pellicule

「あいつさ、死んだんだって。」

めざまし時計よりも十五分ほど早く僕を叩き起こしたiPhoneから、そんなセリフが聞こえた。

もう、五年は会ってない友人。昔はよく、流星群を待って校庭に集まったり、ばかなことをして過ごしていた。

ひどく喉が乾く。僕はキッチンに向かいながら、目を刺す木漏れ日を拒むようカーテンを閉める。

「つい昨日のことだったんだよ、死因は確か…」電話越しの知人が言うや否や僕はiPhoneをベッドに投げ捨てた。
交通事故だろうと、通り魔だろうと、治らない病だろうとなんだろうと、変わらないのだ。
もう、いないという事実は変わらない。

死ぬというのはそういうことだ。
その存在証明だけを残して、概念がなくなってしまうということだ。
そこに、何で死んだだの、何があっただの、はっきりと言ってどうでもよかった。少なくとも、今の僕にとっては。

「なんか時間ばっかり流れて、星なんか流れないね。」
あの日流星群を見に夜の校庭で1.2時間寝そべっていた時、君がポツリと言った言葉をふいに思い出した。

そうだよな、待ってたって星なんか流れない。だから君は行ったんだろう?待ってたって流れないから、わざわざ星をとりに行くために、随分と遠くまで。

「泣けて、笑えて、怒れて、自由でさ。いきるって、そういうことだと思うんだよね。いまがいまが過ぎてゆくこと。そういうことだと思うんだ。」
今日と同じよう気分が悪いほど天気の良い日曜に、取るに足らないことをきっかけにして、僕が家中の窓という窓の目張りをしていたら、君はそう言ってくれたっけ。
言葉ってやつは、質量もなければ実像もないのに、こうにも重たく、その実体だけは記憶に残るんだ。

なあ、忘れてないよ。僕は。
芯から寒かったあの夜の校庭で、唯一暖かかった君の手のひらを
君の機嫌がいい時いつも歌っていた、名前もわからないあのメロディを

「時間ってやつは、止まっちゃくれないんだよねぇ。遅くなったり早くなったりはしても。止まってくれないんだ。疲れちゃうよね。」
その時の表情を、声色を、僕は一生忘れられないだろうなぁ。

氷のなくなったマッカランをぐいとあおって、少しだけ笑ったのち、堰を切ったように、泣いた。

君がこの世からいなくなったと同時に、いまどこかで産声が上がっているのだろう。それが、生きるってことだから。永遠なんてものは存在しないから。

僕もいずれそっちに星をとりにいくよ。遅かれ早かれ、時間が止まることはないから。決して。
だから、今日だけは戻らない日々を思い出すことにするよ。
今日だけ、今日だけは。思い出して笑うよ。

だから君も、笑ってくれよ。

またその時が来たら、一緒に流星群を待とうな。
来るはずもない、流星群を。いつまでも、いつまでも。

それまでは、おやすみ。

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