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ファイターズの抱える構造的欠陥と抜本的改革の必要性

 開幕して約2か月、投打ともになかなか調子が出ず借金9で最下位に沈んでいる。特に打線は打率、長打率、三振などで12球団ワーストと得点がなかなか期待できない状況だ。
 直近2シーズンは北海道移転後初の2年連続Bクラスに沈み、迎えた2021年シーズンも解説者の順位予想は最下位予想がズラリと並ぶ状況。
一体どこに問題があり、どうしたらいいのかについて考えていきたい。

1 チーム作りが上手くいっていない理由

 「日本一になった2016年はチームが上手く回っていっていたからこそ優勝できた」ということを前提に、そこからのチームの変化を追うことでチーム作りにおけるいくつかの誤算が見えてくる。

①陽岱鋼→岡大海
 岡は2016年にシーズン中盤から一軍に合流し、154打席でシーズン打率.374・OPS.924を記録。シーズン終盤からポストシーズンにかけては6年近く不動のレギュラーだった陽岱鋼を押しのけスタメンで出場するまでになっていた。
 同年オフ、チームはFAとなった陽を放出。チームのコアだった陽をすんなり手放した裏には陽自身が古傷の影響もあり成績が下降線を辿るとの予測もあっただろう。しかしそれ以上に、目覚ましい活躍を見せた岡という存在が大きな影響を及ぼしたのは間違いない。岡にセンターのポジションを用意し、レギュラーへ育てることをチームの方針としたのである。
 しかし翌年、開幕から岡は大不振に陥り、シーズン途中から西川をセンターへコンバートせざるを得なくなった。ここが一つ目のターニングポイントとなった。
 ここからセンターのポジションは今季の4月頭まで西川の定位置となっていたが、西川も年を追うごとに守備面でのパフォーマンスの低下が顕著になり、事実上チームはセンターの進塁抑止を完全に捨てることとなっていた。
 今季の4月中旬、チームはついに西川をセンターからレフトへと再コンバートし、春先に好調を維持していた淺間や快足のルーキー五十幡、大きなポテンシャルを見せる万波らにセンターを託すという大きな決断をした。この決断が避けられないものであったことは間違いなく、春先にコンバートするならなぜ春のキャンプからコンバートしなかったのかはいささか疑問ではあるものの、早いに越したことはないといえるだろう。

②田中賢介・レアード→横尾俊建
 横尾は2017年の終盤に頭角を現し、8月後半からの短期間で7本のホームランを放つなど長距離砲としての可能性を感じさせる活躍を見せた。
 そこで、2018年開幕から衰えの見え始めた田中賢介に代わりセカンドのポジションに抜擢。しかし、横尾も結果を残すことはできずセカンドのポジションは渡邉諒に譲る形となった。それでもシーズン全体で9HRを記録し、CSではレアード不在の穴を埋める活躍を見せた。
 そして、横尾に再度レギュラーへのチャンスが訪れる。2018年オフにレアードが退団することになったのだ。レアードと再契約には至らなかった最大の理由はチームの提示した契約とレアード側の希望する契約の間に乖離があったことだと言われているが、横尾の存在がレアードを慰留しないというフロントの決断の一要素となったに違いない。
 しかし、それからの2年間横尾は目立った成績を残せず、サードはチームの大きな弱点となってしまう。
 現在は野村というニュースターの誕生によりサード問題は解消へと向かいつつあるが、若くして負傷癖がついてしまっているのが懸念される。

