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専売という歴史的な側面からタバコと塩の正しい情報をつたえる 〜 『たばこと塩の博物館』 前編

『企業博物館』インタビュー (2) 

単に収集した資料を展示するにとどまらず、日本専売公社(設立当時)が扱う専売品であったたばこと塩に関する文化史・産業史などの調査研究や資料収集を行い、系統的にたばこと塩の正しい情報を伝え、たばこ産業・塩産業の理解と周知をはかる
(設立趣旨:常設展示解説ガイドブックより)
interviewee:千々岩様 (たばこと塩の博物館 館長)   、袰地様 (同館 広報担当主任)
interviewer:木原(フィールドアーカイヴ 代表)
(インタビュー収録:2019 / 12 / 27 )

「たばこと塩の博物館」ができたきっかけは?

広報:当館は現在JTの博物館ですが、渋谷に館をつくった時は『日本専売公社』だったんですね。
そのさらに前身の『専売局』というところが、だんだん日本の喫煙文化が煙管 (きせる)から紙巻きたばこに変わっていき、江戸時代以降続いてきた日本のたばこ文化が失われていくということで、1930年代頃から煙管 (きせる)が描かれている浮世絵であるとか、喫煙具そのものであるとかを蒐集しはじめたのがきっかけです。

当時、大蔵省専売局長官だった 佐々木 謙一郎(ささき けんいちろう、1882 - 1953) 氏が「集めよう」と声をかけた頃というのは、不景気だったこともあり、公家や大名家などの中には没落するところも出てきて、自分たちが持っている銘品を売り出してしまっていた時期で、それが海外に流出してしまうということもありました。それらの品々の中から目利きの人達が購入、蒐集して当館の基本の資料は成り立っているので、結構な銘品があるのです

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資料は公社に関係した催しなどで公開されてきたものの、次第に「常時一般に公開できるようにしたらどうか」という声が公社内外から高まってきて、1974 (昭和49) 年 「たばこ製造専売70周年記念行事」の一つとして博物館の設立が決定されました。

そして1978年 (昭和53) 11月 に 東京渋谷・公園通りに『たばこと塩の博物館』が開館しました。元は日本専売公社の社宅があった場所です。

館長:渋谷の博物館は耐震性や老朽化の問題とか、さらに収蔵品がどんどん多くなってきて手狭になってきたという問題もあって、2015 (平成27) 年 に墨田区横川に移転、リニューアルオープンしました。

この場所ももともとJTが持っていた倉庫で、隣が工場だったんです。
今も施設はあるのですが、工場関係の倉庫だったところをリニューアルしました。

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他の博物館にはないユニークな品や見せ方とは?

――:まずユニークなのは、ここは「たばこ」だけでなく「塩」の博物館でもありますね。

館長:専売は 1900年代 の頭ぐらいに「たばこ」と「塩」と「樟脳 (しょうのう) 」の3つで立ち上がりました。
樟脳は昭和30年代で専売制は終りまして、化学製品に変わっていきました。塩についてはずっとやっていて、JTになってからもやっていましたが、1997年 (平成9) 年 に「塩の専売制」がなくなり自由化になったんです。

ではなぜそういうものを専売制にしたのかっていうような歴史も実はそれなりにあるんですけれども。

――:それは先日、じっくり館内を見学して読ませていただき、よくわかりました。たばこはいまも専売ですか?

館長:たばこはJTになった1985 (昭和60) 年に自由化されました。

――:ではJT以外でもたばこは作れる?

館長:そういう意味では半分、特別な法律がございまして、製造はJTだけなんです。国内で作れるのは。でも販売は自由なんです。
ですから海外から輸入して好きなものを売ってかまわないわけです。昔は海外のたばこも日本のたばこも専売公社を通して売っていました。

――:「たばこ」は勝手にJT独占というイメージがついていて、逆に「塩」はまったくJTのイメージがないので不思議でした。専売つながりだったんですね

館長:よく聞かれます。「塩も昔は専売だったんですか?」と。
昔、「三公社五現業 (さんこうしゃごげんぎょう) 」(→ Wikipedia) があり、官業、国が行う事業、のような形でした。

広報:いまの中学生高校生、大学生でもあやしいのですが「専売」ということがもう言葉としてピンとこない世代がけっこう多くなってきていて、以前だと「たばこと塩、なんでですか?」と聞かれて「専売だったからです」となったんですが、もうそういう感じの会話は成り立たなくなったので、「専売とはなんぞや」という話からしなければならなくなってきました。
当館は、当館の成り立ちをご説明すること自体がなかなか、細かく入っていくと難しいですね。

館長:ですから歴史的なこともあるんですけれども、

結果的に「たばこ」に関係する博物館っていうのはここしかないんです。

「塩」は地方にも若干、塩関係の資料館みたいなものはありますが、当館が最も「塩」に関しても大規模に扱っている博物館でしょう。

――:ほぼ実物大の宗教的なレリーフや像などの複製展示物が飾ってあって、驚きました。

館長:例えば『塩のキンガ像』。これは、ポーランド共和国のヴィエリチカ岩塩坑という非常に世界的に有名な場所で、岩塩の中をくりぬいた坑道の中に彫刻がされているのですが、当館が墨田に移るにあたって「スペースもできた」、「天井も高い」ということで、この像をモチーフに、特別に許可をもらって現地の岩塩で制作しました。博物館に岩塩彫刻があるのは世界でも珍しいでしょう。

広報:塩を掘り出すというのは非常に危険な作業なので、現地ではキンガ像は信仰の対象になっています。今回、当館のオープンにあたって、実際にヴィエリチカ岩塩坑の坑夫さんかつアーティストの方に現地で、現地の塩を使って彫ってもらって、それを船便で持ってきたものなんです。全部塩、岩塩です。この像もヴィエリチカの岩塩ですし、この背景とかアーチとか床も全部岩塩です。しかもキンガ像は2メートルくらいありますが、パーツごとに作って後でくっつけたのではなくて、一つの岩塩の塊から彫り出しています。

(インタビュー収録:2019 / 12 / 18 )


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