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FIDFF2021 作品紹介⑤ - 九州ドキュメンタリスト特集

なぜFIDFFでこの特集をするのか

FIDFFでは2017年から、ノンコンペの年は必ずテレビドキュメンタリーの特集を企画しています。

なぜインディペンデント映画祭でテレビ作品を?と思われるかもしれませんが、特に深夜帯に放送される無スポンサー作品の多くは、各局に在籍するディレクターやプロデューサーの個人的熱意によって、仕事以外の時間を捻出して撮影・編集された作品が多く存在します。つまり、制作過程が自主映画に近いのです。

近年は『はりぼて』(富山チューリップテレビ)、『夢は牛のお医者さん』(テレビ新潟)、『ふたりの桃源郷』(山口放送)…などなど、地方局のドキュメンタリーから多くの劇場公開作品が生まれ、ヒットもしています。

FIDFF2017では『ぼくの、メリット』(MBC南日本放送)、FIDFF2019では『ヤメ暴』(CBCテレビ)と、放送にとどまらず、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルなどでも高評価を受けた作品を上映してきました。

今回は「九州ドキュメンタリスト特集」と銘打ち、九州を拠点に、自らの意志と取材力をベースに、地域と生活に根差した傑作を全国に送り出しているふたりのディレクターと、その作品にスポットを当てます

各作品紹介

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上映作品①『うちの子 ~自閉症という障害を持って~』
(ディレクター:神戸金史、2006、47min)

毎日新聞時代には雲仙普賢岳の大火砕流に関する取材・著作、RKB毎日放送(福岡)では『シャッター 報道カメラマン 空白の10年』『イントレランスの時代』を送り出すなど、新聞記者とドキュメンタリーディレクターの両方で、この30年間さまざまな作品を送り出してきた神戸金史さん。

この作品は、自閉症を持つ神戸さんの長男を主人公に、その生活・成長と家族とのかかわりをカメラに収め、2006年の発表後に大きな反響を呼び、各種放送賞も受賞しています。

それから10年後の2016年、神奈川・相模原の津久井やまゆり園で起きた、元職員による入所者をターゲットとした大量殺傷事件を機に、神戸さんがSNSに綴った長男へのメッセージが大きな反響と共感を巻き起こし、この作品は再び注目を集めることとなります(神戸さんはその3か月後『障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。』という著作も出版)。

2020年、犯人に死刑判決が出た際、神奈川県の黒沢知事は「社会全体で犯人の思想を否定すべき」とコメントしています。しかし現実には、「世の中の役に立たない」「生産性がない」という基準で誰かの存在を否定する傾向は、更に強くなっていないでしょうか。

発表から年月が過ぎても問いかけの多い、神戸さんの代表作です。

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上映作品②『水俣病 魂の声を聞く ~公式確認から60年~』
(ディレクター:吉崎健、2016、59min)

ジョニー・デップが写真家のユージン・スミスを演じた『MINAMATA』が9月に公開され、原一男監督による6時間を超える大作ドキュメンタリー『水俣曼荼羅』が公開間近ということもあり、今年は水俣病への関心が再び高まっています。

『水俣曼荼羅』は撮影期間15年とされていますが、九州には約30年に渡り水俣を映してきた人がいます。それがこの作品のディレクター、吉崎健さんです。

吉崎さんはNHK入局後すぐ、故郷・熊本に赴任。以来、93年から97年にかけては東京にいたものの、その後は再び九州を拠点に水俣病、諫早湾干拓事業、生活困窮者支援の現場などを追った、優れたドキュメンタリーを撮り続けています。

吉崎さんと水俣、ドキュメンタリーとのかかわりに関する詳細はNHK放送文化研究所の下記ページをご参照ください。

今回上映する『水俣病 魂の声を聞く』は、タイトル通り「公式確認60年」に合わせて撮られた作品です。

大きな驚きを呼んだのは、チッソ社員ながら水俣病患者の支援者となり、40年に渡って当事者への聞き取りを続け、テープ800本もの記録を残してきた岡本達明氏(大著『水俣病の民衆史』著者)が初めてテレビ取材に応じたこと。
更にはその音声記録や土本典明監督作品の引用、取材によって得た患者・家族の声の積み重ねで構成された集大成的な作品です。

この60年以上の間に何があったのか。そして水俣を「終わったことにさせない」とはどういう意味かを強く意識させてくれます。

九州には継続的にドキュメンタリーの題材となる歴史的事象が数多く存在しますが、長崎への原爆投下と水俣病は、世界的なテーマでもあります。水俣に関する様々な作品がスポットを浴びる今だからこそ、吉崎さんが写した水俣を観てほしい…という思いから、今回の上映を決めた次第です。

(執筆:プログラミングディレクター・大塚 大輔(ブログはこちら)、 編集:Aika TACHIBANA

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