③大谷翔平→王柏融
 大谷翔平が退団した2017年オフからDHを埋める強打者を獲得することは急務だった。2018年はアルシアを獲得したものの奏功せず、白羽の矢が立ったのが台湾リーグで圧倒的な成績を残していた王だった。
 もちろん大谷の穴を完全に埋めることは不可能だろう。しかし、2019年、2020年と王は日本の野球に適応できず、今季も開幕は2軍でのスタート。DHは近藤らレギュラー陣の休養のためのスポットとなってしまった。
 王の不振のチームへの影響が大きいのには理由がある。それは王との間で3年契約を結んでいること。
 はっきり言うと、2019年の王の成績であれば、新たなDH候補の外国人野手を獲得するという選択をするのが通常であり、去年の成績ではなおさらだろう。それでも王をチームに残し新たなDH候補の外国人野手を獲得できないのは3年契約という長期契約を結んだためである(もちろんCOVID-19の影響もあるだろうが、アーリンとR・ロドリゲスという新外国人選手を獲得しているところをみると、DH候補の外国人野手を獲得というチョイスそのものが不可能だったとは言い切れない。)
 しかし、4月終わりに一軍に昇格した王は今日までここ2年の姿とは違う姿を見せている。最大の変化は打席内で明確な狙いを持ち、狙った球を引っ掛けずに確実に仕留めている点にある。当たり前に思うかもしれないが、簡単な事ではない。速球系に強く曲げ球・落ち球に弱いという傾向は変わってはいないものの、先日カーブをホームランにするなど成長は見せている。王については今度の機会に詳しく話したい。

 他にも大野奨太のFA移籍後の穴埋めを期待された清水、王とともにDHのレギュラー獲得が期待された清宮ら若手によるチーム力の底上げが図れていないのは低迷の大きな原因だろう。

2 もう一つの大きな問題

 長打力不足が深刻化している。

 昨季1本差でホームランキングの座を逃した中田は開幕から大不振、大田も昨季同様の春先の低調っぷり、野村は負傷で戦線離脱。これらの影響は大きく、チーム全体でホームラン25本はリーグワーストの成績。ホームランによる同点・勝ち越し・逆転の恐怖は、どんな好投手にもつきまとう最大のプレッシャーだ。しかし、今のファイターズの打線に長打の恐怖はない。

 現在のチームの長打力不足を象徴してるのが渡邉諒だ。
 渡邉が頭角を現したのは2018年。7月中旬の札幌ドームでバンデンハークから放った2打席連続ホームランは鮮烈な印象を残した。この年はその後現在MLBで活躍する菊池雄星やモイネロらからもホームランを放ち、2ヵ月ほどで7本のホームランを記録した。このように当初は長打が魅力の選手だった。

 しかし、渡邉は正反対の道へと進んでいる。

 打率や出塁率が年々上昇する一方で、純粋な長打力を示すISO(長打率-打率)とホームランの割合は年々低下。今季に限っては153打席で未だにホームランは0

 出塁率が上昇することが悪いと言っているわけではない。むしろアウトにならないことこそが野球における打者の究極的な理想であると考えれば、出塁率の向上は褒められてしかるべきだろう。しかし、長打力のある選手が長打を捨てて出塁にシフトすることは、チームの得点という目的に向かう上では遠回りだ。彼のように長打力のある選手は"繋ぐ"選手ではなく"決める"選手になるべきだからだ。

 今のファイターズには約5年もの間、西川遥輝と近藤健介という二人の出塁の鬼が打線に存在する。彼らはもちろん自分で試合を決める能力も持っているが、それ以上に出塁の面で洗練されている。こんな特殊な才能を持つ選手が二人もいるチームは12球団を見渡してもファイターズだけだ。しかし、肝心の彼らを返す役割の選手がまるでいない。これでは宝の持ち腐れだ。現に近藤が自らポイントゲッターへと変貌しつつあるのはその最たる証拠だろう。上で挙げた陽、田中賢介、レアード、大谷はいずれも2016年にポイントゲッターとして活躍してた選手たちだ。
 だからこそ、渡邉のような選手には、彼らを返す役割を担ってほしい。西川や近藤はいまやチームの顔であり、彼らのようになりたいと考えるのは自然な流れかもしれない。しかし、彼らをバットで返したいと考える若い選手が増えることが打線の機能不全を解消する最大の近道だ。
 野村や万波、郡など鎌ヶ谷で結果を残し自信をつけて一軍で頭角を現し始めた若武者たちが、一軍の「色」に染まらず自分の信念を貫き長所を存分に発揮した先には、明るい未来が待っているはずだ。

トップ写真 レアード(元北海道日本ハムファイターズ)©株式会社文藝春秋

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