「無限部活学園」本編 第1話

《部活動は“無限大”》
 私立馬辺留坂ばべるざか高校は、部活動が非常に盛んです。
 生徒の部活動加入率はほぼ100パーセントで、全国大会常連という実力派のクラブも多数ありますが、何より我が校には、すべての部活動が存在します。
 すべてとは「この世に存在するすべて」であり、さらに「この世に存在しないものも含めてすべて」です。
 言い換えれば、我が校には部活が“無限”に存在するのです。
 あなたが頭に思い描いた理想のクラブや、想像だにしなかった個性的なクラブと出会って、ぜひ“無限大”の青春を満喫してください。

* * *

「あの……この『すべての部活動が存在する・・・・・・・・・・・・』って、要するに、どういうことなんですか……?」
 私は、手に持った入学案内パンフレットの、《部活動は“無限大”》のページを見せながらそう言った。
 今は、入学二日目の放課後。
『部活動総合管理委員会室』という大げさな名前のわりに四畳半ぐらいしかない極狭ごくせまな部屋を訪れた私は、机を挟んで向かいに座る『部活動総合管理委員長』の先輩に、疑問を投げかけている真っ最中だ。
「あーねー、まあわかんないよねー普通」
 先輩がニカッと歯を見せて笑う。
 メイクばっちりでまつげバサバサで耳は両耳ピアスびっしり、左が激長げきながで右が激短げきみじかなツインテールの髪色は赤と青と緑の三色に分かれていて、制服は黒と黄色とピンクの三色構成(ピンク多め)という、私の着ているノーマル制服とまったく違う奇抜なオリジナルデザインで、総じてめちゃくちゃ目立つ容姿の先輩(顔もアイドルばりに綺麗)。なんだろう、入学のしおりに「自由な校風が特徴」って書いてあったけど想像のはるか上をいく自由っぷりだなあ、制服改造とかしちゃっていいんだ。それに比べて私の地味さときたら……無個性黒髪の無個性ポニーテール、これといった特徴のない顔……。ううーん、個性の塊中の塊な先輩になんだか憧れを抱いてしまう。
 そんな私の憧れっぷりなど知るよしもなく、先輩は笑顔で私に喋りかける。
「簡単に言うとねー、どんな部活でもぜーんぶあるよってことなんだけど。……えーと、なにちゃんだっけっか」
「あ、一ヶ原いちがはらです。一ヶ原いちがはら三々音みみねと言います」
「一ヶ原ちゃん、いっちんねー。あ、ちなみにあたし十色じっしきなな。じっしーって呼んでねー」
「あ、は、はい……えと、じっしー先輩って、呼ばせてもらいます、はい」
 たどたどしく私が言うと、先輩は、なにやら満足げに微笑んで、
「おおーいいねえいいねえ、そのおそるおそる感! 新入生っぽさ丸出しって感じだね!」
「ま、丸出し、あはは……」
「でもあたしほんと嬉しいよー、こんなに部活に興味持ってる子が入学してくれてさー。だっていっちん、こんな校舎の隅っこにあるへんぴな部屋をわざわざ調べて訪ねてくれたってことは、そんぐらい部活に興味津々ってことだもんねー? っしょ?」
