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アリエル・マルティネス 唯一無二のニューカマー

 2022年12月、5年間過ごした名古屋に別れを告げ、アリエルが選んだ新天地は北海道。
 シーズン前に選出されたWBCキューバ代表で準決勝まで戦い、その後わずか1週間の調整のみで迎えたアリエル・マルティネスの2023年についてレビューしていく。

1 基本スタッツ

 2023年シーズンの基本的な打撃成績は以下のとおり。

 プロ初の規定打席に到達。安打、二塁打、本塁打等の積み上げ系のスタッツは軒並みキャリアハイ。
 打率、OPSその他の指標においては、終盤に尻すぼみとなり、昨年からやや下降したものの、OPSは7割後半をマークし、チームのコアとして活躍した。
 打率が低くても、四球を取ることができる選球眼を持っており、出塁率が高い。ホームランを打つ長打力とボール球を振らない選球眼を併せ持つところが大きな魅力。
 月間成績で見ると、春先は開幕直前までキューバ代表としてWBCに出場していた影響からか調子が上がらず、9月はBクラスの確定によるモチベーションの低下や初のシーズン100試合以上の出場による疲労の影響からか成績が大きく悪化した。しかし、それ以外の月を見ると、OPS8割以上を3回、9割以上を2回記録し、ハイレベルな打撃を見せた。

 追い込まれると打率が1割台まで低下するものの、44四球中24四球はフルカウントから獲得したものであり、追い込まれてからも冷静に四球で出塁することが出来るのは大きな強みといえる。

 交流戦から主に北山や上原の先発登板日にバッテリーを組むこととなり、捕手としての出場を増やしたが、北山が登録を抹消された8月以降は再び捕手としての出場が減少した。
 キャンプに参加できなかったことにより、ブルペンで投手陣のボールを受ける機会が少なかったことにより、出場機会が限定された側面もあると考えられる。
 ブロッキング能力が高く、スローイングも悪くないため、他の捕手に対する相対的な打撃面でのアドバンテージを考えると、来季は春季キャンプから捕手としての調整を進め、捕手としての出場機会を増やしてほしいところ。

 【参考】2022年シーズン打撃成績

2 ブレイクダウン

 より詳しく今季の成績を昨季と比較してみる。

 2ストライク後のボール球スイング%は、300打席以上の打者86選手中14位・チーム内1位と、ボール球を見極めてフルカウントからの四球を多く獲得していることも納得の選球眼を持っている。
 加えて、2ストライク後でもフェアゾーンに飛べば追い込まれる前と同水準の結果が期待できることから、追い込まれても追い込まれる前と同様のハードヒットを期待することができるスイングを維持できているといえるだろう。

 昨季と比べて、三振、四球ともに割合が増えており、全体的な割合としては万波と似ている印象。
 長距離打者としては、追い込まれる前の打率、長打率はやや物足りないため、2ストライク時のアプローチは維持しつつ、追い込まれる前の結果を昨年の水準まで戻すことが出来れば、万波とともに強力な打線のコアとなるだろう。

 さて、次は左右・球種別成績で比較してみる。

 昨季は落ちる球に対する成績が良いのが特徴的だったが、今季は成績が大幅に悪化。
 打率・長打率だけを見れば悪化しているが、昨季もボールゾーンの落ちる球には手を出しており、今季はボール球スイング%が軒並み改善している中でも、見極めがあまり改善されていない球種だとも言える。

 他方で、ストレートを含むファストボールをしっかりと捉えられている点、全体的にボール球スイング%が改善している点は大いに評価できる。ボールゾーンに逃げる変化球を見極める能力とファストボールを長打にする能力を兼ね備えている点は、一流打者になる可能性を秘めているといえる。

 球速帯別で見ると、150キロ以上の速球に対する長打率が高いことにまずは目がいく(150キロ以上の速球を捉えての本塁打は4本。)。速いボールは相対的に捉えることが難しいが、打率が低くても一定の割合で長打が出ているだけで、困ったときにストレートを投げとけばいいという打者ではなくなり、相手バッテリーはボール先行時に非常に苦しくなる。

3 総括

 ドラゴンズからの移籍一年目でありながらWBCにも出場し調整が難しい中で、開幕戦から最終盤まで一軍で万波とともに打線のコアを担い、十分及第点といえる成績を残したといえる。
 外国人野手で規定打席に到達したのは2018年のレアード以来であり、OPSも終盤に落ちてしまったがそれでも7割台後半。念願の頼れる外国人助っ人がファイターズにもやってきたといえるだろう。

 ただ、彼はこんなもんじゃない。
 選球眼の良い長距離打者としてOPS9割台も射程圏内である上に、なんといっても彼は捕手だ。
 NPBでは従来、外国人捕手は投手との意思疎通が困難であることから避けられてきた。しかし、22歳から日本で修行を積んできたアリエルだからこそ、NPBにおける外国人捕手としての道を切り拓くのではないかと期待してしまう。
 もちろん全試合捕手として出場することは、現代においては非現実的だ。今季29試合だったスタメンマスクを、60試合にまで増やすだけでも十分なアドバンテージを生むはずだ。

 何よりも、低迷するファイターズを選んでくれた、そんなアリエルと一緒に優勝したい。

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