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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説11―Satisfied 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”Satisfied”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

It is Alexander & Eliza's wedding night. Laurens is finishing up his speech.

LAURENS:

Alright, alright. That’s what I’m talkin’ about! Now everyone, give it up for the maid of honor, Angelica Schuyler!

「けっこう、けっこう。もう十分に話したから。さあ皆さん、花嫁の付添人アンジェリカ・スカイラーの出番だよ」

ANGELICA:

A toast to the groom To the bride. From your sister. Who is  always by your side. To your union. And the hope that you provide. May you always... be satisfied.

「花婿に祝杯を。花嫁に祝杯を。いつもあなたのそばにいる姉から。あなた達の結婚に祝杯を。そして、あなた達がもたらす希望に祝杯を。願わくばあなたがいつも満ち足りていますように」

解説:ミランダによる注釈

「Satisfied」は「Helpless」のように様々な意味をひねり出している。あらゆる形の満足がある—性的、感情的、経済的など。

この歌詞全体はハミルトン、イライザ、アンジェリカの複雑な三角関係を表現している。前述のように、ハミルトンはイライザに良妻賢母の要素を求めた一方で、アンジェリカに女の要素を求めた。アンジェリカとイライザの二人が揃って初めてハミルトンにとって理想の女性となる。

したがって、ハミルトンはイライザだけでは満足できず、またアンジェリカもハミルトンの愛情を独占できず満足できない。またイライザも夫に対する姉の感情に薄々気付いていたようで心穏やかではない。三者三様に満ち足りることはない。

それにハミルトン自身の問題もある。ハミルトンはその出自から自分がどこか余所者であるという感覚をなかなか捨てきれなかった。家族ができたことでそうした感覚は和らいだものの、恵まれぬ生まれ故に強くなった野心の炎が消えることはなかった。

ALL MEN:

To the groom! To the groom! To the groom! To the bride! To the bride! Angelica! Angelica! Angelica! By your side! To the union! To the revolution! You provide! You provide!

「花婿に祝杯を。花婿に祝杯を。花婿に祝杯を。花嫁に祝杯を。花嫁に祝杯を。アンジェリカ。アンジェリカ。アンジェリカ。あなたのそばに。あなた達の結婚に祝杯を。革命に祝杯を。あなた達がもたらす希望。あなた達がもたらす希望」

ALL WOMEN:

To the groom! To the bride! To the bride!

「花婿に祝杯を。花嫁に祝杯を。花嫁に祝杯を」

ELIZA:

Angelica! By your side! To the union! To the revolution! you provide! Always— Rewind—

「アンジェリカ。あなたのそばに。結婚に祝杯を。革命に祝杯を。あなた達がもたらす希望。いつも・・・思い返して」

HAMILTON:

Always— Rewind—

「いつも・・・思い返して」

Rewind to the ballroom scene where Hamilton met Eliza.

解説:A Winter's Ballのシーンを回想している。

ANGELICA:

I remember that night, I just might regret that night for the rest of my days I remember those soldier boys tripping over themselves to win our praise I remember that dreamlike candlelight Like a dream that you can’t quite place But Alexander, I’ll never forget the first Time I saw your face I have never been the same Intelligent eyes in a hunger-pang frame And when you said hi I forgot my dang name Set my heart aflame, ev’ry part aflame,

「あの夜を思い出す。ずっとあの夜のことを名残惜しく思うわ。先を争って私の賞賛を求めに来るつわもの達。夢のように輝く蝋燭の光。あなたが決して見ないような夢のように。でもアレグザンダー、私はあなたの顔を初めて見た時のことを忘れない。あなたの瞳のような苦悩の炎を宿した聡明な瞳を見たことがないわ。そして、あなたが私に挨拶した時、私は我を忘れてしまったわ。私の心に火が付いたの。すべてが燃え盛り・・・」

FULL COMPANY:

This is not a game…

「遊びではない・・・」

HAMILTON:

You strike me as a woman who has never been satisfied.

「決して満ち足りない女性としてあなたは私を悩ませる」

ANGELICA:

I’m sure I don’t know what you mean. You forget yourself.

「あなたが何を言いたいか分からないわ。あなたは我を失っているのよ」

HAMILTON:

You’re like me. I’m never satisfied.

「あなたはまるで私のようだ。私は決して満ち足りたことがない」

ANGELICA:

Is that right? 

「それは本当なの」

HAMILTON:

I have never been satisfied.

「ああ、私は決して満ち足りたことがない」

Hamilton kisses Angelica's hand. The company gasps.

ANGELICA:

My name is Angelica Schuyler.

「私の名前はアンジェリカ・スカイラー」

HAMILTON:

Alexander Hamilton.

「アレグザンダー・ハミルトン」

ANGELICA:

Where’s your fam’ly from?

「あなたはどういった家の出ですか」

HAMILTON:

Unimportant. There’s a million things I haven’t done but Just you wait, just you wait…

「取るに足らない家の出です。まだ成し遂げていないことがたくさんありますが、これからです。これから・・・」

ANGELICA:

So so so— So this is what it feels like to match wits with someone at your level! What the hell is the catch? It’s the feeling of freedom, of seein’ the light, It’s Ben Franklin with a key and a kite! You see it, right? The conversation lasted two minutes, maybe three minutes, Ev’rything we said in total agreement, it’s A dream and it’s A bit of a dance, a Bit of a posture, it’s a bit of a stance. He’s a Bit of a flirt, but I’m ‘a give it a chance. I asked about his fam’ly, did you see his answer? His hands started fidgeting, he looked askance He’s penniless, he’s flying by the seat of his pants Handsome, boy, does he know it! Peach fuzz, and he can’t even grow it! I wanna take him far away from this place, Then I turn and see my sister’s face and she is...

「そうね、そうね。あなたのように賢明な誰かと知恵比べをしたらどんな感じかしら。いったいどんな素敵なことがあるかししら。自由な気持ちになって素晴らしい人を仰ぎ見る。鍵と凧を持ったベンジャミン・フランクリンを。お分かりかしら。会話は2分、きっと3分は続いたわ。言うことがすべてぴったり息が合う。夢、それからちょっとしたダンス、ちょっとした気取りに気構え、ちょっとしたおふざけ。私が彼にどこの家の出か聞いた時、彼の答えはどうだったか。彼は手をそわそわ動かして目を逸らせた。彼は文無しで天性の勘で乗り切っている。自分がハンサムだって分かっているのかしら。まだ髭だって満足に生えそろっていないけれど。私は彼をここから連れ出したい。ふと私は振り返って妹の顔を見る。妹は・・・」

解説:「鍵と凧を持ったベンジャミン・フランクリン」とは以下のような絵を見ると分かるようにフランクリンの事績に基づいている。

画像1

これはフランクリンが凧を使って雷を電気と証明した実験を描いた絵画。ワイヤー(先に凧が繋がっている)に鍵を通している。鍵から宙を伝ってフランクリンの拳に火花が散っている。フランクリンが新聞に寄稿した実験の様子をもとに描かれている。

ELIZA:

Helpless…

「困惑している」

ANGELICA:

And I know she is...

「私は分かっている。彼女が・・・」

ELIZA:

Helpless…

「困惑している」

ANGELICA:

And her eyes are just…

「そして、彼女の瞳は・・・」

ELIZA:

Helpless…

「とまどっている」

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