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「自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング」

「自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング」(後藤宗明 日本能率協会マネジメントセンター)

ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の著者による、リスキリングの本。最近よく耳にする「リスキリング」という言葉について、さまざまな観点から解説している。著者自身もかなり苦労をされて転職を数回していることが、「はじめに」と「おわりに」に書いてあり、説得力があった。リカレント教育とリスキリングとの違いや、世界各国でのリスキリング事情、また安易な転職には慎重になるべきだと注意している点など、非常に参考になる部分も多かった。その一方で、どのような人を読者として想定しているのかがややわかりにくい部分もあった。読者として、自分自身がリスキリングしたい人もいるだろうし、会社の人事担当者や、経済産業省の役人など、人材配置の戦略としての知識を必要とする人もいるだろう。そのすべての情報が入っているような本で、自分にとっては特に後半はあまり関係ない内容が多かった。またDX人材に特化した内容であり、他のリスキリングもあるのではないかとも感じた。

2020年7月に世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長の著作「COVID-19:The Great Reset」が出版され、10月には日本語版(邦題:「グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界」)も刊行されました。グレート・リセットとは、協力を通じ、より公正で持続可能かつレジリエンス(回復力)のある未来のために、経済・社会システムの基盤を緊急に構築するコミットメントが必要という提言です。本書でシュワブ氏は「特に外部環境の変化、経済、社会的基盤、地政学、環境、テクノロジー、産業等の観点からリセットが必要となる。また、個人の生き方もそういった外部環境の変化に合わせて、人間らしさ、心身の健康、価値観、優先順位の変化が起きる」と述べています。自ら「生き方」「働き方」を再考し、選んでいく世の中へ急激に変化をしているのです。(33-34ページ)

ポストコロナ時代の必須4スキル

  1. アンラーニング(学習棄却)

  2. アダプタビリティ(適応力)

  3. プランニング(未来予測)

  4. リスキリング(スキル再取得) (70-71ページ)

若宮正子氏に学ぶ、リスキリング・マインドセット
高齢者のリスキリングで日本が世界に誇るロールモデルは若宮正子氏ではないでしょうか。若宮氏は、58歳で初めてパソコンを購入してさまざまなPCスキルを身につけたのち、81歳で高齢者向けのスマートフォン向けゲームアプリを開発しました。2017年には、アップルが毎年開催している開発者向けカンファレンスWWDCに招待され、「世界最高齢のアプリ開発者」として世界中から注目されました。アップルのCEOティム・クック氏とのインタビューは記憶に新しいところです。(84ページ)

「自分の得意業務@必要とされている場所X新しいテクノロジー」を見つけることによって、自分のスキルの評価に加えてさらにリスキリングする機会を得られます。(102ページ)

リスキリングを実践する10のプロセス

  1. 現状評価

  2. マインドセットづくり

  3. デジタルリテラシーの向上

  4. キャリアプランニング

  5. 情報収集の仕組みづくり

  6. 学習開始

  7. デジタルツールの活用

  8. アウトプットに挑戦

  9. 学習履歴とスキル証明

  10. 新しいキャリア、仕事の選択 (106ページ)

むしろ近年注目されているOODAの方が、リスキリングを実践していく上ではプロセスとして良いのではないかと思います。OODAとは「Observe(観察)->Orient(方向づけ)->Decide(意思決定)->Act(行動)」の頭文字をとったもので、目標を達成するための手法です。以下、マイクロソフトのOODAの説明を参考に、リスキリングの10のプロセスで考えてみたいと思います。
Observe(観察):思い込みや予断を捨てて顧客や市場を観察
Orient(方向づけ):観察結果に基づいて方向づけを実施
Decide(意思決定):具体的な方針や行動プランを策定
Act(行動):右記判断に基づいて実際に行動 (107ページ)

自分の行動範囲を広げ、とにかく行動量を増やしてみる
「自分の好き嫌い」「興味があること」を久しく考えておらず、自分の正直な気持ちに蓋をしたまま仕事をしており、急に自分の興味関心と言われても、という方も多いのではないかと思います。自分の心の声に耳を傾けると言われても、思いつかないという場合もあるかと思います。そんなときにおすすめなのは、自分の行動範囲を広げ、とにかく行動量を増やしてみることです。
(中略)
「発想力は移動距離に比例する」と言われることがありますが、まさに行動範囲を広げることでさまざまな価値観を吸収し自分を見つめ直し、新しい価値観を学ぶことによって新しい着想を得ることができるのだと思います。 (114-115ページ)

