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ファイターズは西川遥輝を手放すべきだったのか 後編

 前編では、西川遥輝がいかに素晴らしい選手なのかを紹介してきた。

 ではフロントはなぜ西川を手放すことにしたのか。この理由について後編で探っていくことにしよう。

 まず、今季の成績を見ていく。

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 今季はとにかく苦しみ続けた一年となった。レギュラーに定着した2014年以降最低となる打率.233、OPSも初めて7割を切り.673。MLB挑戦を表明したもののその夢は叶わず残留することとなった昨オフからの調整は心身ともに難しいものだっただろう。
 一見すると不調の原因は変化球を打てないことにあるようにも思える。しかし、根底にある不調の原因は速いストレートを捉えられないこと(150キロ以上の速球に対する打率.213)にあった。基本的に打撃で好成績を収める選手はストレートに強い。それに加えて、変化球もそれなりに打てれば一流に近い。
 それでも、今季もRun Value(得点価値)では6.23を記録。これは、他球団で言うと、西川龍馬や青木宣親とほぼ同等の成績だ。打率が低く苦しんだイメージの今季でも、四球を選べることで平均以上の仕事はしてくれるのは大きな強みだ。

 次に、ファイターズ内の野手のRun Valueランキングを見てほしい。

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 これを見て一つ引っ掛かるところがある。それはプラスを叩き出したのが、近藤健介、西川遥輝、王柏融の3人であることだ。少ないということを言っているわけではない。ポジションの問題だ。近藤は今季こそライトでの出場を増やしたものの、昨季まではDHとレフトでの出場がほとんどだった。王もDHがメインで、守るとしたらレフトしか守れない。そして、西川も今季に入りセンターからレフトへとコンバート、事実上、レフトとDHでの出場しか見込めない。完全に3選手、特に西川と王のポジションが被っているのだ。結果的に今季、王は5月頭辺りから好調を維持していたものの、交流戦ではポジションがなく代打としてベンチで待機、その後も調子の問題もあったがベンチを温める機会が多かった。数字的には3人しかいない打撃でプラスを叩き出せる野手のうち1人をスタメンで出せないことは戦力的に非効率と言わざるを得ない。ファイターズには余剰戦力を保有する財政的な余裕はない。戦力の極大化が求められる。そこでこのオフ、ファイターズは西川と王とを天秤にかけた(厳密に言うと、この2人だけではないが。)。

 判断の前提として、来季のファイターズのチーム作りに求められる2つのポイントについて話したい。

 1つ目はチームの慢性的な長打力不足の解消だろう。
今季チームは打撃で大きなマイナスを作った。はっきり言うと、投手力は確実にAクラスに入ることができるだけのものがありながら、打撃力のマイナスが大きすぎるばかりにAクラス争いには全くかかわることができなかったほどだ。その最大の原因は何か。圧倒的な長打力不足だろう。本塁打数74はリーグ断トツの最下位(11位/12球団、1個上のイーグルスが105本)、長打率.337は12球団最下位だ。野球中継を見ていると、長打が打てなくても単打で繋いで小技を絡めて一点をもぎ取っていけば勝てるという意見を野球解説者が言っていることを聞くこともあるだろう。それは、その試合限りの見方としては正しい部分もある。たしかにある試合においては、泥臭く取った1点を守り切ることもあるだろうし、実際にそういった部分が勝敗を分けることもたくさんある。しかし、143試合という長いシーズンを展望する上では、そういった要素の影響はかなり小さい。少ないチャンスで一本出るかどうかの確率は収束するため、チャンスでの打席数を増やし試行回数を増やすことが大事であり、さらに言えば、チャンスでなくても点を取ることができる長打、特にホームランの数を増やすことが重要になってくる。

 2つ目としてポジションの流動性の向上が挙げられる。
 ファイターズは若手のブレイクを原動力に戦う部分が大きい。しかし、最後に日本一となった翌年の2017年以降は、岡や横尾、石井、清宮などブレイク候補として出場機会を与えられてきた選手たちが期待に応えられず、ポジションに穴をあけることが多かった。他方で、今季の髙濱のように下馬評が高かったわけではない選手が這い上がり頭角を現すこともある。この教訓を生かすべきだ。つまり、誰がブレイクするかは予測できないため、ブレイク候補の誰か一人にポジションを預けるのは非常に危険なのだ。不確定要素が多い戦力で戦うからこそ、そこに対するリスクマネジメントをしなければならない。ファイターズにはいかんせん選手層を厚くするためのお金はないが、主力の選手を含めて複数のポジションを守らせることができれば、振るわなかった選手、ブレイクした選手それぞれに合わせて上手く布陣をトランスフォームすることができる(ポジションの流動性がないゆえに今季のような打力のポジション的偏在が生まれた)。栗山前監督が複数ポジションを守ることができることを重要視していたことも、今年の秋季キャンプでポジションをシャッフルしてのノックを行っていたことも、ここに繋がってくる。全ては戦力の極大化のためだ。

 はっきり言って、西川と王を比べたときには、現時点では西川の方が選手としての総合力も実績も上だ。それはまず間違いない。

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 ただ、今のファイターズでレフトというポジションに置くレギュラーの選手としてはやや物足りない部分があり、選手としての伸びしろも大きくはないことは認めざるを得ないだろう。一般的に、外野(特にレフト)とファースト、DHは打力の高い外国人選手を引っ張ってきやすいポジションだ。それゆえに、レフトというポジションを空けて、王をはじめ、若手、新外国人などのブレイクを期待したのではないだろうか。これは西川が悪いわけではない。現に、西川を獲得したイーグルスはセカンドに浅村、サードに茂木という強力な打者がおり、今季外国人選手を2分の2で外した経緯もあって、安定してプラスを叩き出すことが見込める西川の獲得に至ったのだろうと推測できる。つまり、西川遥輝のバリューを活かせる土壌がファイターズには無くなってしまったのだ。大谷や中田、レアードらがいた頃には西川のバリューを存分に活かしていたが、彼らのようなポイントゲッターが今はいない(近藤も今季途中まではポイントゲッターではなかった)。野手陣を大きく刷新しなければ、来季も大きな上積みは期待できないのが実情だ。
 そこでチームは、より長打を期待することができ、今季3年目にしてようやくNPBに順応する兆しを見せた王を残して、新外国人のヌニエスや期待の若手の万波らと競わせる方を選んだのだろう。

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 非情にも思える人事であり、チームの顔の一人が移籍することは寂しいが、西川にとっても自分の能力を最大限活かしてくれる環境に移籍することは選手としてプラスになるはずだ。

 来季が終わったときに、ファイターズにとっても西川にとっても良い決断だったと振り返りたい。

サムネイル写真:西川遥輝(前北海道日本ハム)©報知新聞社

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