11月のディストピア

最初の派遣先を退職した時のことを思い出すのは、いつもこの時季だ。
昨年からずっと続いている。

やめた時季が2年前の今月末。
今考えてもヤバい会社だったなと。
誰かがあの会社に就職(転職)する(した)と言い出したら、全力で止めるほどおすすめしない。
星5つで評価しろと言われたら、絶対星0.01個も付けたくないほど過去1で最悪だった。

夜中まで残業が続いたり、家に着いて車の中で泣いたり、自分で分からないほど何日も落ち込んだり、あの時の私は今考えても精神的に可笑しかった。

この記事を読めば分かるが、あの会社は異常だった。
開くのが面倒な人のためにざっくり書くと、
加害者(女性)は、創業当時から在籍しているメンバー(以下:お局)。
被害者(女性)は、良くしてくれた社員さん(以下:Sさん)。快活で明るい人だった。
暴言・暴力があった。
物を盗まれた。隠された。
入ったばかりの新人が数日でやめた。2人も。
休み届が水浸しの状態で事務の人に届いたこと。
自分がやろうとした仕事を奪っていったこと。
そして、もっと厄介なのは、部長(男性)ですら強く言えないことだ。

幸い、被害を受けた彼女は上層部に訴えを起こし、私が入社した1か月後に別部署に異動することが出来、私は被害に遭わなかった。

そういえば、仕事中に物を運んでいて、足を滑らせたことがある。
足を引っ掛けられたとかの故意ではなく、身体のバランスを崩した。
紫に変色し、腕を上げられないほどに片方の肩を強く打っただけで済んだが(大分負傷してるが)、近くには、テーブルの角があった。
あの時、角に頭打って、入院するか一生を終えてしまえば良かったななどと思ったこともあった。

月末での退職を派遣担当者を通して伝えたその日、部長と他の作業員で2者面談を行った。
険悪な雰囲気が続いていたとある朝に告げられたが、「どうせ何も変わらない」と私は予定の1つとして頭の片隅に置いていた。
私は夕方にやっと呼ばれた。
その時間に呼ばれた経緯も説明してくれたもののよく分からなかったが、1番最後だった。
しかし、その方がよく喋る方じゃない私にとっては好都合だった。

入って早々、「何でやめるの~?」と部長から駄々をこねられたが、「この職場が嫌だからです」とは答えられなかった(とは言え、何て答えたかは忘れた)。
面談が進んでいくうちに、何かの話の流れで私は彼女の話を出した。
しかし、部長は言う。「嘘言ってるかもしれないよ?」

私は彼女から聴いていた。
上層部に暴力を受けてついた傷や痣を見せ、「部署を変えてくれなきゃ退職する」と申し出たことを。
私は彼女のことを知っていた。
彼女は嘘をつくような人間ではないと。

私は、どう返して良いか分からなかった。
あの時の私は、弱かった。
腐っている。ただそう思うことしか出来なかった。

何故そう言えるのか。上層部から何も聴いていないのか。
お局からの指示に返事もしなかったのを見ていたはずなのに。
何故、1人の大人としてあるまじき行為をしたのに、お局はやめさせられなかったのか。
部長である彼も、社長でさえも、「お局信者」だった。
当時の私には、そう言い返す勇気がなかった。
どうせやめる身なんだから、そこでキレれば良かったのに、と今でも後悔している。

結局、本当に何も変わらないまま、私は誰に惜しまれることなく、最後の日を迎えた。
変わるべきは誰だったのだろう?
上の立場である――まるで「支配者」のような――お局や部長?
それとも私達のような下っ端?

あれから、食品製造の会社には勤めていない。
違う食品製造の会社で正社員として働いていたので、その経験が活きればと思って入ったが、扱っている物が違うからか、正直活きる物事はなく、ただただしんどいだけだった。
正社員時代は身体的な負担と精神的な負担が7:3くらいだったが、派遣時代は3:7くらいだと感じた。

あんな会社に勤めていたからこそ、変わったきたこともある。
自分の意見がある時は、(毎回ではないが)口に出来るようになったことだ。
「これは今やって良いか」「今これをやってるから、その後でも良いか」等、相手にお伺いを立てられるようになった気がしている。

そして、もう1つ。
Sさんのような職場いじめ(ハラスメント)の被害者が笑って生きられるように、ハラスメント被害者の相談員的な職に就きたいと、ぼんやりではあるが、思うことが多くなった(話すの苦手だけど)。
そういう資格を取った方が良いのかとネットで探したけど、「この資格を取った所で仕事に直結する?」と思うような物ばかりだった。
資格が取れなくても、もし、親しくなった人が、Sさんと同じような被害に遭っていると知った時、その人に寄り添い、(場合によっては、復讐といった物騒な意味ではなく)駄目なことは駄目だと言葉で伝え、行動を起こせるような心を持った人になりたいと思っている。