繰り返しになりますが、計画やリスキリングの方向性は臨機応変に変更して良いと思います。やりたいことが見つからない場合、とにかくまずやってみて、「やりたくない」ことを次々発見していくと、段々やりたいことの範囲が狭まってきます。一度こういう新しい職業に就きたいな、と思ってリスキリングを始めてみて、「違うな」と思ったらすぐ軌道修正して別のキャリアを目指し、リスキリングの方向性を変えても良いのです。 (147ページ)

ウェビナーや勉強会に参加すると、「オンラインで今後も交流を続けましょう」という理由から、日本語化されているものならSlackやMicrosoft Teams、海外のものならMighty Networksといったコミュニティ管理ツールを利用して、あたらしい分野の情報交換を継続することもさかんになってきて
います。 (153ページ)
Mighty Networks

一緒に学びリスキリングを継続する最新トレンド「CBCs」とは?
欧米ではMOOCsに対する限界が唱えられ、変わって現在は「CBCs:Cohort-Based Courses」が急速に伸びています。Cohortはもともと同じ時期に生まれたグループを表す学術用語ですが、ここでは共通要素を持つ集団という意味で使われています。つまり、CBCsは個人が共通の目的を持つ仲間と一緒に同じグループで学修をする共同学習モデルのことを指します。場合によっては「CBL:Cohort-Based Learning」という言い方もされます。「それって、今までの学校や大学院と何が違うの?」と思われると思いますが、この近年注目されているCBCsは、テクノロジーの進化とともに、オンラインで実施可能となったCBCsを指しています。CBCsの特徴として、1つ目は、反転授業形式を用いて、受講者は事前に録画されたビデオを見て予習し、集合形式のライブによるオンライン授業に参加します。そのため、授業時間の大半が講師と受講生とのディスカッションに費やされます。2つ目は、一斉に開始するタイミングで参加する受講生同士の学び合いが積極的に行われることです。授業の前後には、グループメンバー同士で分からないところを質問しあったら、議論を行ったりします。3つ目は、充実したサポート体制により脱落者を防ぎ、参加者の修了率がとても高くなることです。

CBCsとMOOCsの比較
2019年にMITのリサーチャーがサイエンス誌に投稿した"The MOOC pivot"(直訳: MOOCの戦略変更)という論文において、華々しい2012年のThe Year of MOOCのコース登録者数が劇的に減少し、2017年には受講者数の維持率が10%以下にまで落ち込んだ事実が紹介されました。

CBCsが注目されるようになった理由は、MOOCsだけでの学習に対しての限界が唱えられるようになったこと、テクノロジーが劇的に進化したことが挙げられます。MOOCsの特徴である、self-paced(自分のペース)で学習できることが、逆に学習意欲を維持できず、途中で受講をやめてしまい、低い修了率になる結果を招きました。そこで、同じ時期に仲間と一緒に参加して、励まし合いながら一定期間のオンライン講座を毎週のようにライブで受講するCBCsに現在注目が集まっているのです。ある意味、オンライン学習の進化版がCBCsであると言えます。
新型コロナウイルスによる在宅勤務、リモートワークを活用してMOOCsの利用に注目が集まっていますが、日本でも同様に講座の修了率が低い問題が議論され始めています。「会社でオンライン講座(MOOCs)を契約しました。好きに学んでください」形式では、リスキリングは失敗すると僕が断言するのは、ここで述べたようなことが理由になります。 (162-165ページ)

OpenClassrooms ~欧州最大のリスキリング支援サービス~
2013年にフランスで創業した欧州最大のオンライン教育訓練プラットフォーム、OpenClassroomsはとても体系的な個人向けアプレンティスシッププログラムを提供しています特徴としては、受け入れ先となるホスト企業から毎月の給与をもらい、実務をこなしながら100%オンラインで将来の目指す職業につながる講座を受講します。受け入れ先によっても異なりますが、受講者の費用負担はありません。年齢も16歳から99歳まで、フランスにおける勤労資格がある方なら誰でも申し込むことができます。コースの難易度によって、12カ月から36カ月受講します。また挫折しそうになった際にもその分野の専門家やコーチがサポートをしてくれます。修了後は、公式のディプロマを取得可能で、その受け入れ先企業での正社員登用のチャンスをもらうことができ、場合によっては転職準備のサポートを受けることができます。 (170ページ)
OpenClassrooms

