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金村尚真のリリーフへの配置転換の是非 前編

 金村尚真のリリーフへの配置転換が物議を醸している。

 投手をどう起用するかについて、戦力を最大化するという観点と当該選手のキャリアへの影響という観点から考察し、今回の金村のリリーフへの配置転換の是非を考えていく。

1 戦力の計算

 まずは、戦力面で先発とリリーフをどう構成すべきか考えてみよう。 

 投手の運用は端的にいうと、”シーズン143試合、1300イニング弱をチームでどう分配するか”である。
 この前提であれば、チーム内の良い投手から順番に多くのイニングを分配すべきであることは言うまでもない。
 そして、特定の投手に多くのイニングを分配する方法は、その投手を先発投手として起用することに尽きる。
 先発投手として1年間稼働することで少なくとも100イニング、多ければ150イニング超の消化を見込むことができる。これに対して、リリーフ投手として1年間稼働する場合、多くても60イニング程度の消化にとどまる。
 これが先発投手に良い投手を置くべき明確な理由になるだろう。

 さて、読者の中には、上で述べた前提に対して、「リリーフにいい投手を置かないと終盤にリリーフが打たれて勝てる試合を落とすのだから、僅差の試合で登板するリリーフに良い投手を置いた方がいい」という反論を思いついた方もいるはずだ。
 これに対する反論としては、試合展開は試合開始から試合終了までの積み重ねであることが挙げられる。
 ハイライトでは終盤にリリーフが打たれるシーンがフォーカスされるかもしれないが、序盤から勝利可能性を変動させてきた結果が終盤の試合展開を作り上げる。
 つまり、9回に3-2から追いつかれたケースであれば、仮に序盤中盤に1失点でも減らしていれば逃げ切りの可能性が上がっていただろうし、反対に序盤中盤に4失点していればそもそもリードすらしてない。
 すなわち、良くも悪くも試合の趨勢を決するのは初回から長いイニングを投げる先発投手である。
 1点リードの9回の守備という一つの局面では、試合の勝敗がクローザーの出来に大きく依存しているかもしれないが、あくまで143試合を見据えたときには、いかにリード展開の試合数を増やすかいかにリードを広げて終盤を迎えられるかこそが重要であり、これらは紛れもなく先発投手の出来に左右される。

 とはいえ、先発ローテの枠の問題と当該投手の力量も当然考慮すべき事項だ。
 先発ローテは多くても6人までしか入れない。厳密には、週の試合数以上の人数をローテに組み込んでも、先発投手全体の消化イニング数は伸びない上に、いわゆる表ローテの投手の投球回数が減少する可能性が高いため、戦力を活用しきれない状態を招くと考えられる。そのため、先発候補が7人以上存在する場合に、純粋に一軍の投手戦力を最大化することだけを考えれば、先発7番手をリリーフに回すというのは当然の帰結といえる。日本代表で先発投手がリリーフに回るのを考えてもらえば分かりやすいだろう(無論、日本代表でも先発投手4人で回せる日程に対して、大谷、ダルビッシュ、山本、佐々木のトップ4を先発投手として起用している。)。
 また、力量という側面では、先発2番手の投手をリリーフに回すのと先発6番手候補の投手をリリーフに回すのでは訳が違う。当該投手と先発7番手との先発投手としての実力差が小さければ小さいほど、チームとしてのマイナスの影響は小さくなる。

 結論としては、先発ローテをチーム内の良い投手から埋めていくべきであることは間違いないが、ローテの枠との兼ね合いから、ローテ当落線上の投手については、他の当落線上の投手との実力差が小さい場合に限り、リリーフに回すことが戦力の最大化につながる可能性があるといったところか。

2 先発投手 金村尚真

 さて、では今回の金村のリリーフへの配置転換は戦力の最大化につながるのか。

 答えはノーだろう。

 金村は、昨季序盤に肩を痛めて長期離脱を余儀なくされ、4試合の先発登板にとどまったが、平均球速147キロのストレートに、スプリット、カッター、スライダー、カーブ、チェンジアップ、ツーシームと質の高い球種を多く持っている稀有な投手であり、25イニングで23奪三振、被本塁打0、全試合でQS(6回以上を投げて自責点3以内に抑えること)達成と圧巻の成績を残している。

金村尚真 2023年ストレート球速

 また、長いイニングを投げると急激に出力が低下するなどといった事情もみられない。

 4試合しか投げていないという意見もあるだろうが、4試合でいいから25イニングを投げ、23奪三振を奪い、全試合でQSを達成しろと言われてできる投手はまずいない。
 もう一つ、今年も先発で上手くいくとは限らないという指摘はもっともだが、それは先発6番手、7番手の投手が今年上手くいくとは限らないのと同じであり、少なくとも、昨季少ないながらも並外れた結果を残している金村の方が上手くいく可能性が高いのではないだろうか。
 だからこそ、現状先発6番手や7番手の投手に金村が先発として登板するはずの試合を任せることの損失は量(イニング数)においても質(投球内容)においても大きく、金村が先発で起用すべき投手であることは間違いない。

 

 今回は純粋に戦力を最大化するという観点で考えたが、次回の後編では、リリーフ起用が選手個々のキャリアに与える影響について考える。

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