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「大人の時間はなぜ短いのか」

「大人の時間はなぜ短いのか」(一川誠 集英社新書)

実験心理学の研究者の著者による、時間の感覚についての本。物理学や哲学における時間の話から始まって、動物や人間の認知、知覚についての話、錯視や知覚の曖昧さ、時間に関わる錯覚、月の錯視などの話があり、錯視についてもまだ十分に解明されているわけではないとあって驚いた。神経細胞、神経繊維の情報伝達の話、知覚の遅れの話(「近くにおいては、光の知覚情報は音の知覚情報よりもゆっくりと処理されているのだ」(71ページ))、体内時計の話など、かなり広範な話題が続く。
第4章はおそらく著者の専門に近い内容で、「時間についての知覚では視覚よりも聴覚が優先される」(91ページ)、「色よりも遅い動きの処理」(94ページ)など、実験心理学の知見がいろいろ出てくる。さらにフラッシュラグ効果(左から右に移動する光点が中央に来た時に別の光点を一瞬提示すると、提示した場所よりも右にずれているように見える効果)を、パラパラ漫画になっている第6章右下のページで実際に確かめることができるようになっている。なかなか凝った本である。このフラッシュラグ効果が、サッカーのオフサイド判定の誤審の一因とも指摘されている(101ページ)との話も、なかなか面白かった。
「熱が出たときには普段と比べると時間がゆっくり進むように感じられる」(123ページ)とか「子供のほうが待ち遠しい行事(あるいは時間が早く経過してほしい事柄)が多いこと、それに対して、大人では日常の多くの出来事がルーチンワークとなっており、待ち遠しいことも子供ほど多くないことが関与している可能性もある」(126-127ページ)などの指摘も興味深かった。

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