Otter
Otter.aiは英語の自動文字起こしツールです。2018年にシリコンバレー出張中に知り、それ以来大好きで毎日使っているツールです。毎月600分までは無料で利用することができます。 (180ページ)
Otter.ai

OneTab
僕がリモートワークで毎日使っている便利ツールです。ウェブページをたくさん開いている場合にボタン一つでタブを1ページにリスト化してくれます。
OneTab

例えば、Meetupというコミュニティプラットフォームでは、さまざまな勉強会や交流会が開催されています。 (187ページ)
Meetup

【「人脈スパイラル・モデル」五つのステップ】

  1. 自分にタグをつける(自分が何屋なのか訴求ポイントをはっきりさせる)

  2. コンテンツを作る(「お、こいつは」と思わせる実績事例を作る)

  3. 仲間を広げる(コンテンツを試しあい、お互いに切磋琢磨して、次のステップを共創する)

  4. 自分情報を流通させる(何かの時に自分のことを思い出してもらうよう、種を蒔く)

  5. チャンスを積極的に取りに行く(実力以上のことに挑戦し、人脈レイヤーを上げる)
    (「抜擢される人の人脈力」(岡島悦子)東洋経済新報社より) (190ページ)

これからは入社時に「スキルテスト」が求められる時代にまず、オランダの「TestGorilla(テストゴリラ)」という急速に成長しているプラットフォームを紹介します。候補者の面接の前に、オンラインでスキルテストを実施し、効率的な採用を実現するサポートをしています。(中略)
人事採用担当者が候補者に受けてもらいたい5つのスキル分野を選び、オンライン上で50分間のスキルテストを実施します。1科目10分しかなく、1問あたりの回答時間は約10秒程度のため、本当に実務レベルでその知識やスキルを持っていないと解答できない設計となっています。 (211ページ)
TestGorilla

ジョブ(職務)とスキルの関係性~ジョブを分解していくとスキルになる~
ジョブ(職務)とスキルの関係性を理解する上でとても分かりやすいのが、米国の人事コンサルタント、ジョジュ・バーシン氏が提唱しているモデルです。

ジョブ(職務)->ロール(役割)->ケイパビリティ(能力)->スキル(技術)

ジョブの要素を分解していくと、個別のスキルに辿り着きます。裏を返せば、必要となるさまざまなスキルの集合体がジョブであるとも言えるのではないでしょうか。 (213ページ)

2030年に必要となるスキルとは?
マイケル・オズボーン教授らがPearson社から発信した論文、"The Future of Skills: Employment in 2030"において、2030年に必要となる将来スキルについての予測を発表しました。
以下は、米国における予測になります。
1位: Learning Strategies (学習戦略[スキル])
2位: Psychology (心理学[知識])
3位: Instructing (指導力[スキル])
4位: Social Perceptiveness (社会的洞察力[スキル])
5位: Sociology and Anthropology (社会学と人類学[知識])
6位: Education and Training (教育訓練[知識])
7位: Coordination (調整力[スキル])
8位: Originality (独創性[能力])
9位: Fluency of Idea (思考の流暢さ[能力])
10位: Active Learning (能動的学習[スキル]) (228-229ページ)

そのときに学んだのは、「今のままではいけない。そして自分の勝てない土俵で勝負をしていはいけない」ということでした。 (316ページ)

だからこそ、リスキリングをやるなら、「覚悟」がいるということを敢えて強調したいです。リスキリングを始めて辛く悔しい思いをした際に、ぜひ思い出していただきたいことがあります。それは、

自分のことを面白いと思って「褒めて」くれる人がどこかにいる

ということです。ぜひ視野と行動範囲を広げて、自分のことを評価してくれる、必要としてくれる人を貪欲に探してみてください。真剣にリスキリングを行っていれば、その挑戦している姿勢を評価してくれる方がいるはずです。 (325-326ページ)

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