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『無限部活学園』を読んで

前置き
 僕は自分が大好きです。
 だから、吐いた言葉が自分の首を絞めないように、あんまり誰かを指差して「つまんねぇ…」とか言わないようにしています。というか、そうした作品を読んだところで、何かを思うより先に眺めた傍から忘れていきます。

 例えるなら———僕は毎朝ジョギングします。途中の公園で体操します。そこで暑さにやられたミミズの死骸にアリがたかっているのを見ました。
「膝が痛てぇ」
 と屈伸しました。時計を眺めると、いつもより数分遅れで公園へ到着していたことに気がつきました。
「だから、今日は少し時間掛かってんのか…」
 な~んかちょっぴり負けた心地になりました———と、まさにこんな感じです。

 今さら無理にミミズを思い起こすと「砂鉄さてつまみれになって打ち捨てられた棒磁石」……こんな、随分と恰好つけた言葉が浮かびました。その実、あんまり憶えていません。

 でも、様子が伝わりさえすれば良いので「文学的か?」とか「狙い過ぎてないか?」とかを気にすることもありません。よしんば、うまく比喩できたところで……だから何?

「なんか今年は死んでるミミズよく見るなぁ」のまま取っておけばいいのに、こうして言葉を与えてしまえば、僕にとっては最早もはやそれまで。アリの集ったミミズの死骸を見るたびに「砂鉄磁石」と思うでしょう。

 言葉で片付けられてしまった事象=この世界の不思議の上に、また一つ言葉の墓をたてただけ。なので、何にも面白くありません。

 ところで、他人を悪し様に言わなくなれば(SNSでも友人らへも)、何故だか不思議と「面白い」と思うことまで減りました。
 すると次第に「FFは6まででいいや」とか「やっぱロマサガ最高」とか……昔から変わらず好きなモノに、しがむようになりました。本だって、手元にあるものしか読まなくなるし。

本題
 こうした具合に老害待ったナシの僕ですが……この作品に出会った際は、物凄い衝撃を受けました。
「面白過ぎるだろ…」
 と、我を忘れて読み耽りました。
 それはもう「あんぐり」と声に出すほど口を開け、いっそ「どんな角度で齧ろうかな」とPCモニターに齧りつきながら、独りそわそわ興奮したり、あるいはゲラゲラ笑っていました。 ※作中の表現を真似してみました

 というか、あらすじにあるのでネタバレしますが「私立馬辺留坂ばべるざか高校」を目にした時点でハマっています。こんなに語呂のいい言葉、生まれてこのかた初めてです。

 気付けば次の言葉へ、次の言葉へと気がいて、あっという間に読み終えていました。
 作品を読み終えて以降は、
「ヤバイ作品に出会った。ほんと天才過ぎる。絶対読んで。なんていうか、面白い=説明しようがないを証明したみたいな……ホントに、この面白さは口じゃ説明できないって。読めば分かるから、いいから早く」
 と、僕の周りの人間へ『無限部活学園』を押し付けてばかり。

 で、例えば僕にも真似することは可能です。
 まず、内容は総じて「常識外」
 これを再現するなら……題名からして既にそうですが、発想の転換というか逆転というか、そんな方法を利用します。

 部活動は、その学校に存在するものの中から選ぶか、自分で作るしかありません=有限。
 それを無限に変更することで発想力(想像力)を鍛える——というのは、文章を綴られる方ならよくやる練習法の一つではないでしょうか。

 これ、ビジネスでもよくありましたよね。
 もう「白だ」と思い込んでいる物を想起し、それを黒に変えて、ビジネスモデルを考えてみてくださいみたいな。 ※僕もどっかで「黒救急車=金持ち専用の優先車。医学生の現場研修がてら」みたいなのを考えた気がします。

 これはホラーが得意な方の発想によく見られる傾向です。

 例えば「部屋の電気を点ける」とあれば、僕のような凡人はまず「スイッチが一つ」だと思い込んじゃいます。でも、先述の逆転を利用すれば……

「部屋に入る。暗い。電気を付けよう。だが壁にも、天上にも、床にも不規則に同じ形のスイッチが無数に並んでいる。闇の中で、それをポチポチやり続ける。もはやどれを押したのかも分からない。暗い。どれだけの時間が経ったかも分からない。ようやく当りのスイッチに出会った。一筋の灯が降った。それは天から降った光。目にしたときには———」みたいな感じ。