 人なつっこい笑顔を浮かべて、こくっと首を傾げるじっしー先輩(かわいい……)。津々かどうかは置いておいて、なんらかの部活に入りたいという気持ちは確かに強い。ので、
「そう、ですね、はい」頷いて肯定する。
「だよねだよね! いいよねー部活。学生の特権! 青春の神髄! 人生のピークポイント! 部を制するものは活を制するってね!」
「は、はあ……」
 なにやらボルテージがぐんぐん上昇していった結果、握った拳を高らかに掲げて声を張り上げるじっしー先輩。そして私は、そんな先輩にちょっと追いつけないでいる。
 と、先輩は、ふ~っと一息つき、私に向き直って、
「んで、いっちん。話戻すけど、なんでもいいから適当に頭に浮かんだ言葉言ってみ」
「え、なんでも、ですか? ううーん……」
 言われて、考えること数秒。
 私の口から出た言葉は――、
「……蟹」
 するとじっしー先輩は、腕を組み、うんうんと頷く。
「いいねー、蟹。おいしーよねー」
「おいしいですよねぇ……」
 うんうんと頷き返しつつ、人知れず口の中に唾液が溜まりつつある私。
 と、先輩は、私の顔のど真ん中を人差し指でズビシッと指さして、
「あるよ、『蟹部』」
「……へ?」
 ぽかんとしてしまう。
 じっしー先輩はニカニカしながら言葉を続ける。
「ほらほら、もっと言ってみ。好きな言葉」
「え、えと……伊勢エビ、フカヒレ、うなぎの蒲焼き……」
 思いつく限りの言葉を並べる(そして唾液がどんどん溜まっていく)。それに合わせて先輩は、うんうんとリズムよく頷きまくる。
「てか、なんか高級な海の幸ばっかだねー」
「あ、あはは……おさかな、好きなもので……」
 なぜだか照れてしまう私。すると、じっしー先輩は胸を張って得意げな様子で、
「『伊勢エビ部』『フカヒレ部』『うなぎの蒲焼き部』、全部うちの高校にはあるよ! それどころか『フカエビ部』とか『伊勢の蒲焼き部』とか『うなぎ蟹ヒレ部』とか、そういうのも全部あるっ! どうだーっ!」
 ええー……?
「あの、『伊勢エビ部』って何をする部活なんですか……?」
「知らない」
 即答する先輩。え、ええー……?
「というか、『うなぎ蟹ヒレ』ってなんですか……?」
「知らない」
 またしても即答。え、え、ええー……?
「知らないけどー」先輩は言う。「あるんだよね、そーゆー部活がうちには。なにせ『すべての部活』がある学校だからねっ!」
「なるほど……」
 と言いつつ、ううーん、まだ全然よくわからない。
 と、そんなもやもやした私の心中を察したかのように、じっしー先輩がズバッと言う。
「よーし、じゃさ、今から一緒に行ってみよっか部活見学っ!」
 そして先輩は、爽やかな笑顔でキラキラッと笑うのだった。
* * *

