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SF作家 星新一によって描かれたVTR普及後の未来の話 - 『ビデオコーダーがいっぱい』 星新一著(SONYニューズ 1965)

 
『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (50)

一般家庭にビデオを普及させていくという思いからコンシューマ・ビデオ(Consumer video) の略から「CV」と名付けられ、数々のコストダウンのアイディアと、それらを組み合わせた努力により、ソニーより世界初として誕生した家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000』。

このVTRが発売された翌年1965 (昭和40) 年1月に、ソニーの社内向け冊子『SONYニューズ』No.85にこの『CV-2000』をテーマにした「ちょっと未来の物語」として、SF作家の星新一 (ほし しんいち、1926 - 1997) による短編小説が掲載されます。タイトルは、

『ビデオコーダーがいっぱい 〜 ちょっと未来の物語』

世界初となる家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000』が発表され、価格も当時の放送用VTR機器の 1/100 ということで、いよいよVTRが一般家庭に普及し、これまでの映写機にとって替えようという、当時としては夢のようなことが実現のものとなってきたことをきっかけに、SF作家の星新一が『CV-2000』の開発者であったソニーの技術者・木原信敏を尋ね、直接『CV-2000』についての説明を聞き、ごく近い未来にVTRが普及した時に起こりうることを予測して書かれています。

同作品は単行本未収録作品集『つぎはぎプラネット(新潮文庫)』で現在も読むことができますが、ソニーの社内紙に掲載されたものなのでマイナーすぎるのか、文庫の解説では全く触れられておりませんが、世界初の家庭用VTR誕生を記念して書かれた作品でもあります。

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文庫版では省略されていますが、ソニーの社員であった大河原忠によるコミカルな挿絵がとても良い味を出しています。

物語の内容は、警察から事件解決を頼まれた刑事が、調査のために訪れる様々な場所でうんざりするほどVTRが使われていて、事件解決にもVTRが活躍するというもの。

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現在の私たちからみると、「ん?当たり前じゃない?」と思うような表現もありますが、この作品が書かれたのは1965 (昭和40) 年。家庭にVTRなどない時代。豊かな想像力と、未来への期待から数十年後の未来の姿が的確に、またコミカルに予見された良作です。

文:黒川 (FieldArchive)


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