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専売という歴史的な側面からタバコと塩の正しい情報をつたえる 〜 『たばこと塩の博物館』 後編

 『企業博物館』インタビュー (3) 

単に収集した資料を展示するにとどまらず、日本専売公社(設立当時)が扱う専売品であったたばこと塩に関する文化史・産業史などの調査研究や資料収集を行い、系統的にたばこと塩の正しい情報を伝え、たばこ産業・塩産業の理解と周知をはかる
(設立趣旨:常設展示解説ガイドブックより)
interviewee:千々岩様 (たばこと塩の博物館 館長)   、袰地様 (同館 広報担当主任)
interviewer:木原(フィールドアーカイヴ 代表)
(インタビュー収録:2019 / 12 / 27 )

開館当初の見せ方から変化した部分は?

館長:当館は移転前の館内に比べて面積的に1.5倍から2倍くらいに広がり、その際に昔からの展示プラスアルファ、中身を全部もう一度再検討しなおした中で、新しい展示資料を含めていま常設展を開設しています。

広報:塩に関して渋谷時代の展示は、もうちょっとダイレクトにいきなり「世界の塩」そして「日本での塩づくり」だったんですけれども、人間、動物にとっても塩は絶対に必要なんだっていうことをやっぱり博物館として伝えなければならないっていうところで、導入部分で、進化の中で動物は体の中に海を作ったんだっていうことをお伝えするために展示を再検討しました。
当館の建物は倉庫をリニューアルしたものなので、天井が高いんですね。だから大きな、迫力を持った展示ができるということで、最初はビジュアルで海を体の中に取り込んだということをバンッと伝えて、次に、塩と言っても世界には、岩塩、湖塩、天日塩など、いろいろな種類があるんだっていうことをお伝えするために、天井高とかスペースの大きさを活かして実物をなるべく見てもらうっていう展示をしています。

一方たばこの展示では、マヤ文明の代表的な遺跡のひとつ「パレンケ遺跡」の、たばこに関する最古の資料といわれている「たばこを吸う神」のレリーフがあります。

渋谷時代にこのレリーフのレプリカだけは展示していたんです。

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移転でスペースが大きくなったので、神殿内陣部分全体を復元することで、迫力をもって、全体を見ていただくことで雰囲気も知っていただき、展示にダイナミックさを出すことで、まず起源であるたばこについて皆さんに知っていただくというような展示の工夫をしています。

――:常設展や資料室などに行きにくい動線になっている気がしたのですが?

広報:元々倉庫だった建物のリニューアルという制約がある中でつくったので、柱や構造壁など、絶対に変更できない部分との兼ね合いが難しかったです。

施設の運営維持にあたっての苦労や困りごとは?

館長:維持費の捻出という意味では恵まれていると思います。地方公共団体がやっている博物館のように予算制度や議会を通さないと何もできないとかそういうこともないですし、個人がやっているような入場料で運営しているということでもなく、財団と言う形で私共は運営委託費をJTからいただいて、その中からやっているんです。

――:何か別の団体が委託されて運営しているということですか?

館長:ここは財団法人化されていまして、私共としてはJTからこの博物館の運営を委託を受けて運営しているという形なんです。施設の持ち物、収蔵品も含めてJTの持ち物。私共の組織は「公益財団法人 たばこ総合研究センター」っていうんですけれど、そういうのって企業系博物館には多いんじゃないですかね。

――:企業の持ち物なんだけれども運営は財団、という形ですね。

広報:ただ、同じ企業系博物館にしても、自社製品の魅力を伝えるというところもあるのですが、当館などはそういう面からではなく、設置企業 (もとは専売公社) が扱う製品の歴史と文化を伝える展示をしています。

――:ではお困りごとは特にはないですか?

館長:常設展にはどこでもそうなんでしょうけれども、一回か二回来れば大体こんな感じかってなるでしょうし、色んな特別展を当館ではだいたい年5回やっていますけれども、そういうものをうまく織り込んでいかないと、だんだん集客力がなくなっていくというところはありますよね。

それともう一つは、全く関係がない特別展をやってもしょうがないので、あくまでもたばことか塩に少しでも関係がある、そういうものとの関連性をもたす中で収蔵品だとか、関連する他の美術館なり博物館にものをお借りして特別に展示させていただくとか、そういう知恵を出していかないと、そういう特別展や企画展もなかなかできないというところは、まあ、困っているというよりは知恵の出しどころなんですよね。

――:だからかえってユニークなものができるのかもしれないですね。

広報:当館は常設展も見ていただくと結構知らなかったことがたくさんあったということで、ご満足いただけるケースが多いんですけれども、やっぱりリピーターの方達は特別展を目的にいらっしゃる方が多いですし、それを楽しみに当館の情報を得て下さっているという方もいらっしゃるので、館長が申した通り、いかにお客様に来ていただくものが限られた予算の中でできるかというところで、学芸員をはじめ知恵をしぼってやっております。

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「たばこと塩の博物館」ご来場の方々にメッセージを

館長:存立のミッションである、やっぱり たばこ なり 塩 っていうのは、特にたばこは嗜好品ですけれども、決して世の中から排除されるべきものではないですし、脈々とした歴史もあるし、ポスターだとか印刷技術だとか色んなところに日本の中で貢献してきた産業だし、歴史なり文化があるんだなっていうことを知っていただければ非常にありがたいし、塩に関しても別に海から作るものだけじゃないよと。

塩に対するものの見方なり広がっていただければそれで非常にありがたいことだと思っています。

見学した際の感想:
受付の方も含め、今回インタビューでお会いした方々の御対応がとても丁寧で、仕事や館を誇りに思っている様子が印象的でした。

館内に豪華で高性能な喫煙ルームがあり、「私のような禁煙者が最新の喫煙ルームを体験できる場所って実はここしかないのでは?面白い!」と感じ、もっと ”普段は禁煙者” 向けの「ちょこっと体験コーナー」を増やしてほしいと思いました。

例えば私はきせると水たばこを一度は吸ってみたいので、この博物館で安全にちょっとだけ体験出来たらいいなと思ったのですが、そういうのは「喫煙を助長することにつながる可能性もある」ため、簡単にイベント開催はできないという事情があることがわかりました。

常設展と同じくらい、じっくり見ると奥深くて面白かったのが、公式ホームページ。

例えば渋谷時代の館内がぐるぐる自由に見られるコーナー(→ 渋谷・神南博物館メモリアル ぐるり360°)が面白い!
エレベーター内の張り紙まで詳細に見られ、もう閉館した館だとは思えないくらいリアルな保存。
この形式はFLASHなので普及は難しいですが、アイデアとして、閉園する遊園地や閉館する記念館など、全国統一で似たような形式で保存していけないかと思うくらいでした。

そして古い企画展の解説の充実ぶりも凄い。過去の学芸員さんや Web制作者さん達の情熱を感じられます。

今後、ホームページはリニューアルを予定しているそうですが、実際に博物館に行くと1階には渋谷時代の館内模型や年表があり、当時の詳細を辿ることができます。

木原(フィールドアーカイヴ 代表)


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