 突然だけど。
 私が暮らし、そして私が入学した高校があるこの街には、めっちゃくちゃ巨大な塔がある。
 どのぐらい巨大かっていうと、街中のどこにいても絶対にその姿が見えるぐらい。と言っても、上の方は雲に隠れていて見えない。ので、その全貌はわからない。そのぐらいの巨大さだ。ついでに言うと、今までこの街で暮らして十数年、その塔がなんのためにある建造物なのかは全然知らずに生きてきた。……のだけど、
「着いたよいっちん、ここがうちの部室棟っ!」
 校舎を出て歩くこと数分。
 私の前を進んでいたじっしー先輩が、くるっと振り返って私に言った。先輩の背後には、くだんの巨大塔が、ずずーんっとそびえ立っていて……ええー、これ、うちの高校の部室棟だったんだー……。
「あの、先輩、部室棟、サイズ凄まじすぎませんか……?」
「まーなにせ『すべての部活』があるからねえ、これでも足りないぐらいだよー。まあ、足りてないから常にどっかしら工事中なんだよね。だから永遠に未完成」
「永遠に……」
「あーあとね、『部室棟』って言ったけど別に部室だけじゃなくて、トレーニングルームだったり用具倉庫だったりグラウンドだったり合宿所だったり、部活に必要な施設も全部この中に作られてるんだよー! めっちゃ便利でしょ!」
 得意げな顔で熱く語る先輩。対する私は、情報量が多くて正直あんまりついていけてないけど、ひとまずわかった風に軽く頷いておいた。なんだろう、入学案内パンフにうちの高校は『部活動が非常に盛ん』とか書いてあったけど、盛んすぎるにもほどがある気が。……というか、
「先輩、ちょっと気になってたんですが」
「んーなになに?」
「なんかこのへん、いろいろ落ちてませんか……?」
 言いながらあたりをぐるっと見回す。塔の入り口前に立つ私たちの周りには、サッカーボールやバスケットボール、野球のバットや柔道の帯、舞台照明、将棋盤、ギターにベースにドラムに絵筆、魚とベッドと日本刀、ピザ窯、泡風呂、竜巻発生器などなど、大きさもジャンルも何もかもがバラバラな、無生物と生物が乱雑に転がりまくっていた。
「あーこれね、部室の窓から落ちてきたんじゃないかなー」先輩はそう言いながら、上を眺める。「部室棟、あっちこっち工事しまくってるせいで、窓が閉まらなくなったり、床が傾いちゃってたりする部屋もあるからさー」
 という説明のまさにその最中、じっしー先輩の背後に、ずぅんっ! とグランドピアノが落ちてきた。なかなかの震度で地面が揺れた。なんなら私、一瞬ちょっと宙に浮いた。……いやいやいや、
「あ、あ、あの先輩、早く中に入りましょう……!」
「おおー、いいねーその部活に対する熱意! 入ろう入ろう!」
「いや、そういうわけではなく単に危ないので……」
「いざ、めくるめく部活の世界へ~!」
 私の訂正を聞かず、先輩は謎のかけ声と共に入り口の扉をずずずずず……っとゆっくり開けて(鈍い光を放つめちゃくちゃ重たそうな鉄の扉)中にたったったーっと入っていく。慌ててたったったーっと後を追う。
 そうして部室棟に足を踏み入れた私の目に飛び込んできたのは――意外というかなんというか、結構普通の、いわゆる「部室棟!」という感じの光景だった。ちょっと煤けた灰色の壁と同じく煤けた薄茶色の天井、蛍光灯ちょい暗めな長くて狭い廊下、壁に掛かった掲示板には手作り感丸出しのポスターやビラが賑やかに貼られていて、左右の壁には青色のドアが等間隔にずらずらっと並び、ドアの窓部分にはこれまた手作り感丸出しの掲示物が貼られていたりいなかったりで……ううーん。
 なんだか拍子抜けして、逆にぽかんとしてしまった。
 そんな私に、じっしー先輩が笑顔で言う。
「どう? 思ってたよかわりと普通?」
「そう……ですね。なんか、安心しました」
 実はちょっとがっかりもしたんだけど、それは言わないでおいた。
 と、先輩は、うんうんと頷き、
「よーし、じゃあまずはどこ行こっか。『蟹部』にする? それとも『伊勢ヒレのキャビア焼きフカ部』がいい?」
 完全に初めて聞く言葉の組み合わせの部が出てきたけど、まあ、たぶんその部活もあるんだろう。ううん、と私は少し考えて、
「最初は、もうちょっと、なんというか……オーソドックスな部活から見てみたいです」
 と答えた。
「おお~、なるほどー、通の意見だね~」
「つ、通……?」
「じゃーねーそれなら……あ、美術部にしよっか! うんうん、そーしよー!」
 ハイテンションに声を上げ、先輩はすたすたと廊下を歩き始める。美術部。おお、すっごく普通。いきなり伊勢ヒレのなんちゃら部を見せられる衝撃より俄然いいなと思いながら、私は先輩の後を追った。

