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「U-ローディング方式」によりマガジン化を実現! 家庭用VTR 『マガジンカラービデオコーダー』(U-maticの原型)

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (40)

1968 (昭和43) 年頃になると、それまでは放送局など一部の業務用として使用されてきたVTRの普及も進み出し、特定の技術を持った人のみが取り扱うことも少なくなり、一般の人々も使用するようになってきていました。

しかし、これまでのVTRではテープが露出する状態のオープンリール式ということもあり、機器へのテープの掛け方が煩雑で取り扱いが難しく、また回転ヘッド箇所が外部に露出しているため、破損する機会も多かったのです。

既に、1965 (昭和37) 年、オランダの電機メーカー フィリップス社が開発し、世界標準となったコンパクトカセット (カセットテープ) は、この時期広く普及しており、それまでのオープンリール式を一新し、格段にその操作性を向上させていました。

同様に、映像についても誰でも簡単にテープがワンタッチで装着できるVTRの必要性は、この時期各社検討課題となっており、「テープのカセット化」「完全互換性」「一時間記録」を条件に様々な方式が発表され、各社で統一化に向けての研究と議論が進められていたのです。

私はいつも将来の技術進歩を確信して設計をしていましたから、テープのカセット化のときにも、迷わずいちばんシンプルな二リールのカセット式に決めました。
 その代わりテープローディング方式(テープをカセットから引き出して自動的に機械にセットする方式)については、半年以上の日数を費やして徹底的に試作と検討を加えました。この半年の間に、少なくとも六種類のローディング方式を試作し検討を加えました。


ソニー技術の秘密』第4章より

ソニーの技術者・木原信敏も1965 (昭和40) 年1月、最初のVTRカセット (3/4㌅カセットタイプ) 化の試作、通称「弁当箱」カセットを完成させ、テープのローディング方式についての研究を続けていました。

1969 (昭和42) 年頭に木原は走行に無理がなく、早送り、巻き戻しがローディングしたまま可能な、テープに優しい優れた方式として「U-ローディング方式」の仕組みを確立させ。

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1969 (昭和44) 年4月、
世界初となるマガジン式家庭用VTR『マガジンカラービデオコーダー』(U-maticの原型)を 完成させます。

マガジン (テープを収納したケース) を本体に差し込み、マガジン側のつまみでカラー及び白黒映像の録音・再生可能な回転2ヘッド方式、1/2㌅テープを使用し「投網式」と称するローディング方式で発表され、

「ソニーが投網式の世界初の家庭用VTRマガジン方式
カラー・ビデオコーダーの開発に成功」

と、大きく報じられました。

「U-ローディング方式」は「完全互換」、「好信頼度」、「高画質」の点で 後に電子機械工業会の推薦規格になる「U規格」として放送用から民生用機器にまで幅広く採用されることになります。

しかし、この時作られたマガジンの重量が1.3㌔と実用化には重すぎること、またこの時期、アメリカのデュポン社との技術協力契約が結ばれていた「クロムテープ」の開発が完成し、これがビデオテープとして使用できるようになったことなどから、急遽方針を変えてクロムテープを使用し、より軽量かつ高画質の次世代VTRの開発に移行するため、商品化にはいたりませんでした。

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業界共通の課題だった「VTRのマガジン化」にいち早く成功したソニーに続き、1969 (昭和44) 年6月には日本ビクターがカートリッジVCRを発売。7月には東芝からカラー、白黒兼用ビデオテープレコーダーが発売。9月にはアメリカRCA社から「ホログラムを応用した電子録画方式」を採用したセレクタビジョン。10月には松下電器から試作パッケージVTR「マガジン方式カラーVTR」が発売。

1969 (昭和44) 年は新方式VTRのオンパレードの年となったのです。

文:黒川 (FieldArchive)



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