8mmにおける、映像と音声の同期問題を解決! 〜 サーボコントロール理論の走り「FTS」システム
「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (32)
1955年 (昭和30)年、東京通信工業の技術者・木原信敏が、日本初のトランジスタラジオ『TR-55』の開発に参加している合間に、井深大の友人で医学博士の飯倉重常 (いいくら しげつね) から、当時流行していた8mm映画には音声がなく、
「テープと連動して音を出すことはできないだろうか」
と、木原は相談を受けます。
“ ラジオを開発している合間に、井深さんから「手が空いたら、八ミリ映画に音をつけてくれないかな」と面白そうな話を貰いました。
それは、井深さんの友人でお医者さんの飯倉重常先生から、その当時流行していた八ミリ映画には音がないので、「テープと連動して音を出すことはできないだろうか」と言われたのが発端でした。”
『ソニー技術の秘密』第3章より
当時、36mm映画や16mmではサウンドトラックに工学録音が使用でき、磁気コーティングすることで録音が可能でした。ところが8mmの場合、磁気コーティングは可能でしたが、音質が実用にならないほど悪く、木原自身も試していましたが、一部の愛好家が趣味で使用する程度だったのです。
テープと連動するシステムができればテープコーダーも売れるからと、木原はこの相談を受け、開発に着手します。
この8mmにおける、映像と音声の同期問題を解決したのが、1957年10月に完成した、8mm (映像)とテープレコーダー (音響)を同調させる装置『FTP (Film Tape Synchronizer) 』システムでした。
8mm映写機とテープレコーダーを一本のコードでつなぎ、画面と音響を同調させるこの装置は、テープレコーダーと映写機のスピードの差を検出し、映写機のモーターの電圧をコントロールすることで、映写面と音声が1秒の狂いなく安定した状態で同期、しかも従来のフィルム録音方式より優れた音質を出すものでした。
これは後に、物体の位置や速度や経路を思いどおりに制御するための自動制御装置として一般化する「サーボコントロール」理論の走りになるもので、ドイツを初めとする各国の8mm映画用音声記録に採用されました。
『FTS』システムの完成後、銀座の映画試写会会場に映画関係者や雑誌記者を招いて、8mm映画にこの『FTS』システムでサウンドをつけての実演が公開され、1957年 (昭和32)年10月11日、朝日新聞に以下の紹介記事が掲載されました。
“ 従来も世界各国でいろいろ試みられていたが、完全に同調させるには金がかかって実用化しなかったが、この装置はテープレコーダーと一緒で七万円見当の簡便なもの。八ミリカメラの生産は最近グングン伸び、昨年の月平均千五、六百台がいまは約三千台、年内には五千台に達するといわれているが、この装置が出回ればもっと伸びるかもしれない。”
「朝日新聞」10月11日より
ところで、『FTS』開発のきっかけとなった井深大と友人の飯倉重常ですが、こんな後日談が残っています。
“ 二人は趣昧が合うのでしょうか、ある話がトントンと進み、ついに私が引っ張り出されてしまいました。
その話というのは、ドイツのメルクリンの模型鉄道のNゲージをさらに精巧に作って、趣味の模型鉄道として売り出したいので、私にも手伝ってほしいとのことでした。
子どものころによく遊んだ鉄道模型を懐かしく思い出しましたが、今回はトランジスタを使って、電車のスピードコントロールなどを考えることとなりました。飯倉先生はメカの製作を引き受けて、ついに井深さんの肝入りで会社を設立し、本格的に模型鉄道会社を発足させてしまったのです。”
『ソニー技術の秘密』第3章より
文:黒川 (FieldArchive)
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