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『神宮外苑』再開発の機会費用は??

かつて宮崎県の大型リゾートに世界最大級の屋内プールがありました。”オーシャンドーム”と呼ばれ、1993年に完工。総工費400億円超。「世界最大の室内ウォーターパーク」としてギネスブックの認定も受けました。一年中空間全体が30度に保たれ、そのエネルギー費用だけで1日当たり200万円近くかかったそうです。サーフィンができる大波を巨大な真空ポンプ設備により1時間あたり23回も起こすことができました。開場当初は話題性もあって入場者が引きも切らず、一時は宮崎県観光の大きな目玉でした。ところが、開場後数年も経つとエネルギー価格の上昇や冬季のお客様が予想より大幅に減少したためキャッシュフローも損益上も大幅な損失を計上し始めました。実はこの屋内プール建設の時に地元の環境保護団体を中心に松林を伐採することに反対運動が起こりました。経営陣は松林の自然を保全しながらのコッテージ建設の案も検討しました。その案の方が建設投資もはるかに少額で顧客の来場の様子を見ながら少しずつコテッジを増やすことができて経営上もリスクが少ない見込みでした。
 
ビジネス上の決定を行う際にできるだけ多くの代替案と比較検討して期待利益が最大、且つ予想損失が最少の選択をします。この例ではコッテージ案を選ばなかった失敗で大きな損失、いわゆる「機会費用」が生じました。結局この大型リゾート自体が2001年に経営破綻し、多くの従業員がリストラにより仕事を失いました。オーシャンドームはその後2007年に閉鎖されました。2012年には株主も変わりオーシャンドームは2020年に取り壊され巨大な更地になりました。
 
因みにオーシャンドーム建設のために伐採された樹齢100年を越した松の木は10万本といわれています。現在東京都では神宮外苑の再開発計画が実行段階に入っています。計画では”神宮の森”として親しまれてきた1000本以上の樹木が伐採されます。再開発主体の企業/行政は伐採による環境への負荷、歴史的価値の喪失、景観変化など、予想される最悪の「機会費用」を真摯に算出しているのでしょうか。

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