* * *

 ――――いったいあれから、どのぐらいの時間が経っただろう。一時間? 二時間? いやもっと?
 結論から言えば、まだ私は美術部の部室に辿り着いていなかった。
 先輩の後ろをとことこついていきながら、廊下の角を右に曲がって左に曲がって、また右に曲がって左に曲がって、階段を昇って降りてまた昇り、時には他の生徒とすれ違って、そして他の生徒に追い越されて、たくさんの青いドアの前を通り過ぎて、エレベーターに乗って降りて乗って降りて乗って降りて乗って降りて、エスカレーターにも乗って降りて乗って降りて乗って降りて、そして歩いて、歩いて、歩いて……。
 で、今に至る。
 もうここが何階のどのあたりか、完全にさっぱりだ。
 一方、前を行く先輩は、この部室迷宮をいっさい迷う様子も疲れた様子もなく、すいすいと軽快に歩き続けている。ううーん、すごい記憶力と体力。
「……あ、あの、せ、先輩」
 息も絶え絶え先輩に声を掛けると、先輩は振り返らず歩き続けながら、
「ん? あートイレ? ならねーそこの角曲がって最初のドア入って中をまっすぐ進んで突き当たりの右から三番目のドアを左手で七回右手で二回ノックしてから目をつむって十秒数えて」
「いやあの、トイレじゃなくて、というかなんですかその儀式めいた手順……!」
「あ、トイレじゃないのかー。どした?」
 くるっと振り返って私を見る先輩。その表情にやはり疲れはゼロ。すごい。
「えと……あの、私、別に美術部じゃなくても大丈夫です。というか、このへんの適当な部室で大丈夫です、部活見学」
 しどろもどろに言うと、先輩はぽかんとした顔で、
「あ、そー? そんじゃこのへんの適当なとこに入っちゃおっかドーンっ!」
 言うやいなやいちばん近くのドアに思いっきりタックルするってええーっ!? ダイナミック!? 慌てる私を後目に先輩はタックルの勢いそのままに部屋の中へ突入していく。
「し、失礼します~」
 言いながらおそるおそる中に入ると、その部屋は、見た目的には部活動総合管理委員会室(というか長いなあこの名前……)と同じ、狭くて殺風景な部屋だった。ただ違うのは、床に大量のサイコロが転がっているところ。靴の裏から大小様々なサイコロのボコボコ感を感じる。そして、私たち以外には誰もいない。ええっと……、
「先輩、ここは何部ですか?」
「ん? 『サイコロ部』だよ~!」
 おお、そのまんま……!
「どう? 気に入った? 入部する?」
「ええ? ああ、いやぁ……」
 口ごもる私に、先輩は言う。
「まあ、まだひとつしか見てないしね。他の部も見てみよっか! ちなみにあたし、『サイコロ部』の部員だよ~」
 と言いながら、先輩は早くも部屋から出て行く。ええー、数ある(ありすぎる)部活の中からなぜサイコロ部に入部を決めたんだろう……と考えている間に、先輩は近くの別のドアを開けて中に入っていく。早っ! 慌てて後を追うと、そこは同じような殺風景な部屋。違うのは、大量のサイコロの代わりに大量の傘が床に転がっているところ。開いた傘、閉じた傘、ビニール傘、折りたたみ傘……。
「先輩、ここは……」
「『傘部』だよ~」
「で、ですよね」
 やっぱりそのまんまだった。
「どう? 気に入った? 入部する?」
「ああ、いやぁ……」
 踏んじゃってる傘のぐにゃぐにゃ感に足を取られながら口ごもる私。すると先輩は、
「じゃー他も見てみよっか! ちなみにあたし、『傘部』の部員でもあるよ~」
「か、掛け持ちですか……!?」
 私が驚いている間に先輩はまた別の部屋へ。慌てて追う。そこは、床の上を大量の蟹が歩き回っている部屋で――。
「ここは『蟹部』だよ~」
「こ、ここがあの蟹部っ!」
 なんかイメージと違うというか、わしゃわしゃと大小様々な蟹がひしめくその光景は……ううーん、ちょっと気持ち悪い(とか思いつつちょっと唾液が溜まりつつある)。
 と、蟹たちを踏まないように部室の椅子の上に立ちながら先輩が言う。
「他の部も見よっか?」
「は、はい」
「ちなみにあたし『蟹部』の部員でもあるよ~」
「ま、また掛け持ちっ!?」

