は砲台をやっつけてしまった。損害を確認せよ」

解説:ニュー・ヨーク・シティの攻防の際、ハミルトンは砲兵隊を指揮して戦っていた。

MULLIGAN:

Rah!

「よっしゃ」

HAMILTON:

We gotta stop ‘em and rob ‘em Of their advantages.

「我々は奴らを止めて鼻を明かしてやるんだ」

MULLIGAN:

Rah!

「よっしゃ」

HAMILTON:

Let’s take a stand with the stamina God has granted us. Hamilton won’t abandon ship, Yo, let’s steal their cannons—

「神に我々に与えてくれた力で踏み止まれ。ハミルトンは最期まで諦めないぞ。さあ盗もう、イギリス軍の大砲・・・」

解説:ミランダによる注釈

ハミルトンとマリガンは実際に一緒に大砲を盗みに行っている。

MULLIGAN:

boom!

「ドドーン」

COMPANY:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

Goes the cannon, watch the blood and the shit spray and…

「大砲を守りに行け、流血と混乱を見て・・・」

COMPANY:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

Goes the cannon, we’re abandonin’ Kips Bay and…

「大砲を守りに行け、我々はキップス湾を放棄して・・・」

解説:

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ロング島の戦いの後、イギリス軍はマンハッタン島中部のキップス湾から上陸を試みてアメリカ軍を分断しようとした。イギリス軍の勢いに押されたアメリカ軍は北方のハーレム高地に後退して立て籠もった。

COMPANY:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

There’s another ship and…

「軍艦がもう1隻・・・」

COMPANY:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

We just lost the southern tip and…

「我々はマンハッタン島の南端を失っただけだ・・・」

解説:「マンハッタン島の南端」とは具体的にはニュー・ヨーク市街のこと。当時の市街地はマンハッタン島の南端のみに広がっていた。

COMPANY:

Boom!

「ドドーン」

WASHINGTON:

We gotta run to Harlem quick, we can’t afford another slip. Guns and horses giddyup, I decide to divvy up My forces, they’re skittish as the British cut the city up. This close to giving up, facing mad scrutiny, I scream in the face of this mass mutiny: Are these the men with which I am to defend America? We ride at midnight, Manhattan in the distance. I cannot be everywhere at once, people. I’m in dire need of assistance…

「ハーレムに急いで向かっている。軍艦がもう一隻来たらおしまいだから。大砲と馬が進む。私は兵士達を各所に配置して備えたが、イギリス軍が街を分断すると兵士達はあわててしまった。これはもう敗北に等しい。私は混乱を見極めて騒ぐ兵士達の前で怒鳴った。こんな奴らとともにアメリカを守れるのかと。我々は夜中も馬で走った。マンハッタン島はもう遙か彼方だ。私は独りで同時にどこにでも出現できるわけじゃない。助けが本当に必要だ・・・」

解説:ミランダによれば、「こんな奴らとともにアメリカを守れるのか」という言葉は「珍しくかんしゃくを爆発させたワシントンから直接引用した」という。

以下は拙著『アメリカ人の物語2 革命の剣ジョージ・ワシントン(上)』から該当部分を引用。

キップス湾に展開したイギリスの艦隊は、一時間にわたって激しい砲撃を岸辺に浴びせる。ハウ将軍の書記官は、「砲撃のあまりの凄まじさ、絶え間のなさは、陸軍でも海軍でもそれまで滅多になかったほどであった」と記録している。

キップス湾周辺を守備していたコネティカット民兵は、練度も戦闘経験も乏しい部隊であった。塹壕にただ身を潜めて息を殺している。「塹壕」と称していても、それは川岸に沿って掘られた溝にすぎなかった。激しい砲撃に耐えられる防御施設ではない。しかも敵艦船は至近距離で砲撃を続けている。

砲撃が止む。バグパイプが勇ましく演奏される中、四、〇〇〇人のイギリス軍とヘッセン傭兵は、何の抵抗も受けずに整然と上陸を開始する。獰猛なヘッセン傭兵は、姿を現すだけで、未熟な民兵を震え上がらせるのに十分であった。コネティカット民兵は一発の銃弾も放たずに退却する。

