表裏を理解する女の話

あたしは幼少期からお茶ばかり飲んで育ってきた。
特に緑茶をぱかぱか飲んで育った。
緑茶を飲まない日はなんとなく気分が悪く、一日に1杯は飲まないと調子が悪いような感じがする。
白い花が色水を吸い上げて染め上げられるかのように、某暗殺一家の息子のように、あたしの体はカテキンに適応している。
あたしはそんな自分のことをカテキン星人と称している。

小学校の家庭科の時間、お茶をいれてみようといった内容の授業があった。
あたしは普段からお茶は当たり前のようにいれて飲んでいたので、何を今更と考えていた。
しかし、周りの反応は「お茶なんか苦くてまずい」だった。
この時、自分は何やら他の同年代とは違った生き方をしているのかもしれないなと感じた。

時は飛んで大学生になったあたしは、サークルの仲間の趣味を聞いて新たな世界を知る。
それは「紅茶を集める」という趣味だった。
紅茶、ティーバッグで何気なく飲んではいたが、集めるほど種類があるのか...!?とやや衝撃的な新事実だった。
早速あたしは紅茶屋さんを調べる。
あたしは、お茶の世界は広く、様々な香りや味があることを知る。それはそれは面白い発見だった。
それからは新たな味と香りを求めて、不思議なフレーバーのお茶に惹かれるようになった。

大学の課題、夜中の作業や、寮の仲間とのお茶会など、いつでもあたしはお茶と共にあった。
1ヶ月だけの社会人時代も、友人からプレゼントされた特別なお茶や、自分で好んで買ったお茶は、辛い生活の中の数少ない心の拠り所のひとつだった。

そして、あたしは今、お茶の専門店でアルバイトをしている。

どうせ落ちるんだろうなと思いながらアルバイトの面接を受けに行ったその日の夕方、まさかの合格通知が届いたのである。

大学時代のバイト探しも、就職の時も、あんなにも誰もあたしを拾ってくれなかったのに、あまりにもあっさりと、それも好きな事でのアルバイトが決まってしまった。
本当に驚いた。
人間の縁や運命というのは不思議なものであると、そう思わざるを得ないと思う。
好きなことを仕事にできるなんて、信じられなかった。嬉しいよりも「...ドッキリ?」と頭に過ぎったのが先だった。
何はともあれ、こんな誰にも愛されない失敗作なあたしにも、良いことや嬉しいことはまだ起きるんだなと思えた。
オレンジ色の夕焼けが美しい日だった。













ただ、そのアルバイト合格通知が来た瞬間に9年近く飼っていた最愛のペットが死んでしまった。
あたしは改めて、良い事の後ろには絶対に最悪が潜んでいると再確認してしまった。

あの子が死んでしまうくらいなら、受かりたくなかった。
そう思ってしまった。

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