君は薔薇より美しい


Anger in Theater

「映画の陵辱だけは耐え難い/AV女優を辞める話」【戸田真琴 2023年1月号連載】『肯定のフィロソフィー』

僕が見た回の舞台挨拶で、司会者が観客に質問を求めたのに続けて戸田真琴監督が、
「難しいかな・・・?」
と漏らしたのはこういう経緯があってのことだったのだろうか。

怒りに震えた時の戸田真琴さんの言葉は切れ味が増す。肯定的な文言を書いている場合ではないのだが、共感能力が著しく欠けている僕の感想はこういう始まり方になる。端的に言って、僕はひとでなしなのだ。

衣装が似合わないだのメイクが濃いだの説教ばかりでインディーズアイドルの現場を出禁になる、3ヵ月ごとに「切る」(次回以降の視聴をしないと選択する)ためにアニメやドラマの新番組を見る、「見る」より先に「切る」を楽しむ、そんなタイプ。
こういう手合いは滅ばない。

それなりの数の受け手が内面的に幼い時期において一度は通り、やがて成長するにしたがって卒業していく過程の段階だから、それができない程度に幼いまま、知性不足の輩も一定数存在してしまう。

すべての表現者は自分が理解できる作品を作る義務があり、自分にはそれを要求するための、対価を払った分の権利がある。わからないと疎外感を味わう。「わからないのはお前が悪い」と言われないように、先に「わからない(けどオレ悪くないよね?)」と口に出す。
与えられる快楽にしか興味のない者は、与えてくれないものを冷酷に扱うことで代替的な快楽を貪る。
もっとイージーに、カジュアルに、一瞬で、省エネルギーで消費させろ。

えーいうるさい黙れ黙れ黙れ。なぜ表現者がどこの馬の骨ともわからんお前の鈍い感性・足りない知性を意識する必要がある。今日出会ったものを、昨日までの自分のまま更新せずにわかろうと思える甘ったれた考えはどこから来るんだ? 表現者は納得いくまで日々何度も表現と己を更新しつづけるのに。

もういちど『永遠が通り過ぎていく』

「何度も、死ぬほど幸福だと思えた」監督・戸田真琴が映画製作で見た景色【映画『永遠が通り過ぎていく』インタビュー】

読むのは映画を見てからにしよう、という自分の判断は、自分自身については間違っていなかったと確信する。
・戸田真琴さんが監督です
・三つの短編が一つになっています
・どの短編にも女性が登場します
それ以外の情報は、できるだけ意識したくなかったから。

『永遠が通り過ぎていく』をあらためて振り返って、十分な注意を払っていい加減な言葉遣いをすると、〈衝動〉と切り離せない作品であった、とも言えるかもしれない。
そうしないで生きることができなかった魂の記録。

「徹底的に〈個人的〉を突き詰めたものは普遍性を帯びる」
メディア系専門学校の講師(メディア論か何かの授業だった)の言葉で今も心に焼きついているものの一つだが、そういう映画でもあった。
個人の内より出でて、無数の誰かたちの内に刺さるもの。もちろんアップリンク吉祥寺の館主もその一人のはず。

例外など知ったことか。映画の中だけは私が中心でマジョリティで独裁者だ。映画とはそれでいい。それが許される芸術だ。

表現者に振り回されるのを快く感じる観客がいて、自分に表現者を従わせたい観客がいる。それは確かに選べない。

薔薇は美しく散るけれど

私はもう二度と、私を思い通りにしようとする誰かの思い通りにはならない。

戸田真琴さんの背中が叫び、目が誓っている。その姿は痺れるほどに美しい。

気高き者、汝の名は戸田真琴さん。
気高き薔薇には散ることも大事だけれど、散られてしまっても困る。だって僕らは薔薇がなくちゃ生きていけないトライブ。

自由への長い旅

解放への、積極的で前向きな逃走。戸田真琴さんは、割と早い段階でそれを企図していたんじゃないかと思っている。

僕が〈ASDの傾向が強い〉と心理検査の結果を告げられた時の、
「ああ、これでやっと〈普通の人〉の世界から脱け出せる」
そんな解放感を伴った歓びと、もしかしたら近いのかもしれない。

対象を自分の理解できる鋳型にハメ込んで、分類して倉庫にしまうことを〈わかった〉ことにして、ハマらないものには冷酷に、ハマれと同調圧力をかける。
貴様はそんなにエラいのか。鋳型からはみ出た者の怨嗟は風に吹き飛ばされる。

そういう連中とは距離を置くに越したことはない。逃げ出そう。堂々と胸を張り腕を振って。自分が自分を大切にしなければ、誰からも大切にされないのだから。

それは終わりのない漂泊の旅路かもしれないけれど、見上げたものと同じ空の下、どこかで戸田真琴さんが奮闘しているならば、僕らも僕らの理想郷を求める旅が続けられるのかもしれない。

それぞれの重荷を、少しずつ分けあえたらいいね。

今回の蛇足

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