その付近で持ち場についていたジョゼフ・マーティンも撤退命令を受けて後退を始めた。目指す先は北にある大陸軍の陣営だ。途中、マーティンは仲間たちとともに一軒の家に立ち寄ってラム酒を求めた。そして、キングズ橋に通じる道を再び北上し始めた。

キップス湾の近くには、地名の由来となったキップ家の邸宅がある。本国支持派の当主は、民兵に邸宅を宿舎として徴発されて困惑していたが、イギリス軍がやって来たのを知って胸を撫で下ろす。上陸したイギリス軍の将軍たちを邸宅に迎えてもてなす。キップ邸でハウをはじめ将軍たちが、シェリー酒を片手に砂糖入りビスケットを齧っている一方で、兵士たちは断崖の狭間にある小さな浜に上陸を続けていた。イギリス軍は大陸軍を南北に分断しようと動き出す。  

砲声は、キップス湾の北部のハーレム高地にも届く。立ち昇る煙が敵軍の位置を示している。ワシントンは、馬に一鞭入れて南に向かう。副官たちが慌てて総司令官に続く。

40分後、白き稲妻のように疾駆する馬の行く手にトウモロコシ畑が見えてくる。そこで民兵たちが右往左往して混乱に陥っている。士官が隊伍を整えようと声を嗄らして命令を怒鳴っているが耳を貸そうとする者は誰もいない。そこへ数十人のイギリス兵が姿を現す。民兵たちに敵に立ち向かう勇気は残されていなかった。銃を投げ捨て、できるだけ身を軽くして逃げようと慌てふためている。

「壁を守れ。トウモロコシ畑を守れ」

ワシントンの命令が飛ぶ。さらにパトナムが何とか壁の背後に兵士たちを整列させようするが命令を聞く者はほとんどいない。ワシントンの表情にさっと怒りの色が浮かぶ。激昂して乗馬鞭で士官の背中を打ち据える。さらに何とか態勢を立て直そうと、剣の平で左右の兵士たちを叩く。

「こんな兵士たちとともに一緒にアメリカを守れというのか」

そう言ってワシントンは、帽子を地面に投げ捨てる。ワシントンの激昂にもかかわらず、兵士たちは迫り来るヘッセン傭兵の姿に怯えて「悪魔に追われたかのように」逃げ散ってしまった。ワシントンと副官たちだけが戦場に残される。

敵軍が80ヤード(約70m)先まで迫る。ワシントンは、まるで騎乗像のように佇立して、それを凝視している。グリーンのペンを借りれば、ワシントンは「兵士たちの不名誉な行動に非常に困惑したので、生よりも死を選ぼうとした」という。はっと気が付いた1人の副官が、ワシントンの乗馬の馬勒を掴み、馬首を反転させてようやくその場から離れさせる。

Washington's tent. Burr enters.

BURR:

Your excellency, sir!

「閣下」

WASHINGTON:

Who are you?

「君は誰だ」

BURR:

Aaron Burr, Sir? Permission to state my case?

「アーロン・バーです。私の用件を述べてもよろしいですか」

WASHINGTON:

As you were.

「よかろう」

BURR:

Sir, I was a captain under General Montgomery
Until he caught a bullet in the neck in Quebec, and well, in summary I think that I could be of some assistance. I admire how you keep firing on the British from a distance.

「モンゴメリー将軍の下で大尉を務めていました。モンゴメリー将軍はケベックの岬で銃弾に倒れましたが・・・。でもとどのつまり私はお役に立てると思います。イギリス軍を遠くから攻撃し続けられる閣下はすごいと思っています」

解説:ミランダによる注釈

バーは自ら勇敢な兵士であることを示し、イギリス軍に対する遠征に参加している。バーは数週間、ワシントンの下で働き、ここはそれについて言及している。我々はどうしてワシントンとバーが別れたのか理由を知らない。だから私はこのようにこの場面を作り上げた。

