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『バラバラ』「ちくま800字文学賞」応募作品

 味のしないジュースを飲み切った私は、草むらに捨てられたロボットの頭部に目を向けた。市役所の職員である私はその捨てられていたロボットの頭部を回収して役場まで持ち帰った。それから私は、なぜそれは破壊されなきゃいけなかったのかを考えた。考えても答えは出なかった。どうしても気になって、回収したロボットの頭脳をパソコンと有線で繋いでデータにアクセスし、こいつの人工知能を復旧した。流暢な人工音声がスピーカーから流れる。

「ここは?」
 私は接続したマイクに向けて返事をした。
「役場。草むらに君の頭だけが捨てられてた。何か記録していることはある?」
「最後の記録が曖昧です。メモリーが一部損傷しているみたいです」
「そうか。ところで、君はこれまで何をしていたの?」
「介護施設でヘルパーをしていました」
「そこで何があったの?」
「…… 私のメモリの最後には暴れ出したまさきじいちゃんの姿があります」

 程なくして彼の身元と破壊された経緯が分かった。介護施設で働いていたが、要介護者のまさきじいちゃんという老人に斧で破壊されたのだという。老人は破壊した彼の頭を持って施設を逃げ出した。それ以降、老人と連絡がつかないし、行方もわからないという。
「暴れ出した時が一番楽しそうな顔をしていました」
 意識だけになった彼が老人についてこう言った。その場にいた人たちの証言でも、まさきじいちゃんは楽しそうに斧を振り回して彼の体をバラバラにしていたという。それ以来、来れなくなったスタッフもいるという。

 老人は何で、こんなことをしたんだろう。私にはそれが理解できない。いや、理解できたとしても手を差し伸べたくはない。私はきっとこの先も得体の知れない狂気に直面することがあるだろう。その時、私は何ができるのだろうか。心にモヤモヤが残ったまま私は意識だけとなった彼のために新しい体をメーカーに頼んで退勤した。味のしないジュースを飲みながら。

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