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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説15―Ten Duel Commandments 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”Ten Duel Commandments”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

リーとローレンスの決闘の背景は、『アメリカ人の物語3』の予定稿から解説。以下、抜粋。

モンマス郡庁舎の戦いの後、リーの処遇が懸案事項として残る。明らかにワシントンはリーに対して不信感を募らせていたが、いったん指揮権を剥奪した他は特に何らかの処分を下したわけではない。しかし、将兵を賞賛する布告からリーの名前は除外されていた。「非常に不公平だ」と憤ったリーは、ワシントンに激しい言辞で謝罪を要求する。しかし、謝罪の代わりに返ってきたのは、不法行為を審査するという告知だけであった。

7月4日、軍法会議が始まる。リーによれば、「敵を攻撃しないように求める命令に従わなかったこと」、「不必要で無秩序かつ恥ずべき撤退をおこなうことで敵前で守地を放棄したこと」、そして、「総司令官への不敬」の3つで訴追されたという。リーを支持する多くの証言が寄せられたのにもかかわらず、最終的に軍法会議は、3つの点すべてについてリーを有罪だと判断して一年間の軍務停止処分を下した。ただ「恥ずべき」という文言は削除された。

軍法裁判で敗れて猜疑心に駆られたリーは、「人民に対するリー将軍の弁明」という記事を『ペンシルヴェニア・パケット紙』に掲載した。それはワシントンに対する強い非難であった。激怒したジョン・ローレンスは、総司令官の名誉を守るためにリーを「永遠に黙らせよう」と誓った。決闘である。

決闘は18世紀に流行し始めた慣習である。それは紳士たる者が何よりも大切な名誉を守るための方法であった。もちろん裁判に訴えるという方法もある。しかし、裁判は時間も費用もかかるうえに男らしい行為だとは考えられていなかった。したがって、名誉に関わる問題を決定する場として法廷ではなく決闘場がしばしば使用された。  

ある冬の日の午後、ローレンスは介添人のハミルトンを連れて意気揚々とフィラデルフィア郊外の森の中に向かった。決闘場にはリーが介添人とともに待っていた。介添役には、決闘が規則に従っておこなわれるか見届ける義務がある。

ローレンスとリーは向き合って対峙する。両者の距離は互いに六歩しかない。ほぼ同時に銃口が火を噴く。

MEN:

One, two, three, four

「1つ、2つ、3つ、4つ」

FULL COMPANY:

Five, six, seven, eight, nine…

「5つ、6つ、7つ、8つ、9つ・・・」

BURR/HAMILTON/LAURENS/LEE:

It’s the Ten Duel Commandments.

「決闘の10の掟」

FULL COMPANY:

It’s the Ten Duel Commandments. Number one!

「決闘の10の掟。1つ目の掟」

LAURENS:

The challenge: demand satisfaction. If they apologize no need for further action.

「挑戦。謝罪を要求。もし相手が謝罪すればさらなる行動は必要ない」

COMPANY:

Number two!

「2つ目の掟」

LAURENS:

If they don’t, grab a friend, that’s your second.

「もし相手が謝罪しなければ、友達をつかまえて介添人になってもらう」

HAMILTON:

Your lieutenant when there’s reckoning to be reckoned.

「補佐役はあてになる者にしよう」

COMPANY:

Number three!

「3つ目の掟」

LEE:

Have your seconds meet face to face.

「介添人が対面する」

BURR:

Negotiate a peace…

「平和的解決を図る」

HAMILTON:

Or negotiate a time and place

「もしくは決闘の場所と時間を決める」

BURR:

This is commonplace, ‘specially ‘tween recruits.

「よくあることさ、特に新兵の間ではね」

COMPANY:

Most disputes die, and no one shoots. Number four!

「口論の種がなくなれば誰も銃を撃たない。4つ目の掟」

LAURENS:

If they don’t reach a peace, that’s alright. Time to get some pistols and a doctor on site.

「もし平和的解決ができなかったらそれでよい。ピストルを準備して医者を立ち会わせる」

HAMILTON:

You pay him in advance, you treat him with civility.

「君は前もって奴に挨拶して丁寧に奴を扱うように」

BURR:

You have him turn around so he can have deniability.

「君は奴を振り向かせて否認できるようにしなければ」

COMPANY:

Five!

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