 僕に書けるのはこの程度です。
 百壁ネロさんの作品を読んだ際には度肝を抜かれました。
「同じ土俵じゃ絶対勝てねぇ。あ~あ。やめだ、やめ。だったら俺はリアルと胸糞を追求しよう」
 と、ある意味諦めも付きました。
 ネロさんならきっと「部屋の電気を点ける」という設定ひとつから、とんでもない内容のお話を繰り広げてくれるはずです。

 僕が人を苦しめる内容ばかりを書くようになったのは、すべてこの方の才能を目の当たりにし、完膚なきまでに叩きのめされ、それでいて至極晴れやかな気持ちだったから……と、僕回りの人間に伝えています。

「いいじゃん。全部当たった」なんてバッティングセンターで浮かれていたら、ふと端のほうにあるテレビで、大谷翔平選手が訳の分かんねぇ記録をバンバン打ち立てているようなもんです。

 この作品では(というか、ネロさんの作品すべてが)有り得ないほどの文章力や構成力や……に裏打ちされたコミカルな超展開=圧倒的カオスを目にすることとなります。

 訳なく散りばめたように思われる言葉の一つ一つにもネロさん自身が宿っており、しかも自信に満ち満ちている様まで丸分かりなので、こちらもただ楽しんでいられます。

 これから皆様も「部活の数が多すぎて決められない」というお話を眺めます。が、正直言って……ただそれだけの内容なのに、ここまで書けるはずがないと思い知るはずです。

 ファンキーでポップ、その実割とホラーで……と、常に予想外の展開を浴び続けることでしょう。あとは「ぬぎゅ花」とか「蟹部」とか、多分この世でこれ以上知らない言葉に出くわす機会もありません。

 例えるならば、言葉のむしろ。限界突破した日本語。四字熟語では納得いかないから文章として溢れだした阿鼻叫喚。
 もう、自分でも何を言っているのか分かりませんが、この壮絶な言葉地獄を……もとい、素敵な学園生活を皆様も是非。僕と一緒に堪能しましょう。

 ここまで「早く続きが読みたい」作品は僕にはよっぽどまれでした。

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 以下は私見です。
 若干メタいことを書きます。
 また一言二言ネタバレを含みますので、まずは作品をお読みになられてからをお勧めします。

メタ感想1 
 作中に巨大な塔が出てきます。
 で、これ、外見に触れない。というより、他の様子に比べて曖昧。というか、作品世界の中では珍しいほど抽象的。それほど具体的な描写が多いです。

 僕はここに「ネロさんの絶対的な自信の顕れ」を見ています。
 つまりは才能の金字塔。

 で、前置きで「僕の言葉は墓」みたいに書きました。
 これは文章で「これはこう。だから、こうなる」と出来事を伝える際、それになんとか既存の言葉を与えて置き換えていく=霊園のように墓を並べていく書き方です。

 ネロさんの場合は「どんな言葉からでも、人の想像以上の花を咲かせる」な感じ。なので、言葉を自由自在に操る創造主な感じ。そんな創造主による世界=言葉のエデンみたいな感じで、文字が活き活きしています。

 僭越ながら比較させてもらえば……
 僕は「何にもならない死」を書きます。三軒先で起こってそうな話。
 ネロさんは「光あれよ」な独自世界を創造する絶対神です。

メタ感想2
 ひとつだけ危惧していることがあります。
 文章作品としてはダントツに違いありません。「マジで敵なしに面白い」と、自分大好きな僕が、自分の周囲に触れ回って憚らないほど圧倒的。

 で、漫画原作部門へ応募されるお気持ちも分かる気がします。
 きっと、まだ目視したことのない漫画を楽しみにされてのことだと思うのですが……どうにもそれを絵におこす漫画家さんが二の足を踏むのではないかと。

 ここまで文字のみで完成していると、絵で余計なことをしづらいと思うんですよね。「絵が無いほうがいい」は避けられないにしても、原作の脚を引っ張る訳にいかない……の重圧もヤバいでしょうし。

 絵って「生きるのが苦しくなければ描けない」と美術関係の友人に聞いています。なので、初めは忠実に描くと思うのですが、いずれムクムク我が出てきて衝突するんじゃないかなぁ……とも。

 しかも作品が、そんじょそこらの馬じゃない。
 赤兎馬なので、それを上手に御する人=呂布なんている?
 何であろうと絵にすることが好きで好きで堪らない変態なら……と思いますが、そうじゃなければ「AIに描いて貰って。どうぞ」とか言われそうだよなぁと。

 そういった意味合いでも「漫画になったら本当にどうなるんだろ?」で未知数すぎるので、是非、漫画で眺めたいと願っています。

結論
 大ファンです。
 これからも唯一無二な作品を心待ちにしております。