ニュー・ヨーク・シティの攻防戦の際に、バーがワシントンの下で一時期、働いているのは事実である。どうやらバーはワシントンの副官になろうとしたようだ。しかし、バーとワシントンはそりが合わなかった。その後、バーはパトナム将軍の副官に落ち着いている。

ハミルトンがワシントンの副官になった一方で、バーがその機会を活かさなかったことは、2人の将来を決定付けることになる。ハミルトンがワシントンの庇護をずっと受け続けたのに対して、バーはそうではなかった。バーのワシントン評は非常に辛辣である。したがって、歌詞にもワシントンに対する皮肉が込められている。

画像6

拙著『アメリカ人の物語2 革命の剣ジョージ・ワシントン(上)』から抜粋。

12月30日午後、再び吹雪が吹き荒れる。最後の好機であった。夜になっても吹雪は一向に止む気配を見せない。積雪は多い所で6フィート(約1.8m)に達した。午前四時、モンゴメリーは兵士たちに戦闘陣形をとるように命じる。兵士たちは同士討ちを避けるために白い紙片を帽子に付けた。作戦は次の通りである。

モンゴメリー率いる300人が、ダイヤモンド岬をすり抜けて、南からローワー・タウンに侵入する。その一方でアーノルド率いる600人は、北から狭い川岸をたどって、同じくローワー・タウンを目指す。そこで合流してアッパー・タウンに侵入する。できるだけ妨害を受けずに済むように同時に陽動を仕掛ける。リヴィングストンが西側のサン・ジャン門を攻撃する一方で、ブラウンがダイヤモンド岬にある稜堡に吶喊する。その隙に本隊がアッパー・タウンに侵入できれば、きっと城塞内が恐慌状態になって、カールトンは降伏を余儀なくされるだろう。

午前4時、信号弾の発射とともに作戦が開始される。北西からの強風が兵士たちの顔に雹混じりの雪を吹き付ける。モンゴメリーは兵士たちを先導して氷塊を乗り越え、時には断崖をよじ登って、まずダイヤモンド岬を目指す。副官に任命されたバーも将軍のすぐかたわらに付き従う。

信号弾に気づいたのはアメリカ軍だけではない。城内に籠もるイギリス軍にとっても作戦開始の合図となった。戦鼓が打ち鳴らされる。ノートル・ダム・デ・ヴィクトワール教会の鐘が鳴り響く。「勝利の聖母」の意味を持つこの教会の鐘の音が、アメリカ軍とイギリス軍のどちらの勝利の福音となるかはまだ誰にもわからない。通りに飛び出した士官たちは「出動。出動」と叫びながら持ち場に向かう。棒の先に吊されたランタンが城壁に並べられる。大砲が轟音とともに火を吹き始める。

城下のモンゴメリーはダイヤモンド岬の端まで進む。行く手をバリケードが阻んでいるのが見えた。特に抵抗はないようだ。モンゴメリーは、自ら鋸を手に取ると障害物を破壊して前進する。その後に兵士たちが続く。

目の前に防塞が聳え立つ。ここを何とかして通り抜けなければ、ローワー・タウンに侵入できない。まず一人の士官が様子をうかがいに前進する。緊張が走るが、防塞は沈黙を保っている。100ヤード(約90m)先のバリケードも難なく突破された。狭い道の先に一軒の住居が見えた。兵士たちの遅れに苛立ったモンゴメリーは声を上げる。

「進め」

さらにモンゴメリーは叫ぶ。

「勇敢な兵士たちよ、進め。おまえ達の将軍が進めと呼び掛けているのだ」

バーは戦場の興奮に頬を紅潮させた将軍の顔を見た。副官と目が合うとモンゴメリーは快活な声で言った。

「2分以内に防塞を落とせるだろう」

その時、将軍の声を掻き消す轟音が鳴り響く。20ヤード(約18m)先の住居から銃弾や散弾が炸裂する。それは春を迎えて花が一斉に満開になったかのようであった。敵兵が身を潜めていたのだ。熱い血潮が雪の上に広がる。10人余りが朱に染まってその場に倒れていた。

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