* * *

 ――それから。
 私はじっしー先輩に連れられるがまま、たくさんの部室を見て回った。
 床が布だらけの部室(『布部』とのこと)、床がペットボトルだらけの部室(『ペットボトル部』とのこと)、床が水びたしの部室(『水部』とのこと)、床が書道道具だらけの部室(『書道道具部』とのこと。書道部ではないんだ……)、床になにも転がってない部室(『床部』とのこと。そのまんま……)、同じく床になにも転がってない部室(『無部』とのこと。床部との違いが私にはわからない……)などなどなどなど、平凡な私の想像力を遙かに上回りまくったバラエティ豊かすぎる部活の数々に、私は驚くを通り越して達観し、最終的に特に何も感じなくなってしまった。そして、じっしー先輩はすべての部の部員だった。先輩いわく、この高校は部活の掛け持ち数に制限がないらしくて、つくづく『部活動が非常に盛ん』なんだなあとしみじみ。……まあ、それはそれとして。
「いや~、結構見たねー。五十ぐらい見て回ったかなー? っつってもまだまだほんの一部だけどね、なにせここには、この世の『すべて』の部活があるからね! ううーん、いいねえ、部活って!」
 爽やかな笑顔で楽しげに語るじっしー先輩。
 部室棟をあとにして部活動総合管理委員会室(ほんとに長いなこの名前)に戻った私たちは、再び椅子に座って向かい合っている。そして私は、目の前の先輩に向かって、ゆっくりと喋りかける。
「あの……」
「ん、なになにー? 入りたい部決まった?」
「いえ、ええと……私、ちょっと正直……まだどの部活に入ればいいか決めかねてまして……」
 すると先輩は、きょとんとした表情で私を見つめ返す。もうほんと、音が聞こえてきそうなぐらいの見事なきょとん顔。……ううん、なんだかすごく悪いことしちゃったような。だってこんなに長い時間かけてたくさんの部活を熱心に紹介してもらったのにまだ決められなくて優柔不断で……。なんとも言えない申し訳なさで先輩の目を見ることができず、下へ下へと視線を下ろしていった結果、私の首の角度がほぼ直角に差し掛かったそのとき。
「ま、そりゃそーだよね~!」
 あっけらかんとした声が聞こえた。
「……へ?」
 顔を上げると、そこにはニカニカ笑顔の先輩。
「だってだって、うちの高校、『すべて』の部活があるんだよ? そんな簡単に決められる方がヤバいでしょー!」
「そ、そうですよね……?」
「あ、じゃあ、いっちんもあたしみたいに全部の部活入っちゃえば? 名付けて全部の部活で青春欲張り完全最高セット!」
「いや、それもちょっと私には合わないかなぁというか凄いネーミングですね……」
 と、先輩は顎に手をやり、ふんふんと頷いて、
「そかそか。じゃあまあ、ゆっくりのんびり決めればいいんじゃないかな? 『悩めることもまた部活の神髄なり』、略して『悩部髄なやぶずい』だよ!」
 全然聞いたことのない名言とその略称が飛び出したことはさておき、先輩の言葉に、私は心底ホッとしていた。
 正直言って、私は得意なものが何もない。運動も勉強もなにもかもパッとしない、人よりちょっぴりおさかなが好きなだけのごくごく平凡な人間だ。だから高校に入ったら、なにか自分が「これだっ!」と思える部活に入って三年間全力で打ち込んでみよう、と決めていたのだ。
 でも……うん、そっか。確かに先輩が言うとおり、そんなに慌てて決めることはないのかも知れない。すうっと肩の荷が下りた気がして、私は自然と笑顔になっていた。
「……じっしー先輩、ありがとうございます。私、もうちょっとゆっくり考えてみようと思います」
「うんうんっ!」
 コクコクッと力強く頷いてくれる先輩。その様子になんだかとても元気づけられながら、言葉を続ける。
「それで、もしかしたらまた後日、この部屋に来て、先輩にいろいろ相談させてもらうかも知れません。そのときは……」
「あっそーそー、うちの学校『部活動が非常に盛ん』だからさ、部活決まってない人は基本帰宅禁止だから気をつけてね! まあ昨日は入学式の日だし委員会的には大目に見るって感じだけど、今日からは部活決まるまで帰っちゃダメだよ~?」
「あ、はい、わかりましえええっ!?」
 にわかには信じがたい言葉すぎて素っ頓狂な声が出た。
 しかし先輩は、涼しい顔ですらすらと説明し続ける。
「んで、泊まるときは部室棟の部室てきとーに使ってねー。どこでも自由に使っていいから、『布団部』とか『ベッド部』とかがオススメだよー。あ、『野原部』とか『森林浴部』で寝てみるってのも開放感あって面白いかもね! んで、洗濯とかごはんもそれっぽい部室で済ませちゃってね。ちなみにあたし、部活は入ってるけど毎日自主的に部室棟に泊まってるからなんか困ったことあったらいつでもなんでも好きなだけ聞いてね~!」
 そしてニカッと私に笑いかける。今日イチの極上の笑顔。
 対する私は……。
「えと、ええと、ええっと………………わ、わかりました」
 引きつった笑顔で、しどろもどろに返すのが精一杯。
 そのとき私は、今日、初めて思った。
 私、もしかして――――すごく、すっごく、すっごおおおく、変な学校に入学してしまったかも知れない、と。

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